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第11話 「職業の壁にも逆張りを」  

ある朝。

 ルルとミアと共にいつもの訓練を終えた理央は、汗を拭いながらふと尋ねた。


「そういやさ、回復魔法って誰が使えるんだ?」


 ルルが手を止め、少し神妙な顔になる。

「回復は“神官職”の人しか使えないよ。あたしたちは勇者職と魔法職だから、どんなに練習しても無理なの」


「職業って、そんなに決まってんのか?」


「うん。ヌマアの理では、生まれつき“適性”が決まってるの。

 戦士なら体術と剣、魔法使いなら攻撃魔法、神官なら回復と神聖術――。

 だから神官以外が“癒し”を使うなんて、ありえないの」


「……へぇ、そういうの、嫌いだな」

 理央がぼそりと呟くと、ミアがくすっと笑った。

「また逆張り?」


「まあな。壁があるなら、越えてみたいだけだ」


 ルルに案内され、理央は村の小さな教会を訪れた。

 中は静かで、外の喧騒とは別世界のよう。

 祭壇の前に、銀の髪をたたえた女性が祈っていた。


 その女性はゆっくりと振り返り、柔らかく微笑んだ。


「あなたが理央さんですね。……天から落ちてきた男だと聞いています」


「え、もうそんな話が広まってんの?」


「村は狭いですからね」

 彼女は静かに一礼した。

「私はセラフィーナ・クレイン。この村の神官です」


 裏庭で、セラフィーナが両手を合わせる。


「これが回復法術――“ことわり”に従い、神に癒しを請う術です」


 彼女の掌から光が溢れ、枯れかけた花が瞬く間に蘇る。


「すげぇ……」


「神官に与えられた“理”を通してのみ、癒しは届くのです」


 セラフィーナは優しく微笑むが、その言葉には確固たる信念があった。

「あなたは魔法を学んでいるとか。ならば、この法術は扱えません」


「……へぇ、決めつけるのが早いな」


「いえ、理央さん。これは“神の理”そのもの。人が超えていいものではありません」


 理央は腕を組み、苦笑を浮かべた。

「俺、神ってやつと相性悪いんだよな」


 セラフィーナの教えは理屈と規律の塊だった。

 呼吸、姿勢、祈りのリズム――すべてが“神に繋がる理”。


「あなたの魔力は奇妙です。流れが不安定で、どの職業にも分類できません」


「……職業に分類、ね」


「ヌマアでは、神が人の職能を定めました。

 だから剣士が魔法を、魔法使いが法術を扱おうとすれば、理に弾かれてしまう」


「理って、便利な言葉だな」


 理央はそう言って、手のひらを見つめた。

 ――神に頼らず、癒せる力。

 その“ありえない未来”を想像した瞬間、かすかに指先が熱を帯びた。


 夕方。

 理央は自室でひとり、セラフィーナの真似をしていた。


「……“神に祈り、癒しを請う”……」


 彼は苦笑して、その言葉を打ち消す。

「違うな。俺は神に頼まねぇ。自分の意志で癒す」


 そう言って手をかざす。

 掌の先で、ほんの一瞬だけ淡い光が揺らめいた。


「――お?」


 すぐに消えたが、確かに何かが動いた感覚がある。


「……やっぱり、壁ってのは壊すためにあるんだよな」


 翌朝。

 セラフィーナが教会の外で待っていた。


「理央さん。今日も練習を?」


「もちろん。俺、神官じゃないけど、癒しってやつを自分の形で掴んでみたい」


「神官ではない者が癒しを? ……それは、理に反することです」


 そう言いながらも、セラフィーナは微笑んだ。

「けれど……あなたがやるなら、何かが変わる気がします」


 理央は少し笑って、拳を握る。

「“職業の壁”だろ? 壊してみせるさ」


 その手のひらが、再び微かに光った。

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