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ソロで効率厨の俺は、配信者を助けてバズってしまう!〜形見の杖を奪って、勝ちヒロインを従順にしてみました〜  作者: 海の紅月くらげさん


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職業

◇◇◇◇



 ミノタウルスの大斧が、振り下ろされる。


 ゴォンッ!!


 岩が砕け、破片が飛び散った。


「ひッ!」


 私は転がるようにして回避します。視界が揺れ、破片が肌を割いた。


 速い。


 いや、違う。


 見えているのに、追いつかない。


「私、見えてる? なんで?」


 思い返すと当たり前だった。


「そうか」


 このモンスターはソルさんよりも弱い。


「今までソルさんの動きを見てたから、見えるんだ」


 その残像が頭に焼き付いているせいで、目の前の攻撃が遅く感じる。


 なのに、体が間に合わない。


「ラフィさ〜ん! 避けましたよ! 早く攻撃してください!」


 返事はない。


:ラフィwww

:起きろwww

:ルナちゃんガチソロw

:ヒーラーなのに前線

:これ置いて行かれたんじゃね


 ミノタウルスが踏み込む。


 ズン、と地面が沈む。


 横薙ぎ。


 私は反射的に跳んだ。風圧が頬を裂き、髪をさらう。


「っ……!」


 避けられる。


 ギリギリで。


 でも、それだけ。


 私には攻撃がない。


 そもそも。


「私……回復役なんですけどぉ!」


 涙声になる。


 喉が震え、情けない声が漏れた。


「避けるだけじゃ終わらないのは、分かっています」


 そんなことは分かっている。ヒーラーなんですよ。回復するだけの職業。


 どうすればいいのか分からない。


「回復職の武器。なんでしょうか? 私の武器」


 母の形見の杖を握って、抱き寄せる。


「……敵を見て、避け続けることから初めてみます」


 ミノタウルスの動きを見て、振り下ろしを回避します。


 横なぎを、回避。


 踏みつけを、


 転がって回避。


 呼吸が荒くなり、足が重い。視界が狭くなっていく。


「私がここで死ぬとどうなるんでしょう」



 ソルさんが倒れている。ラフィさんが倒れている。


 私一人。


 背筋が凍るような風景。



「そうか、回復役は」


 それでも避け続ける。


 死んじゃいけない。


「最後まで立ってないといけない。これが私の武器になる」


:避けうまくね?

:いや攻撃しろwww

:ヒーラーってそういう職だっけ?

:でもあの攻撃を避け続けるの凄い


 その時。


 ふと、思考に隙間ができた。


「……なんで」


 ぽつりと、零れる。


「私、避けてるだけなんだろう」


 その疑問は、やけに鮮明だった。



 ……違う。


 胸の奥で、大きく何かが引っかかる。


「避けるだけじゃ、ダメなんじゃ」


 次の瞬間。


 斧が、振り下ろされる。


 私は横に跳びながら、咄嗟に叫んだ。


「……『スロウ!』」


 杖の先から、淡い青の光が弾ける。


 それがミノタウルスの体に絡みついた。


 一瞬。


 本当に一瞬だけ。


 巨体の動きが、鈍る。


「……くっ!」


 手応え。


 横薙ぎに振られるはずだった斧が、わずかに遅れる。


 その隙間に、私は体を滑り込ませていた。


 避ける。


 今までより、余裕をもって。


「効いてる……!」


 初めて、自分の行動が戦況を大きく変えた感覚があった。


:今のなに!?

:デバフ!?

:遅くなってね?

:いけるぞこれ!!


 息が荒い。


 それでも、思考が回り出す。


 私は、避けるだけじゃない。


 やれることがある。


『ヒール!』


 自分に光をかける。


 体の痛みが、わずかに引いた。


 重かった体が、ほんの少し軽くなる。


 まだ、動ける。


「この状態を維持」


 視界が、開けた。


「これを繰り返せば、誰も死なない。私が生きてる限り」


 ミノタウルスが苛立ちを見せる。


 踏み込みが荒くなる。


 だがその分、隙も増える。


 私は必死に頭を回す。


 避ける。


 スロウ。


 避ける。


 ヒール。


 避ける。


 もう一度スロウ。


 少しずつ。


 ほんの少しずつ。


 戦いになっていく。


 ミノタウルスも、狩りの対象ではなく、対等な敵として認め始めているのが分かった。


:成長してる!

:ルナちゃん覚醒きた!

:これ見てて楽しいやつ

:がんばれ!


 けれど、


 限界は、確実に近づいていた。


 魔力が底をつきかける。


 足が震える。


 呼吸が乱れる。


「……は、ぁ……は……」


 スロウが、できない。


 ヒールも、もうほとんど回復しない。


 視界が、暗くなる。


「……まだ……まだやれることがあるはず」


 ミノタウルスが、大きく斧を振り上げた。


 今までで一番、大きい動き。


 回避できない。


 分かる。


 もう、動けない。


 あと一歩。


 あと一回。


 避ければ……。


「私にも、何かが見えたのかな」


 悔しくなって、動かない足を構わずに横に飛ぶ。


 大きく飛んだつもりで、数センチも動いていなかった。


 上半身だけを起こし、ミノタウルスを見上げる。


「これが私の限界」


 大きく斧の振り上げを見送る。


 今までで一番、大きい動き。


「……あぁ」


 息が漏れる。


「終わりましたね……悔しいな……」


 目を瞑る。


 ズンッ!


 鈍い音。


 けれど、痛みは来ない。


 恐る恐る目を開ける。


 すぐ目の前に、


 背中があった。


「最後まで、よくやった」


 目を開くと、


 そこにいたのはソルさんだった。


 ミノタウルスの斧を、短剣で受け止めている。


 わずかに傾けた刃が、力を逃がしていた。


「……え」


 理解が追いつかない。


 次の瞬間。


 ソルさんの腕が、わずかに動いた。


 それだけだった。


 音はない。


 風もない。


 ただ。


 ミノタウルスの首に、細い線が走る。


 一拍遅れて、


 巨体が、崩れ落ちた。


 地面が揺れる。


 戦いが、終わった。


「……ソルさん……もう、遅いですよ」


 息を切らしながら言う。


 その声は、少しだけ拗ねていた。


 目の前にソルがいることが少しだけ、誇らしかった。



「ギリギリ間に合っただろ」



:うおおおおおお

:神回

:ルナちゃん主人公じゃん

:最後かっこよすぎ

:ソル遅いwww


 私は、その場にへたり込んだ。


 手は震えている。


 でも……その震えは、怖さなんかじゃなくて、なんだかいつもと違っていた。


 初めてちゃんと戦えた気がする。






【ルナ《パーティー抜けました》】

登録者    80万人→92万人

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