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ほんのり光る、この日常  作者: 朧月 華


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金継ぎの絆「完」

第一章:割れる音、繋ぐ想い


春の雨がしとしとと降る京都の朝、工房に硬い物が砕ける音が響いた。


「姉さん…ごめん、ごめんなさい…!」


妹の小夏の声は泣きじゃくっていた。床には祖母の形見である志野茶碗が無惨に散らばっている。彼女の震える指先には、最後の一片が握られていた。


「大丈夫」

私は跪き、破片を拾い集めた。小夏の落ちた涙が、志野の柔らかい肌に染み込んでいく。


「でも…姉さんまだ修行中だし…」

「必ず美しく直す。祖母が教えてくれた金継ぎの心で」


雨音が工房を包む中、破片は私たち姉妹の運命を変える始まりとなった。


第二章:漆の絆、金の輝き


祖母の工房には、百年分の漆の香りが染みついている。夜更けまで、私は割れた茶碗と向き合った。


「傷を隠すな、輝かせよ」


祖母の声が蘇る。漆を練る指先に、かつて祖母が手を重ねて教えてくれた温もりを思い出す。


「姉さん、休まないの?」

小夏が差し入れてくれた抹茶の香りが、疲れた心を癒す。


「もう少し。この曲線を、どう金で表現するか…」


月明かりが工房に差し込み、漆の黒と金粉の輝きが神秘的な陰影を織りなす。


第三章:運命の茶碗


五月晴れの日、工房に颯爽とした男性が現れた。彼が取り出した割れた唐津茶碗に、私は息をのんだ。


「これは…戦国時代の幻の窯では?」


彼は驚いたように目を見開いた。

「お見通しです。佐竹蒼太と申します。この茶碗を蘇らせたい」


彼の熱いまなざしに、同じ工芸を志す者としての共感が胸をよぎった。


第四章:すれ違う想い


蒼太が通うようになってから、小夏の笑顔が消えた。


「小夏?」

「姉さんは蒼太さんと話してればいいよ。私なんて…」


ある夜、彼女の本心が溢れ出た。

「ずっと…私も金継ぎを学びたかった。でも姉さんがいつも先で…」


その言葉は、私の胸を鋭く刺した。気づかなかった妹の想いが、今、深い亀裂となって現れた。


第五章:偽りの金粉


蒼太の訪問が突然途絶えた。一週間後、小夏が真っ青な顔で駆け込んでくる。


「姉さん、蒼太さん…あの有名な陶芸家の孫で、私たちの技術を…」


電話の向こうで、蒼太は静かに認めた。

「最初はそれだった。だが今は…君たちの金継ぎに心打たれて」


受話器を握りしめる指が震えた。信じた時間が、偽りの金粉のように散っていく。


第六章:新たな輝き


傷つきながらも、私は茶碗に向き合い続けた。そして気づく。


「この技法…祖母のとは違う」


蒼太が残したメモから見えるのは、伝統を尊重しながらも新たな表現を求める魂だった。


「姉さん、この金の線…」

小夏の指先が、蒼太の残した優しい曲線をなぞる。


三人の想いが、一つの茶碗の中で静かに響き合う。


第七章:三つの金継ぎ


満月の夜、蒼太が工房に戻ってきた。


「偽りから始まったことを詫びる。だが今、この金継ぎへの想いだけは本物だ」


小夏が涙を拭う。

「私も…姉さんへの嫉妬を誤魔化していた」


漆の香りの中で、三つの魂が初めて真実を見つめ合う。


第八章:未来を継ぐ


私たちは新たな金継ぎの道を模索し始めた。


「見て、姉さん!この金の波紋が…」

小夏の目が、初めて心からの輝きを放つ。


蒼太が頷く。

「伝統とは、過去を守るだけではない。未来へ継ぐためのものだ」


三人の手が触れ合う時、新たな金継ぎが生まれていく。


第九章:絆の輝き


一年後、私たちの共同作品が京都工芸展で最高賞を受賞した。


「この輝きは…三人の想いの結晶です」

蒼太の声に、小夏が嬉しそうにうなずく。


割れた茶碗は、金の川が流れる芸術作品へと生まれ変わった。傷跡は弱点ではなく、最も美しい個性となった。


第十章:永遠の金糸


今、私たちの工房には全国から弟子が集う。小夏は後進の指導に情熱を燃やし、蒼太は伝統と革新の架け橋となる。


「あの日、茶碗が割れたのは必然だったのかも」

小夏の囁きに、私は静かに笑う。


金継ぎの輝きが工房を満たす。傷ついたものこそ、唯一無二の美しさを放つことを、私たちは知っている。


──金の糸は、過去と未来を永遠に紡ぎ続ける。


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