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第1章 第5話 「理の揺らぎ」  

朝の光が差し込む訓練場に、鋭い風を切る音が響いた。

 木剣が空気を裂き、砂煙が舞う。


「はっ!」

 ルルの剣が光をまとい、一直線に振り下ろされる。

 理央はそれを紙一重でかわすと、足元の砂を蹴って斬り返した。


 金属音のような硬質な衝突音。

 魔法で強化された木剣がぶつかり合い、青い火花が散る。


 理央の動きは、明らかに1か月前とは違っていた。

 反応も、構えも、重心の置き方も洗練されている。

 それでも、目の前の勇者はなお上を行く。


「どうしたの、リオ。今日はやけに動きがいいじゃない」

「……こっちは必死なんだよ!」


 ルルが笑みを浮かべながらも、目は真剣だった。

 剣がぶつかるたびに、判定の魔法陣が光る。

 理央の体に二つ、ルルには一つ。


 ――あと一撃。


 理央は息を整え、次の瞬間、踏み込みざまに斬りかかった。

 だが、その刃が届くよりも速く、ルルの木剣が横から滑り込む。


 ぱっと光が弾け、理央の体に三つ目の印が灯った。


 試合終了。


 ルルの勝ちだった。


「くっそ……また負けたか……」

「惜しかったよ。でも――まだ私の方が上ね」

 ルルは木剣を下ろし、軽く息をついた。


 理央は砂の上に座り込みながら、笑って言った。

「“絶対私には勝てないよ”って言ってたけど、あれ、今も有効?」


「もちろん。私は勇者だもの」

 そう言いながらも、ルルは胸の奥に小さなざらつきを覚えていた。


(……リオ、確かに強くなってる。

 けど、それ以上に――私の中の“何か”が変わってきてる……?)


 その違和感の正体を確かめるために、ルルは数日後、村のギルドに向かった。


「ルル=アークレイン。勇者階級の更新ですね」

 ギルド職員が魔力測定の魔方陣を展開し、淡い光がルルを包む。

 魔法陣の中心に数値が浮かび上がった。


 ――レベル:42 → 42(変化なし)

 ――筋力:A → A

 ――魔力:A → A


「おかしいな……この1か月、毎日訓練してるのに」


 ルルは小さく呟いた。

 ステータスは変わっていない。

 けれど、体の軽さと反応速度は、どう考えても前より速い。


(数値が変わらないのに、確実に“強くなってる”……)


 その時、ふと隣で理央が測定台に立たされた。


「じゃあ次、君ね。名前は?」

「逆刃理央」


 ギルド職員が魔法陣を起動すると――

 光が一瞬強く輝き、すぐに暗転した。


「……え?」

 職員が首を傾げる。

 浮かび上がるはずのステータス表示が、すべて“???”になっていた。


 ――レベル:???

 ――筋力:???

 ――魔力:???


「た、たまにありますね……魔法障害です。もう一度測ってみましょう」


 再度試みるも、結果は同じ。


「うーん、これ、前例がないな……」

 職員は困惑の表情を浮かべながらも、無理やり結果を保存した。


 ルルはそれを見つめながら、胸の奥がざわつくのを感じた。


(理央って……やっぱり、普通の人じゃない?)


 夕暮れ時。

 理央はいつものようにルルの家で皿を洗っていた。

 袖をまくり、慣れた手つきで泡を流す。


「ほんと、リオが来てくれて助かってるよ」

「いや、こっちこそ居候させてもらってるしな。

 “男は家事が嫌い”っていう固定観念、ぶっ壊しておきたいし」


「また逆張りですか」

「おう、逆張りでこの家は回ってるんだ」


 ルルが笑いながら肩をすくめた。

 その笑顔の奥に、少しだけ安堵の色が混じっている。


(この人といると、不思議と怖くない……)


 しかし、その“安心”こそが、ヌマアの理を少しずつ揺らしていた。

 ルルの体内に宿る“制限”が、理央の存在によって微かに外れ始めていたのだ。


 その夜。

 玄関の扉が勢いよく開き、

 ローブ姿の少女が飛び込んできた。


「ルルー! いるー!?」


 短いボブヘアに赤いリボン。

 杖を手にした少女――ミア=フェルノート。


「ミア!? 久しぶり! どうしたの?」

「王都から帰ってきたの! ……って、あれ?」


 ミアの視線が理央に向く。

 一瞬で表情が変わった。


(……魔力の流れが“存在してない”?)


 彼女は笑みを浮かべながらも、内心で息を呑む。


「へぇ、面白い人がいるじゃない」


 そう呟いた声には、

 どこか好奇心と――かすかな恐れが混ざっていた。

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