第19話 「逆張りの鉄とデーモンコア」
―カタナ? いや、普通の剣でいい―
「……さすがに木剣、限界かな」
模擬戦の最中、理央の木剣がパキンと折れた。
ルルが笑いながら汗を拭う。
「理央、そろそろちゃんとした剣を買おう? もう五本目でしょ」
「うーん、そろそろ運命の一本を見つける頃か……」
昼下がりの市場。
通りの端に、小さな鍛冶屋があった。
「グロッグ鍛冶工房」と書かれた看板。炉の奥では、ドワーフの男がごうごうと火花を散らしていた。
「おう、若ぇの。見ねぇ顔だな」
「剣を買いに来ました」
「ふん、顔つきは戦士じゃねぇな。どこ出身だ?」
「ニホ……いや、遠い東の方です」
ドワーフはにやりと笑った。
「東の方? なら決まりだ。カタナ、だろ?」
店の奥から長い箱を引っ張り出す。中には鈍く光る細身の刃。
「異国の戦士はだいたいこれを選ぶ。薄刃で鋭くてよく切れる。女神の理にも従順な、完璧な武器だ」
「……それ、理に従順なんですか?」
「おう、そうだ。女神の祝福を受けた“正しい形”だ」
理央は数秒考え、笑った。
「じゃあ、それはやめときます」
「……は?」
「俺、逆張りなんで」
その瞬間、グロッグは吹き出した。
「ははっ! おもしれぇ坊主だな!」
理央が選んだのは、見た目こそ地味な黒鉄の剣。
だが刃の根元には、赤黒く光る小さな結晶が埋め込まれている。
「それは“デーモンコア”だ」
「デーモンコア?」
「魔族の核。奴らの心臓みてぇなもんだ。
本来は穢れたモノで、女神の理から外れた素材。
だがな……この鉄と混ぜると、神の加護を“はじく”」
「……理に抗う鉄、ってやつですね」
「そうだ。
普通の奴なら、その剣は持つだけで魔力が狂う。
だが……お前みてぇな“理の外”の奴には、きっと相性がいい」
理央は剣を持ち上げた。
ずしりとした重量感。
それなのに、なぜか手にしっくり馴染む。
「悪くない。っていうか、ちょうどいい」
「名前つけるなら、“逆刃”だな」
「おっ、それいい。採用」
帰り道、ルルとミアが笑いながら歩く理央を眺めていた。
「で、結局カタナやめたの?」
「うん。理央曰く、“理に従順すぎるからダメ”らしい」
「いや、理由が意味わかんない!」
ミアが吹き出す。
「でも……その剣、なんか不思議な感じしますね。
魔力が流れてないのに、温かいというか……」
理央がにっこり笑う。
「多分、俺の方が世界よりズレてるんだろうね」
夜。
神殿裏庭での修行は続いていた。
セラフィーナの指導のもと、神聖魔法の練習。
「癒しの光、在れ――」
光が掌から溢れ、空に散る。
前よりも柔らかく、穏やかな輝き。
「……本当にあなたは、神聖魔法を扱うのが自然ですね」
「うーん、理屈じゃないんですよね。なんか、“あ、治れ”って思うと出る感じ」
「それが一番難しいのですよ」
セラフィーナが穏やかに微笑む。
その横で、理央の新しい剣が月光を反射して鈍く光った。
――その刃が、一瞬だけ赤黒く輝いたのを、誰も気づかなかった。




