多湿
掲載日:2026/05/11
缶ビールは六本目だった。
煙草を咥え、バルコニーへ出る。
サッシが湿気で開きにくかった。
生ぬるい気温だ。
シャワーを浴びた体に、ヌメリ気を感じる。
気持ち悪い。
向かいの空き地には、街灯も届かず暗い。
その隅に、しゃがみ込む人がいた。
暗すぎてシルエットしか見えない。
何かを呟いている。
たまに眺めながら酒の肴にしていた。
だけど、毎晩続くと段々腹が立ってくる。
「…うるせーんだよ」
酔った勢いで怒鳴った。
─声が止む。
こちらを振り返る。
笑った気がした。
舌打ちして部屋へ戻る。
カーテンを閉め、無理やり眠った。
─翌朝。
喉の渇きで目を覚ます。
頭を押さえながら新聞を取りに行く。
息が止まった。
─ドアが開かない。
何かを擦る音だけがして、ドアが開かない。
体ごとのしかかる。
─ドアが開く。
勢いで転んだ。
顔を払っても拭いきれない。
多分、あの家には戻れない。




