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第16話 「理を超えて、重ねる力」  

早朝。

 まだ陽が昇りきらない訓練場に、ルルの剣の音が響いていた。

 風を裂く鋭い剣筋。汗に濡れた額。

 彼女はすでに《身体強化》を発動させていた。


「……おはよう。今日も飛ばしてんな」

 理央が木剣を肩に担ぎながら現れる。


「理央こそ、朝早いじゃない。昨日の魔法、気になって寝れなかったでしょ?」

「まあな。あれ、まだ改良できると思うんだ」


 ルルが眉を上げる。

「リミットブレイク・リンク? あれだけの魔力制御、普通の人間じゃ扱えないよ?」


「“普通の人間”なら、な」

 理央は軽く笑って、木剣を構えた。


 ミアとセラフィーナが見守る中、二人は模擬戦の準備を始めた。

 今日のテーマは――“強化魔法の重ね掛け”。


 ヌマアでは、それは絶対に不可能とされている。

 同系統の強化魔法を二重にかけると、魔力干渉を起こし暴走するからだ。


 ルルが息を整え、詠唱を開始する。

「我が身に宿れ、力の理よ――《身体強化・第一段階》!」

 赤い光がルルの体を包み、筋肉が緊張する。


「よし、ここで俺が重ねる。いくぞ――《リミットブレイク・リンク》!」


 理央が手をかざすと、青白い光がルルを包み込んだ。

 赤と青の光が交差し、一瞬、空気が弾けた。


 ミアが息を呑む。

「だ、駄目! 魔力干渉が――!」


 が、爆発は起きなかった。

 代わりに、ルルの全身を包む光が淡い紫へと変化していく。


「……お、おお……っ!」

 ルルが驚いたように拳を握る。

「体が、軽い! さっきまでの強化の比じゃない!」


「やっぱりな。理を合わせるんじゃなく、“流れ”を繋げたんだ」

 理央が自信ありげに呟く。

「身体強化の出力を、リミットブレイクの魔力循環に統合した。

 つまり、女神が『重ねるな』って言ってたのを、『流す』方向にしただけだ」


 ミアは呆然としながら呟いた。

「そんな……理央くん、それ、理の書に反してる……!」


「反してるからこそ意味があるだろ」

 理央が笑う。

「ルル、動けるか?」


「動けるどころか……!」

 ルルが剣を構えた。風が唸る。


 模擬戦開始。

 ルルが踏み込み、一瞬で間合いを詰めた。

 その速度は先日の《身体強化》の二倍以上。

 木剣が閃光のように走る――が、理央は反射的に受け止めた。


「速ぇな!」

「そっちこそ、反応おかしいでしょ!」


 連撃、受け流し、跳躍。

 その一瞬一瞬に、二人の魔力が重なり合い、紫の閃光が散った。


 観戦していたセラフィーナが静かに微笑む。

「この光……まるで理と理が共鳴しているようですわ」


 ミアが息をのむ。

「理央くんの魔力がルルの身体強化の回路を再構築してる……

 女神様の“干渉禁止領域”を、別の魔力で中和してるんだ……」


 ルルが最後の一撃を放つ。

 理央はそれを受け流し、互いの剣先が同時に止まる。

 光が三度瞬き、試合終了。


「……引き分け、か」

「いや、まだ私の方が早かった!」

「はいはい、そういうことにしておくよ」


 二人が笑い合う。

 そこには、確かに“競い合う仲間”としての信頼が芽生えていた。


「しかし……ルル、今の感覚、どうだった?」

「うーん……身体が軽いというより、“理央の魔力に支えられてる”感じ。

 でも、不思議と安心するの。怖くない」


 理央は満足げに頷く。

「“重ねる”じゃなく“委ねる”のがコツなんだ。

 理に逆らうんじゃなく、理の流れを“越えて合わせる”。」


 ミアが小声で呟いた。

「……また一つ、理が壊れた」


 その呟きを、理央は聞き逃さなかった。

「壊すんじゃないよ。繋いでるんだ。

 女神が勝手に決めた“理の壁”を、人が扱いやすい形にしてやってるだけさ」


 その日、ルルと理央の新しい強化術は、村の戦士たちの間で密かに話題になった。

 「重ね掛けができる勇者」と、「理の外の男」。

 それはやがて、ヌマアの理そのものを揺るがす始まりとなる。

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