彼らの交わる運命は
深夜。
狸の妖術か、それとも自然現象なのか。大嵐の中、猟師は、谷の底を目指していた。
――和尚の目を盗んで出てきたが、多分…………。
底に到達し、そこにいたのは、
――生きてやがるな。
『…………なんで、なんで攻撃した……!?』
腹から血を流し、朦朧として、しかし生きている狸がいた。
「理由が要るのか? それとも、言ったら納得するのか?」
『黙れ!』
狸はユラユラと立ち上がり、だが目はしっかりと猟師を睨む。
『僕は……ただ和尚に恩を返したいだけだった! 父さんは、僕達を守るために、希望を守るために戦った! なのに何故僕らは殺されないといけない!?』
狸の毛が逆立ち、目に血が走る。その姿には、「生命」を渇望する使命感があった。
その狸を、猟師は睨み返して、
「なら、俺の師匠や兄弟子は、お前達の子供を守るなんて理由で殺されたのか?」
狸の顔が歪む。
「お前が食べた小鳥には、未来がなかったのか? 芋虫が「子供を守るために」と言って歯向かってきたら、お前は食べるのを諦めるのか?」
だけど、と言おうとした狸を、猟師が言葉を繋げて遮る。
「結局はお前らの希望なんて、お前らの自意識過剰以外の何物でもないんだよ。わかって――」
『それでも、父さんは僕らのために勇敢に戦ったんだ!』
狸は自分でも気づいている。言っていることが支離滅裂になっていることが。
『なのにどうして――!?』
「――勇敢だったらジジイとアニキは帰ってくるのかよ!? 戦ったらあいつらの思いは遂げられんのかよ!」
それは、酸性の雨だったのかも知れない。だが確かに、猟師の頬に塩辛い水が流れた。
『うるさいうるさいウルサイ!』
狸が狂ったように叫び、その姿が巨大に、醜悪なものに変化していく。
変化の妖術――その暴走だった。
「わかってる。俺達は引けない」
猟師が腰から短剣を抜き、構える。狸は猟師の数倍の体格になり、今にも跳びかかろうとする。
「俺たちは解り得ない」
『殺ス!殺ス殺スコロス!』
両者がそれぞれ叫び、躊躇と葛藤の一瞬の後、
「殺し合おうぜ」
『――――!』
戦いを、始めた。
本文
夜明けて、血をとめて行きて見ければ、一町ばかり行きて、谷の底に大なる狸の、胸より尖り矢を射通されて、死にて伏せりけり。
訳文
夜が明けて、血の跡をたどって行ってみると、一町ばかり行って谷の底に、大きな狸が胸に尖り矢を射通されて横になって死んでいた。