第二章 第5話:暮らしを整えるという祈り――民あっての国だから
人族居住区を歩いていると、
空気の淀みだけじゃなく、生活の荒れが目についた。
道はひび割れ、
ゴミが風に舞い、
家々の壁は煤で黒ずみ、
子どもたちは裸足で泥に足を取られながら走り回っている。
ルルが眉を寄せる。
「……これじゃ、誰だって元気なくなるよ」
ミュナも暗い顔で頷いた。
「ごめん……本当は、もっときれいだったのに……
理が変わってから、誰も気にかけてくれなくて」
そこで理央はふっと笑った。
「じゃあ、ちょっと掃除するか」
ミュナ
「……え?」
ルル
「り、理央……ここ全部を? どうやって?」
理央は胸を張って宣言した。
「こういう時は……なろう知識だ!」
◆ ■ 理央、生活魔法で街を浄化する
理央は手を前に出し、深呼吸した。
(ここで詠唱なんてしない。
女神にお願いするんじゃなくて、
“やりたいこと”を魔力で表現するだけだ)
「生活魔法」
光が広がり、地面の汚れが一気に蒸発した。
続けて、
「《除菌》《乾燥》《脱臭》《微風操作》」
なろう系で頻繁に見る便利魔法を、
理央はイメージだけで再現していく。
やがて狭い路地に清々しい風が流れ込んだ。
ミュナの目が大きく見開かれる。
「……すごい……!
空気が……軽い……!」
人族の子どもたちも目を輝かせて集まってくる。
「お兄ちゃん魔法使えるの!?」
「すごい! なんで足が冷たくないの!?」
「お、お母さん呼んでくるね!!」
ルルは満面の笑みで言った。
「理央! この区画全部やってあげよ!」
「いや全部は……まぁ、やるか!」
理央は笑い、次々に魔法を発動した。
生活魔法と“祈りの感覚”が合わさると、
効果が本来よりも何倍も浄化力を増す。
黒いざらついた空気が消えていく。
◆ ■ ルルは魔物の素材を集めて食料を確保
「じゃあ私は……食料調達してくるね!」
ルルは剣を持って森へ駆けていく。
ミュナが慌てて追いかける。
「ルルさん! 危ないよ! 森の魔物は強くなってて……!」
「任せて! 理央みたいな強者とずっと鍛えてきたから!」
30分後・・・
ルルはルンルンで戻ってくる。
猪型魔物を三体、軽々と担いで。
ミュナ
「は、早いッ!? そして強い……!!」
ルル
「このくらいなら朝ご飯前だよ!」
「野生の魔物だから、汚染されてないよね」と確認し、
ミュナの家の前で火を起こして解体を始める。
理央は生活魔法で
「《浄水》《殺菌》《温度調整》」
を使って調理器具や周囲の環境を整える。
すると──
人族の大人たちが、恐る恐る集まってきた。
「……なんだ、この匂い……すごく……いい……」
「食べ物の匂いなんて、久しくなかった……」
ルルはにっこり微笑む。
「いっぱい作るから、みんなで食べよう!」
ミュナ
「ルルさん……理央さん……
ありがとうございます……!」
涙ぐむ人族の女性もいた。
◆ ■ 理央の心が語る“日本人の当たり前”
ふと、理央は独り言のように言った。
「国を救うって、こういうことなんだよな」
ミュナ
「え……?」
「王様が立派でも、魔物を倒しても……
民が生きられなかったら意味がない。
まずは、ご飯食べて、安心して暮らせて……
それができて初めて“国”なんだよ」
ルルは嬉しそうに笑った。
「そうだね。
理央、優しいよ」
理央は照れくさそうに肩をすくめる。
「いや、日本じゃこれ普通なんだよ。
困ってる人がいたら助けるし、
街が汚れてたら掃除するし。
民が第一ってのは、当たり前でしょ?」
ミュナの瞳が揺れた。
「……そんな国、聞いたことない……
でも……素敵だと思う……!」
その瞬間、
ミュナの胸から透明な光がふわりと漏れた。
理央の“祈り感知”が反応する。
(……ミュナの祈りが、少し強くなった?
この子は……やっぱり、“祈りの器”だ)
ルルが元気よく言う。
「よーし! 次はこっちの家も綺麗にしよう!」
「じゃ、俺も魔法の練習がてらやるわ!」
人族居住区に、久しぶりに笑顔と光が満ちていく。
そしてその裏で、
理央には感じ取れていた。
(……王の破壊衝動は進んでる。
でも急いでもダメだ。
まずこの街に“生きる力”を戻さなきゃ)
それは、
日本人が長い歴史で積み上げてきた“民あっての国”という価値観。
理央の祈りが、街へゆっくりと染み込んでいく。




