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書店部の内部事情  作者: 片羽京介
第一章『幽霊は舞台で微笑む』
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ラブコメ展開にはならねども(中)




「ん?どうしたんだ突然」

「いえ、特に」

「…それで、どこに行くんですか??俺なら全然暇なんでどこへなりともお供しますよ」


何か、数年感じたことのない高揚感が俺の周囲を覆っている。


間違いない、これは何か起きる!


……。


…恥ずかしいね。「ふん、愛なんてまやかしさ」みたいなスタンスだった数分前の自分が。


確か中学の頃、俺にこんなことを言ってきた友人は結局宗教の勧誘をされたとかいうオチがついていたが、こと剣崎先輩に至ってはそのような心配は杞憂というもの。


「そうか、いいのか?」

「もちろんですよ。今日は何でもしてやりますよ」

「ありがとう、助かる。ちゃんと休出手当は申請するから気にしないでいいぞ」

「ありがとうございます……ん?」


今休出って言った??

休日出勤??


…それって普通の高校生に言うのおかしくないですか??


「じゃあ行くぞ。新星大学附属第二高校に」



………。


……第二、だと…?




……。


…。




ーー自宅とは逆方向の電車に乗っておよそ50分。


都心のど真ん中にその建物はあった。


「ここっすか?」

「ああ」


俺たちは天を仰いでいた。

その建物は、雲のすぐ近くまで届いているのではないかと錯覚する。

太陽がガラスに反射してキラキラ光り、建物の頂上が窺えない。


「ここが新星大学附属第二高校??」

「そうだ」

「…いや、これ、ビルじゃないすか!?」


新宿駅から徒歩5分程のところにある附属第二高校は、今まで見たことのないスケールで俺の前に立ちはだかっていた。


地上32階、地下4階というビジネスタワーとでもいうべきその建造物が、なんと同じ名を冠する附属高校だという。


私立とはいえ、高校でこれはやり過ぎでは?


「書店部のおかげさ。と言っても、ここの書店部だが」



……。


聞けば、剣崎先輩はこの第二高校の書店部の様子を見にきたのだという。


俺たちを差し置いてそのようなことを考えるのだから、やはり生徒会長は違うな。


まあ俺も、毎月大学から送られてくる各書店部の売り上げを見て、「第二って毎回すげー売り上げだなぁ」とは思っていたけれど。それで部長に聞いたら「第二はほら、新宿だべ?」

って言われて、そこで納得していた。


うーん、田舎者にはこの発想は出来なかったぜ。



……。



「どうした?てっきりお前なら目を輝かせて書店部に突撃していくと思っていたのだが」


警備員の立っている入り口でげんなりしている俺に、先輩は肩越しに語りかけてきた。


「…待って下さい。もう少しで気持ち切り替わるんで」

「??」


いつもより上機嫌な先輩を尻目に、俺は思考回路をビジネスへと塗り替える。

ウチの売り上げ低下の解決策が見つかるかもしれない。先輩は貴重な機会をくれたのだ…。


……ここは、現実。


「…うし、行きますか」

「……。(なんでこんなに悟り顔なんだ?)」


深千代に笑いながら見下されている様を想像し、俺は急速に頭を冷静な状態に復帰させた。



……。


…。




第二高校の一階は、四方に備えつけられたエレベーターとちょっとした休憩スペースしかない簡素な場所だった。


いや、下駄箱がないとか、学生の青春ポイントなんだからそこは残そうぜ(若干ひきずっていふ)


「えっと、書店部は…」


エレベーターの前でフロア案内を見上げる。開けっ広げになっている一階は、足音が校内によく響いた。


「あった。3階と4階だな」


「に、二階建て…」


せいぜい教室4つ分程の自店と比べ、ここはやはり相当な広さを持っているようだ。うーん、早く見てみたい。


エレベーターに乗り、三階まで向かっている間、俺はここの店長がどのような人物かを想像していた。


やっぱり松方先輩みたいな人なのだろうか。


あるいは真逆の、ウチの部長みたいな奔放マイペース型だろうか。


どのような人にせよ、俺が学ぶことはたくさんありそうだ。

これは深千代に差をつけるまたとないチャンス。


「ふふ、急にやる気になったな」


エレベーターから降りる直前、剣崎先輩が振り返って意味ありげに微笑んだ。


「…………っ!」


ーーそして、俺は降り立った光景に息を呑むのだった。



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