第22話 「限界突破(レベルブレイク) ―― 祈りが鎖を断つ時」
森の奥。
湿った空気を切り裂くように、獣の咆哮が響いた。
全身を漆黒の魔力で覆った、熊型の下級魔族――〈シャドウベア〉。
その巨体は、ただ立ち上がるだけで地を震わせた。
「でかい……これが下級、なの?」
ルルが呟く。手の中の剣がかすかに震えた。
「いける。リミットブレイクリンク、発動!」
理央の合図とともに、二人の身体が淡い光で結ばれる。
ルルの身体強化と、理央の魔力循環補助が重なり、
瞬間、彼女の動きが一段階跳ね上がった。
光の軌跡を描く剣筋が、魔族の黒い毛皮を裂く。
しかし、獣は怯むどころか逆に闇を纏い、狂気のような雄叫びを上げた。
何度も交錯する剣と爪。
地を砕く衝撃に、理央は思わず叫んだ。
「ルル、下がれ!」
「まだいける、まだ……!」
だがその瞬間、理央の視界に見えてはいけないものが見えた。
――ルルの身体に、金属のような光が絡みつく。
それは女神の理そのもの。
“種族の上限”という名の、見えない鎖だった。
「……ルル、動きが鈍ってる!」
「なんで……私、まだ動けるはずなのに……!」
鎖が軋むような音が、理央の耳の奥に直接響く。
見えない何かが、ルルの力を奪っていく。
理央は拳を握りしめた。
――2,000年。
日本という国が、幾度も絶望を越えてきた。
戦争、震災、苦難のたびに、人々は誰かの幸せを祈ってきた。
その祈りは、神にすがるためのものではなく。
誰かを思うための、静かな光だった。
その記憶の断片が、理央の中で重なっていく。
(……そうか。これが、俺たちの“祈り”なんだ)
理央の胸の奥から、金色の光が溢れ出した。
それは炎でも、聖光でもない。
ただ優しく、世界を包み込むような祈りの輝き。
「ルル。大丈夫だ、俺がいる」
理央が手を伸ばすと、鎖がまるで生き物のように震えた。
そして――砕け散る。
音もなく、世界が揺れた。
女神が敷いた理の枷が、ひとつ壊れた瞬間だった。
「……あ、あれ……?」
ルルの身体を覆っていた光が消える。
代わりに、彼女のステータスプレートが淡く輝き始めた。
【LEVEL:50 → 51】
表示された瞬間、全員が息を呑んだ。
ヌマアでは誰も見たことがない数値だった。
「ルル……お前、上限を……!」
理央が言いかけると、彼女は微笑んだ。
「……うん。理央と一緒なら、超えられる気がしたの」
その瞳に宿る光は、もう誰の加護にも頼らない、確かな“自分の意志”だった。
シャドウベアが咆哮を上げる。
だが、もうその威圧に恐れはなかった。
ルルが剣を構え、理央が祈りを重ねる。
二人の力が交わった瞬間、白金の光がほとばしった。
「リミットブレイクリンク――最終展開ッ!」
剣が閃き、黒い巨体を両断する。
闇の塊が霧散し、森に静寂が戻った。
戦いが終わり、二人は息を整えた。
森の奥で、風が優しく吹き抜ける。
「なあルル……今の、何か感じなかったか?」
「うん。世界の空気が、少しだけ変わった気がする」
理央は空を見上げる。
朝日が昇り、金色の光が森を満たしていた。
「祈りって、すげぇな。
異世界転生程度じゃ、消えやしねぇ」




