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第1章 第3話 「勇者の重責」  

翌朝。

 セルナ村は霧に包まれていた。

 鶏の鳴き声が遠くで響く中、理央は見慣れない布団から起き上がる。


「……異世界でも朝は眠いんだな」


 寝ぼけ眼で窓を開けると、畑の向こうでルルが木刀を振っていた。

 動きは美しい。だが、その表情はどこか苦しげだった。


「……朝から真面目だなぁ。俺なんかもう腹減って動けねぇのに」


 ぼやきながら居間に行くと、エリナが鍋のスープをかき混ぜていた。


「おはようございます、リオさん」

「おはようございます……スープ、いい匂いっすね」

「ふふ、ルルが訓練に行く前は必ず温かいものを食べさせるの。あの子、無理ばかりするから」


 理央はテーブルに座りながら、窓の外を見た。

 確かに、ルルは休む気配もなく剣を振り続けている。


「……あんな頑張らなくてもいいんじゃないんすか?」

「そう言ってあげたいけれど……あの子は“勇者”ですから」


 その言葉には、少しの誇りと、大きな哀しみが混じっていた。


 エリナは手を止め、静かに話し始めた。


「ヌマアにはね、“勇者の印”を持つ者が代々現れるの。

 天使さまから加護を授かり、人々を魔族から守る使命を負う存在。

 ルルも、その一人」


「へぇ……すげぇじゃないっすか。それなら無敵じゃん」

「……そうなら、よかったのだけれどね」


 スプーンを置き、彼女は小さく息をついた。


「魔族……特に魔王の加護を受けた者たちは、勇者でも歯が立たない。

 天使の加護を受けない限り、誰も勝てないのよ」


 理央の眉がひくりと動いた。


「天使の……加護?」

「ええ。戦う力は天使さまから与えられるもの。

 だから、勇者といえども、天使さまの“許可”なしには戦えないの」


 その言葉に、理央の中で何かがざらついた。


(……誰かの許可がないと、戦うこともできねぇのか)


 彼の中で、日本にいた頃からの“逆張り魂”が少しずつ顔を出す。


 外ではルルが剣を振り終え、息を切らしていた。

 手にはマメが潰れ、血が滲んでいる。


「ルル、無理しないで」

「……だめ、なんです。

 昨日、魔族一体に勝てなかった。勇者なのに、守れなかった……!」


 ルルは俯いたまま拳を握りしめた。


「みんな、天使さまの加護がないと生きられない。

 自分の力だけじゃ、誰も救えないんです……」


 その言葉を聞いた瞬間、理央の胸に妙な苛立ちが灯った。


「なぁ、ルル」


「……はい?」


「そうやって悔しがるなら、俺も手伝うよ」


「え……?」


「金もねぇし、働かないと飯も食えねぇ。

 それに、昨日助けてもらったお礼もまだしてねぇしな」


「で、でも……あなた、戦えるんですか?」


「まぁ、腕っぷしは並だと思うけど……殴り合いくらいなら慣れてる。

 それに、見てたらおもしれぇじゃん。勇者の魔物退治ってやつ」


 ルルは一瞬、ぽかんとしたあと、小さく吹き出した。


「……変わった人ですね、本当に」

「よく言われる」


 そのとき、エリナが笑顔で割って入った。


「なら、ルル。明日、模擬戦をしてみたらどう?

 その子がどこまで動けるか見ておくのも悪くないわ」


「えっ!? 母さん、それは……!」

「訓練よ。いい機会じゃない?」


 理央はニッと笑って、ルルに親指を立てた。


「お手柔らかに頼むぜ、勇者さん」


「……後悔しても知りませんからね?」


 その笑顔の裏に、わずかな闘志が燃えていた。

 そして理央の心にも、静かな“違和感”が芽生え始めていた。


(この世界の“理”。天使の許可。加護……全部、なんか気持ち悪ぃな)


 彼がまだ知らない“理の枷”が、

 この村にも、そしてこの空の上にも、確かに存在していた。

エリナさんは凄く美人で大人な女性です。

けっして魔女みたいに鍋をかきまわす感じではないです。

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