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書店部の内部事情  作者: 片羽京介
第一章『幽霊は舞台で微笑む』
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ラブコメ展開にはならねども(上)





明けて木曜日は非番の日。朝練も放課後の部活動も全て深千代に任せている。


こういう日は、大抵六時間目の終わりと共に学校を飛び出して、寄り道するか帰宅かの二択だ。


昨日は帰宅して一時間程度で就寝した為、目覚めは爽快。朝から全能感に満たされた登校である。



「今日は池袋にでも行くかな」


放課後の時間と出費の計画を立てながら、俺は昨日とはうってかわって快晴の空を見上げつつ、横断歩道の信号を待つ。


いやー五月の陽気って快適だよな。気温も湿度も当たり障りなくてさ。

社会人になったらこの時期に五月病なんて症状が出るらしいけど、こんな良い空気を吸っておいて精神病んじゃうなんて相当だな。


大人の不安とか責任とか、そういう今の俺が持ち合わせていない重圧など考える余地もなく、俺が再び放課後のプランに思考を巡らせようとしていると…。



「おはよう瀬名、今日は朝練は

無い日か?」


信号が変わったと同時に、後ろから声をかけられた。

声の主は生徒会長の剣崎先輩であった。


「おはようございます。今日は一日フリーの日ですよ」


フリーという素晴らしい響きを表現する為に、右手を天高く突き上げ勝利のポーズをとる俺。


よほど浮かれているらしい、こんなどこぞの文芸部部長のような醜態をとってしまうとは…。


先輩はそんな俺の子どもっぽい動作を見て、邪気の無い笑みでクスクスと笑っていた。

それが収まると、二人連れ立って学び舎を目指す。


道行く生徒から、通り過ぎていく自転車通勤のサラリーマンまで。剣崎先輩を視界に捉えた者の多くが彼女に目を奪われている。


先輩は美人だ。カワイイというよりも美とか麗とかいった字が相応しい。

首元で切り揃えられたショートな黒髪と、強い意志を感じさせるキリッとした瞳。そして深千代に負けず劣らずの良調整されたモデル体型。


深千代が登校中にそのような視線を独り占めしている様は見ていて不愉快極まりなかったが、先輩に関しては流石だなぁと感心させられる。


人望も厚く、あの鬼の松方副会長が唯一従う同級生だそうな。


俺が生徒会長になる動機は大変不純なものだが、彼女の後を継げるという点は心底光栄で貴重なことだと思っている。


そんな得体のしれない信仰心みたいなものが内側から湧き上がっている俺の傍らで、当の先輩は口元に手を当て、何か思案に耽っていた。



「…そうか、放課後は暇か」

「??」


俺の先ほどの発言のことを言っているのだろうか。



………。



…はっ!



まさかこれは、いわゆる


ラブコメ展・開?!


何か超法規的な事態が起きようとしているのか!?




……いや、ありえん!


ここは魔術とか超能力とかラブ&ロマンスとかが存在しない現実!


もう「ココハゲンジツ」とか確認してる時点で痛々しい!



ラブってのは昼ドラでやってるみたいな表面的で予定調和地味たものしか地球にはないんだよ!


ーーえと、ですから、ですね。


「何か、お困りごとです??」


多少ギクシャクした口調で聞いてみた。

こんなガチガチになることが自分にあったとは。れいちゃ…深千代に知られたら裏で抱腹絶倒されてしまう!



間もなくして、先輩は多少申し訳なさそうな(?)顔をしながら、おもむろにこう言い放った。


「…うん。実は、一緒に来てもらいたい場所があるんだ」




バッ!



気づけば俺は、再び右手を天高く突き出す「文芸部長の構え」をとってしまっていた。



ーー登校する生徒のクスクス笑いが、むしろ心地よかった。








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