第1章 第4話 「模擬戦──絶対に勝てないと言われたから」
朝の風が村の訓練場を通り抜ける。
広場の中央には、青白く光る円陣が描かれていた。
魔法で作られた安全領域。
その中で行われる模擬戦は、当たった箇所が光って三か所点灯したら自動的に“戦闘不能”判定になる仕組みだった。
「これが……魔法剣?」
理央は手渡された木製の剣を見つめた。
ただの木剣ではない。刃に沿って薄い魔力の膜が張られており、
当たると痛みの代わりに光の反応が出るという。
「ええ、訓練用に天使様の工房で作られたものよ」
ルルの母・エリナが説明し、魔法陣の境界を調整する。
「“打撃無効”の結界があるから安心してね。当たっても怪我はしないわ」
「便利すぎる……現代科学よりすげぇな」
「魔法は神聖な加護の一部。人間が勝手に使えるものではありませんが……」
エリナの言葉に、理央は小さく眉をひそめた。
(“神聖な加護”ね……。なんか気持ち悪ぃな、その言い方)
そんな理央の思考を断ち切るように、ルルが剣を構える。
「リオ。準備はいいですか?」
「いつでも」
ルルの剣は軽やかで、美しかった。
風の流れさえ斬るような一振りに、理央は思わず見惚れた。
(……高校の剣道部で鍛えてたけど、次元が違ぇな。これが勇者ってやつか)
「始め!」
エリナの声と同時に、ルルが踏み込んだ。
「──《ライト・スラッシュ》!」
詠唱の言葉と共に、剣が光を帯びる。
その速度は、目で追うのがやっとだった。
「うおっ!?」
理央は咄嗟に避けたが、肩に軽く当たった瞬間、
青白い光がポンッと弾けた。
一箇所、光点が灯る。
「ひとつ目!」
ルルは冷静に距離を取り、再び構える。
理央も息を整える。
足運びを調整し、竹刀ではなく“剣”としての動きを探る。
「くそ……本気でやるか」
その目が一瞬だけ鋭くなった。
ルルもその変化を察し、口元を引き締める。
理央が踏み込む。
高校時代に叩き込まれた基本の面打ち。
そのスピードと姿勢の良さに、ルルの瞳が一瞬見開かれた。
だが、彼女はすぐに見切る。
「甘い!」
横薙ぎに放たれた光の一撃が、理央の腰をかすめる。
ポンッ──二箇所目が光った。
「っ……速すぎだろ……!」
「“勇者”の訓練は伊達じゃありません」
ルルの声には自信と、どこか寂しげな響きがあった。
「……あなたは強い。でも──」
ルルは剣を振り下ろす。
理央は受け止めたが、衝撃で足が滑る。
そのまま三度目の光が弾け、魔法陣が解除された。
「勝者、ルル=アリステア!」
ルルが剣を下げ、息を整える。
理央はその場に膝をついたまま、苦笑いを浮かべた。
「はは……完敗だな」
「当然です。私、勇者ですから」
少しだけ、ルルは得意げに笑った。
その笑顔が、なぜか理央の心に火をつけた。
「絶対に勝てないよ、リオ。
あなたは魔法も使えないし、加護もないんだから」
その言葉。
“逆張り少年”の中で、なにかがカチリと音を立てた。
「……あー、そういうこと言っちゃう?」
「え?」
「“絶対に勝てない”って言葉、俺、昔から大っ嫌いなんだよ」
理央はゆっくり立ち上がり、笑う。
挑発的でもなく、ただ静かに。
だがその目には、確かな炎が宿っていた。
「見てろよ。次は絶対、勝つ」
ルルは一瞬、何も言えなかった。
その瞳の奥に、自分とはまるで違う“光”を見た気がした。
風が吹く。
青白い魔法陣の残光が、理央の足元で静かに消えていった。




