第一話 底辺!村はずれの強化魔法使い
生い茂る森林に、太陽に反射する芳醇な木の実。
そんな森林の中で、ダリア・メルデスは颯爽と走り回り、飽きるまで木の実をむしり取った。
ダリア・メルデスにとって、これはいつものことであった。
常に明日に不安を抱いて生きる毎日。
しかしそれは彼自身に力がなかったからだった。
「さて、これぐらいでいいかな」
手に余るほどの木の実を抱え、ダリアは微笑した。
「おいおい、猿がまたエサを集めてるよ」
とっさに顔を上げると、そこには少年が三人ダリアを見つめ、笑いをこらえながらこちらを見ていた。
三人の中で真ん中、そこそこではあるが、三人の中で一番身なりが整っている少年がこちらへ歩み寄る。
「まったく、猿でもできる身体強化魔法しか使えないお前は、まるで猿そのものだな!」
「…っ」
「まあ、お前みたいな奴にはお似合いだがなぁ!?」
少年はダリアと会うなり、いきなり彼の髪をつかんだ。
肩まで伸び切ったきれいな白髪は、思い切りつかまれる。
音さえ立てず二本ほど、髪の毛が地面に落ちた。
髪を引っ張られた痛みから、ダリアはボトボトと木の実を落とした。
「あっ...!」
「けっ...自分の痛みよりエサの心配かよ。卑しい猿だな」
少年は手を放して軽く舌打ちをし、地面に落ちた木の実を一口乱暴に食べた。
「うげっ...くそまずじゃん。こんなゴミ食って生きてんのかよ…」
口に入った木の実の一部を地面に吐きだし、ついでと言わんばかりにその木の実をダリアに投げた。
木の実はダリアにぶつかると崩れ、顔に接触した果肉がダリアの顔にこびりついた。
その姿を見て、少年たちは笑っていた。
ダリアは怒れなかった。
なぜなら彼らの一人、ベリルは村長の息子であり、魔法の才能があったからだ。
「お前もあいつと一緒で、何も抵抗しない腰抜けなんだな」
その言葉で、ダリアの脳内に彼女の影が映りこむ。
今の彼と同じように誰にも抵抗せず、みんなに優しく、そして心が強かったあの子。
しかし彼女は、忽然と姿を消した。
「おっと!肝心なことを忘れていた。ほらよ」
ベリルはダリアに手紙を放り投げた。
彼はその手紙を受け取り、読む。
そして、目を見開いた。
明後日に、村一番を決める魔法大会。
しかも賞金が発生する。
今まで木の実で生活していたダリアにとって、これは人生が逆転するほどのビッグチャンスであった。
「明後日に大会がある。お前も来るよな...?」
「うん、もちろん行くよ」
「へっ、決まりだな」
ベリルはにやりと笑みを浮かべ、彼らは踵を返す。
彼らの姿が消えると、ダリアは手紙を読み返した。
手紙には、一番下に何かが書かれていた。
『優勝者には最高峰の魔法学園であるボードに行ってもらいます』
しかしダリアはこの魔法学園のことも何も知らず、目線は賞金に釘付けになっていた。
その日の午後から、ダリアは訓練を始めた。
!
そして迎えた大会の日。
久しぶりにダリアは村に訪れた。
懐かしさであたりを見渡すダリアとは違い、村人たちはダリアを見ては嘲笑う。
しかし罵声など気にせず、ダリアは大会会場にまで足を運び、受付をした。
受付が終わり、呼ばれるまでしばらく時間をつぶしていた時のことだ。
ダリアが用意されていたソファで座っていると、背後からベリルの声が聞こえてきた。
「醜態をさらしに来たのか?雑魚」
肩に手を置かれたダリアだったが、彼の目線は上の空。
彼の目には賞金。それしか映っていなかった。
何も聞いちゃいない。
それに勘づいたベリルは、ダリアの頭を強くつかんだ。
「話を聞けよ...」
「いたたたっ...!やめてやめて!」
ダリアの悲鳴に満足し、ベリルはすぐ手を離した。
「おいおい、こんな程度で痛いとかいうのか。強化魔法を持っているのにか。こんなんじゃあ、初戦で俺が本気を出すまでもないな」
「どういうこと?」
ダリアは目を見開き、恐る恐るベリルに尋ねる。
「どういうこともくそもない...俺とお前は一回戦目に戦うんだよ」
その言葉を聞いて、ダリアは不安に陥る。
なにせベリルは魔法の天才。きっと多彩な魔法を扱うことができるに違いなかった。
しかしダリアはどうかといえば、たった一つの魔法のみ。
ダリアは戦意を喪失した。
「おっと、もちろん退場はできないぜ。腹をくくっておくんだな...」
