**第二章 第3話 王家の紋章と、日本人のようにまっすぐな少女**
ガルザニア城の謁見室は、朝の光が差し込むたびに金色の木片がきらめき、
まるで森そのものが息づいているかのようだった。
その中央で、グラウド王が大きな手をゆっくりと上げた。
「理央、ルル。
そなたらに渡したいものがある」
従者が恭しく布を開くと、
そこにあったのは金の円形紋章。
中央には、大樹と並び立つ二頭の獣。
それはこの国の象徴、
**“双獣の印”**だった。
ルルが小声で息を呑む。
「こ、これって……王家の……!」
グラウド王は頷いた。
「うむ。
これを持つ者は、ガルザニア王家の客人と扱われる。
人族であれど、この国のどこに行っても害されることはない」
理央が紋章を手に取ると、
一瞬だけ優しい光がふわりと反応した。
(……“祈り”に反応してる?
これ、本当にすごい代物じゃないか)
グラウド王は深く息を吐いた。
「我が国で起きている“獣魔化”を止めるため、
そなたらの力が必要だ。
どうか……力を貸してくれ」
ルルは迷わず頷いた。
「はい! 任せてください!」
理央も力強く返す。
「俺たちにできる限りのことはやります」
王は一瞬だけ胸を押さえて苦しげに顔を歪めたが、
すぐに笑顔を作った。
「……感謝する。気をつけて行け」
その背後で、
理央にしか見えない“黒い鎖”がかすかに軋んだ。
(また……太くなってる。
王の状態、思ってたより深刻かも……)
◆ ◆ ◆
城から出た二人は、木の幹を編んだ温かな街並みを歩き出した。
だが、どこか活気が薄い。
空気がざらつき、祈りが漂っていないように思える。
ルルがぽつりと言う。
「……なんか、みんな元気ないね」
「祈りが枯れてる感じがする」
理央の返答に、ルルは小さく頷いた。
そんな時だった。
「やめてッ!! お願い、痛いよぉ!!」
子どもの悲鳴。
二人は反射的に走り出した。
広場の片隅で、
獣人の青年たちが人族の少女に石を投げつけている。
「新しい理じゃ、人族は二等だって言ってんだろ!」
「働けよ雑種!」
怒りがふつふつと湧くその瞬間──
「やめろォォォッ!!」
突っ込んできたのは、
黒い耳と尻尾を揺らす若い狼獣人の少女。
ミュナ。
彼女は人族の少女をかばうように抱きしめ、
獣人の男たちを真っ直ぐに睨みつけた。
「弱い者をいじめるなんて、ガルザニアの恥だよ!
そんなの……獣人じゃない!!」
その声は震えている。
恐怖ではなく、悔しさで。
男たちは嘲笑う。
「は? もうそんな古い価値観通じねぇよ、ミュナ」
「俺たちは“選ばれた側”なんだよ。
新しい理で、お前の時代は終わったんだよ」
ミュナの体が震えた。
その姿を見た瞬間――
理央の胸にある“祈りの感覚”が、強く反応した。
(……この子、
日本人みたいに“差別しないまっすぐな優しさ”を持ってる。
この国が失いかけてるものを、まだ守ってるんだ)
ルルが紋章を掲げる。
「王家の客人である私たちの前で……
まだそんなこと言うつもり?」
金色の紋章が輝き、
獣人たちの顔が硬直する。
「お、王家の紋章……!!」
「やべえ、逃げろ!!」
バラバラに散って逃げていく。
ミュナはぽかんとしながら、ルルを見つめた。
「王様の……客人……?」
ルルはにこっと笑う。
「大丈夫? 私、ルルで、こっちは理央」
理央も微笑んだ。
「助けてくれてありがとう。
君の勇気、すごいと思う」
ミュナは少し顔を赤くしながら言った。
「……私はミュナ。
獣人だけど、人族を守りたいの。
だって……みんな、本当は同じだから」
その言葉に、
理央の“祈り”が震えた。
(……この子、絶対に放っておけない)




