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第13話 「祈りの外に立つ者」  

村を襲った小さな事件から数日。

 ルルの怪我は完全に癒え、エリナも元気を取り戻していた。


 教会の鐘がゆっくり鳴る。

 理央はその音を聞きながら、掃除をしていた。


 ――彼は最近、すっかり教会の家事係と化している。

 床を磨き、花を生け、壊れた棚を修理する。


「ほんと、助かってます。理央くんが来てから、教会が生き返ったみたい」

 後ろから声がして振り向くと、白衣の裾を揺らすセラフィーナがいた。


 金糸のような髪を下ろし、少し柔らかく微笑む。

 以前の“神官”としての堅さが、どこかほぐれているようだった。


「別に。暇だからやってるだけだ」

「ふふ……そう言って、今日もぴかぴかに磨いてるじゃないですか」


 掃除を終えた後、セラフィーナが理央を聖堂奥の部屋に呼んだ。

 小さな祭壇の前に立つと、彼女は真剣な表情を見せる。


「理央くん。あの日の癒しの術――報告はしていません」


 理央が目を上げる。


「中央教会には、女神の理を揺るがす出来事として伝える義務があります。

 でも、あれは……“奇跡”ではなく、“意志”でした」


「奇跡なんて呼ばれるのはごめんだ。俺がやったのは、助けたいって思っただけだ」


 その言葉に、セラフィーナは一瞬、息を飲む。

 そして、静かに笑った。


「……やっぱり、報告しなくて正解でしたね」


 彼女は机の上から古びた魔導書を取り出す。

 表紙には金文字で「神聖術大全」と刻まれている。


「あなたの力は、祈りの外にある。

 でも、癒しの原理そのものを理解しておく必要があると思います。

 だから――私が教えます。癒しの術と、神聖の攻撃魔法を」


 理央は少し驚いたように目を細める。

「いいのか? 職業の壁とか、教義とか、いろいろうるさいんじゃないのか」


「ええ。本来なら“神官の理”を侵す行為です」

 セラフィーナはわずかに頬を赤らめながらも、目はまっすぐだった。

「でも、私はあなたに興味があるんです。

 女神の理を壊せる人間なんて、今まで見たことがない」


 その日から、理央とセラフィーナの“修練”が始まった。


 まずは癒しの術の基礎。

 聖なる光を掌に集め、対象の生命流を感知する。


「祈るんじゃなく、“感じる”のが大事です」

「感じる、ね……」


 理央は目を閉じ、セラフィーナの手に自分の手を重ねる。

 微かな光が流れた。


 セラフィーナの指先が震え、息を飲む。

 近すぎる距離――けれど理央の表情は真剣そのものだった。


「こうか? 光の動きが手の中で……」

「……そ、そう。ええ、うまいです」


 耳まで赤くなりながらも、セラフィーナは懸命に指導を続けた。


 夕方。訓練を終えた二人が境内を出ると、ルルとミアが井戸のそばで笑っていた。

 理央が近づくと、ルルがニヤリと笑う。


「理央、最近セラフィーナさんと一緒のこと多いね?」

「教えてもらってるだけだ。誤解すんな」


 ミアが小声でルルに囁く。

「“だけ”って言う人ほど怪しいのよね~」

「ほんとほんと!」


 からかう二人を横目に、理央はため息をつきつつ井戸に水を汲んだ。


「……本当に、あの人は恋に鈍感ですね」

 セラフィーナは苦笑しながら、小さく呟いた。


 夜。教会の灯りが消えたあと。

 セラフィーナはひとり、祭壇の前で祈りを捧げていた。


「女神セリア……。

 私は罪を犯しました。理の外に立つ者に、教義を授けました。

 けれど――」


 彼女は胸に手を当て、微笑む。


「――あの人を見ていると、どうしても信じたくなるのです。

 “理の外”にも、神は宿るのだと」

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