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第1章 第2話 「異世界、はじめました」

 森を抜けると、空気が穏やかに変わった。

 夕陽が差し込み、遠くに小さな村が見える。

 煙突からは白い煙が上がり、木造の家々が並んでいる。


「ここが……わたしの村、セルナ村です」


 ルルが振り返り、微笑んだ。

 理央はまだ頭の整理がついていなかった。


「セルナ……ヌマア語だよな? なのに通じてるのが不思議だな……」

「え?」

「いや、なんでもない」


 頭上には、淡い光を放つ月が二つ。

 この光景だけでも、もう日本ではないことを嫌でも思い知らされる。


「それで……リオさんは、本当に行くあてがないんですか?」

「うん。異世界転生って言われても、気づいたら空から落ちてきたし。家も金も、飯もない」

「……転生、って……」


 ルルは少し首を傾げる。

 それでも、目の前で命を助けてくれた少年を放ってはおけなかった。


「じゃあ……しばらく、私の家に来てください。お礼、もしたいですし」

「えっ、いいの? 俺、けっこう図太いよ?」

「図太いって何ですか?」

「……まぁ、気にしないで」


 笑いながら、二人は村へと歩き出す。


 セルナ村は、素朴でどこか懐かしい空気に包まれていた。

 子どもたちが笑い、老人が井戸のそばで話している。

 ただ、その笑顔の奥に、どこか「慎重さ」のようなものが見えた。

 まるで、誰かの“目”を常に気にしているような。


「……なんか、静かだな」

「みんな夜は早く家に入ります。魔物が出るから」

「ふーん。じゃあ夜は外出禁止って感じか」

「ええ。村の上の領館から、そう決められてるんです」


 “領館”という言葉に、理央は首をかしげた。

 だがルルはそれ以上話さず、家の扉を開いた。


「ただいまー! ……母さん、今日の夕飯、二人分でお願い!」


 木の匂いのする温かい家。

 中から優しい声が返ってくる。


「ルル? あら、その子は……?」

「森で助けてくれたんです。怪我もしてるし、しばらく泊めてもいい?」

「まぁ……! あなたがそんなこと言うなんて珍しいわね」


 ルルの母──エリナは、驚きながらも笑った。

 理央は頭を下げる。


「逆刃理央です。空から落ちてきたんで、行くとこなくて」

「空から……? ふふっ、変わった子ね」


 エリナは楽しげに笑い、湯気の立つスープを差し出した。

 香ばしいパンと、温かい香草の香り。

 理央はスプーンを握りしめたまま、しばし動けなかった。


(……なんだろう。こんな普通の飯が、涙出るほど美味そうに見えるって……)


「リオさん?」

「……いや、ありがとう。いただきます」


 一口飲んだ瞬間、理央の表情が緩んだ。


「……うまっ……!」

「ふふっ、良かった。うちの母のスープ、村で一番なんです」


 穏やかな笑い声。

 それだけで、理央の胸の奥の緊張が少しずつ解けていった。


 夜。

 寝床に借りた藁のベッドで、理央は天井を見上げていた。


「……チートもスキルも何もないけど、まぁ……こういうのも悪くねぇな」


 ふと、外から風が吹き抜ける。

 その風の中に、かすかな違和感があった。


 見えない“視線”。

 まるで空の上から、誰かがこの村を覗いているような──


「……なんか、嫌な感じだな」


 理央は小さく呟き、目を閉じた。

 その夜、セルナ村の上空を一筋の光が横切った。

 天使の羽音のような残響を残して。

冷やし中華食べながらこの回を書き出した事は言うまでもありません笑

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