第10話「二人の師と、届かぬ一撃」
マジックミサイルを撃てたあの日から、一週間。
理央は毎日欠かさず、訓練場で魔法と剣の練習を続けていた。
ルルの家の裏手にある小さな広場。
木の的には無数の焦げ跡、地面は踏み固められてもう土色が変わっている。
「……撃てるようにはなったけど、威力が全然足りねぇな」
掌に残る光を見つめ、理央が呟く。
詠唱なしで放てるようになった“マジックミサイル”。
けれど、威力はミアの半分にも届かない。
理央の魔力制御は、まだ感覚頼りの不安定なものだった。
「そりゃそうでしょ。ミアちゃんの魔法は正確だもん」
ルルが笑いながら言った。
「言っとくけど、私、子どもの頃から撃ってるのよ?」
ミアが胸を張る。杖を軽く構える仕草は、確かに熟練のものだった。
「じゃあさ、試してみようぜ」
理央が口角を上げる。
「詠唱なしの俺と、詠唱ありのミア。どっちが先に三発当てられるか勝負だ」
「え、模擬戦? 面白そう!」
ルルがすぐ反応する。
「じゃあ私が審判やる!」
広場の真ん中に立つ二人。
ルルが手を挙げて宣言した。
「ルールはいつも通り、三か所光ったら負け!
ミアの魔法は『打撃無効』をかけてあるから痛くないよ!」
「了解」
「よーし、負けないからね、理央くん!」
ルルの掛け声が響く。
「はじめっ!」
ミアが素早く詠唱に入る。
「――我が手より放たれし導きの光よ!」
同時に理央も動く。
詠唱はしない。ただ、魔力の流れを掌で感じ取り――イメージする。
“放て”
ほぼ同時に二つの光弾が飛び出した。
ミアの青白い弾が一直線に飛び、理央の光はわずかに揺れながらも真っすぐ前へ進む。
パァンッ! 空中で二つの光がぶつかり、爆ぜた。
「うそっ!? 相殺された!?」
ミアの目が見開かれる。
だが、すぐに次の詠唱を始める。
理央は焦りながらも二発目を撃つ。
しかし今度は詠唱速度の差で負けた。ミアの光弾が理央の右腕に命中、淡い光が浮かぶ。
「1ヒット!」
ルルの声が響く。
「……ちっ、やっぱ速ぇな」
「ふふん、理央くん、言っとくけど私、攻撃魔法専門なんだからね!」
理央は息を整えながら、もう一度掌を向けた。
詠唱のリズムを思い出す。ミアの声、魔力の揺らぎ、発射のタイミング――
その一つひとつを頭の中で再生する。
(……詠唱なしでも、正確にイメージすれば同じことができるはずだ)
集中。
世界が静まり返る。
光が生まれる瞬間、ミアの魔力とぶつかる。
再び閃光。だが今回は、理央の弾がかすかに勝っていた。
ミアの肩が淡く光る。
「1対1!」
ルルの声。
「やるじゃない!」
「そっちこそな!」
二人の笑みが交錯する。
次の瞬間、同時に放たれた三発目。
結果――
ミアの弾がわずかに速く、理央の胸を打ち抜いた。
「3ヒット、勝者ミアーっ!」
光が消え、二人が息をつく。
ミアが杖を下ろし、肩で笑う。
「詠唱なしでここまで撃てるなんて……ほんとに人間?」
「さぁな。俺もよくわかんねぇ」
理央は肩をすくめて笑った。
夕暮れ。
ルルが木剣を手にして、理央に言った。
「じゃあ、次は私の番だね」
「おいおい、今日もうクタクタだぞ」
「ダメ。勇者としては、日々の鍛錬が基本だから!」
結局そのまま模擬戦が始まる。
結果は――やはりルルの圧勝だった。
理央の木剣は何度も光り、三度目で敗北。
「……強ぇなぁ、ほんと」
「理央くんだってすごいよ。だって、剣も魔法もどんどん上達してる」
ルルが笑う。
「でも、私もね……最近、体が軽いの」
「へぇ。筋トレでもしてんのか?」
「違うよ! なんか、理央くんと戦ってると、動きが良くなるんだ」
理央は苦笑した。
「だったら、もっと戦うしかねぇな」
ルルは少し頬を赤らめて、照れくさそうにうなずいた。
その夜。
理央はミアから借りた杖を手に、月明かりの下で魔力を放った。
掌から小さな光が生まれ、風に消える。
「……“お願い”なんか、しねぇ。俺は俺の力で撃つ」
光が一瞬、星のように瞬いた。
それはまだ弱々しいけれど、確かにこの世界の“理”を少しずつ変え始めていた。