彼らはそのあとに薄ら笑いを浮かべて、散々からかった末にその場を去って行った。
村一番の天才と呼ばれた彼に、自分は勝つことができるのだろうか。
その疑問が、頭をよぎってはかすんでいった。
来たる第一回戦目。
そこそこ埋まっている会場にさらされたダリアは、そこでベリルと対峙する。
対戦が始まる前から観衆は『ベリル!ベリル!』と歓声を上げている。
全員がそうだった。
彼は自信満々に、そしてダリアをあざ笑うかのような視線を向け、口を開ける。
「よく来たな!てっきり、怖くて泣きべそをかいて逃げるんじゃないかと思ってたぜ!」
ベリルの笑い声に呼応するように、あたりは観衆の笑い声に包まれた。
対するダリアは後悔していた。
賞金につられて参加してしまったこの大会。
自分は本当は誰も傷つけず、なるべく一撃で倒せればと思っていた。
しかし相手は天才。一撃で倒せるはずもないと今は確信している。
タラリ。と冷汗をかく。
「それではダリアとベリル・ウェネル様の対決です!はじめ!」
審判が声を上げた瞬間、ベリルは懐から杖を取りだした。赤くきらめくその杖からは炎が放たれ、見事ダリアに直撃する。
バァン!という豪快な音が、会場に響く。
ダリアは腕を盾にし、腕にちょっとした焦げ跡を残しただけで済ませて見せた。
攻撃が終わったと思い、ダリアは顔を上げる。
しかしその時には、彼の眼前に炎魔法があった。
「オラオラ!守ってばっかりじゃ一方的に凹されるだけだろ!」
弾んだ声でそう叫ぶベリル。
しかしダリアはその言葉に応えることはなく、永遠に飛来する炎攻撃を、ただ防御するだけであった。
なぜならそれは彼女との約束。
自身の魔法が人の命を脅かすことになると知っていたからこそ、ダリアは攻撃に移ることができなかった。
一方的に攻撃し続けるベリルに、守り続けるダリア。
その構図に飽き飽きしたベリルは、ついに攻撃の手をやめ、小さな声で話し始めた。
「お前、本当にあの女にそっくりだよな」
小さい声ではあるが、ベリルは怒りを言葉に乗せていた。
「だから何だっていうんだ」
「俺が散々蔑み、痛みつけて、最終的には消えて言ったあの女にそっくりすぎて、腹が立つんだよ!」
「......」
ダリアと会うとき、彼女はいつも体にあざがあった。
しかしそれが魔法の素質がないからというちっぽけな理由だとは、その時のダリアは思いもしなかった。
『君はいつか強くなれるよ』
彼女が最後に言っていた言葉。
それが水が紙に浸透してゆくように、鮮やかによみがえっていく。
「本当に、君がやったのか...?」
初めて、ベリルを見る目が変わった。
その表情に、ベリルは気分が上がり、ついにその真実を口にする。
「ああ。俺がやったよ」
ーースン。
あたりの音が止んだ。
周りの歓声、鳥の囀り、そしてダリア自身の心拍数。
そんな静寂の中で、何かがプツンッ。と何かが切れる。
彼女との約束事である。
全身の体温が高くなってゆく。
彼女が去って失っていた二つのものが、彼の中で次第に目覚めてゆく。
一つ目は激しい怒り。
二つ目は、絶対にこんな奴には負けたくない、こいつを許したくない。
そんな、殺意だった。
「そうか...」
敗北を促すような発言が飛び交う会場で、ダリアはぽつりと一言。
しかし彼の目には、今まで見たこともない純粋な殺意がにじみ出ている。
ダリアはベリルが目をつぶったその一瞬で、目の鼻の先にまで距離を詰めた。
直後、
ーードンッ!
鈍い音が、会場に響き渡る。
当のベリルの腹には深く、深く拳がめり込んでいた。
「うっ...」
口の中に胃液が溜まり、それと同時に鉄の味が口中に満たされる。
あまりの衝撃に耐えれず、ベリルは唾を吐いた。
一瞬の出来事に、会場は一度静寂に包まれる。
どよめき、あるいはダリアの存在を否定するような声は、次第に大きくなっていった。
「あんたは...あんただけは二度と許さない」
と。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
読者様には主人公が最強に成り上がっていく、そのさまを長い目で見守ってくれたらなと思います!
何かおかしな点があれば報告してください!通知が来たら爆速で書き直しますので(笑)
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