彼が目指す。彼も目指す。
若い猟師は、その場に座り込んだ。
一晩中、狸の姿を追い続け、足はそろそろ限界だった。
途中、逃げ遅れた何匹かを仕留めたが、肝心の一匹を見つけていない。
「…………族長の子供」
族長は、群れの中の一番妖力が強い狸が選ばれる。無論、それは遺伝していくものだ。
つまり、逃げ出したあの一匹を仕留めなければ何をしても意味がないし、あれを仕留めさえすれば他はなんでもいい。
族長、と浮かんで思い出すのは、
「…………師匠」
自分の祖父にあたる、狩りの師匠だった。
――あのクソ爺…………。
修行で散々に痛め付けられ、恨みもしたが、それでも大事な祖父だ。
だが、彼とはあれきり会っていない。
もし、戦いに勝ったのなら、すぐに狸の追撃に加わり、自分と合流するはずだし、そうしなくとも何かしらの連絡をくれるはずだ。それがないということは――
「あのクソ爺…………」
可能性の低いことは考えるな、そう教わってきた。だが、
「絶対生きてろよ」
希望を託すように呟く。
そう願い、自分は自分の仕事をしなければ、と顔をあげる。
顔をあげて、遥か遠く、山の上の寺を見つけた。家族で檀家になっている、ゆかりのある寺だ。
――狸を探す間に寄っていくか。妖怪退治の何か良い案をもらえるかもしれない。
まっすぐいけば一日の距離だが、狸を探しながらだと三日、長くて一週間掛かるだろう。山小屋に寄って装備も整えたい。
――狩る。
絶対に。
――仲間のために。
仇討ちのために、祖父のために。
――子供達のために。
未来のために。