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第41話 最深部に眠る「答え」へ

 ロニーと別れたライアンは、寮の前で大きく手を振っているレグナスとフィオナの元へ駆け寄った。


 「ライアン! 遅かったじゃねぇか!」

 「おかえり、ライアン!」

 レグナスの明るい声と、フィオナの弾む笑顔。

その光景だけで、屋敷で感じた重たい空気が少しずつ晴れていく。


 「ごめん、ちょっと色々あってさ……。でも、すぐに戻れてよかったよ」

 

 三人はしばらく近況を語り合い、笑い声が絶えなかった。

その後、ライアンはふと思い出し、二人へ切り出した。


 「あのさ……期末試験の内容、もう見た?」


 「試験? あ、期末試験のことか?」レグナスは思い出すように、首を傾げた。


 「まだ詳しくは……」フィオナは恥ずかしそうに応えた。


 ライアンは鞄から案内の紙を取り出し、二人に見せた。

 「地下迷宮の攻略試験だって。三人一組で潜るらしいんだ。

  よかったら、僕と……組んでくれない?」

 

 その瞬間、レグナスは胸を叩き、大笑いした。

 「組むに決まってんだろ! 俺たち三人なら最深部だって余裕だ!」

 

 一方、フィオナは同じ紙を見つめながら、ほんのわずかに眉を寄せていた。


 「……どうしたの、フィオナ?」

 ライアンが尋ねると、フィオナは唇を噛みながら答えた。


 「……最深部の階層主のこと、気になってて。

  本で読んだことがあるの。すごく……危険なのよ」

 その声には怯えが滲んでいた。

 

 ライアンの表情も、自然と真剣になる。

 「どんなやつなんだ……?」

 

 フィオナは静かに語り始めた。

 「“六腕の巨人”。身長は普通の巨人の倍以上。

  腕が六本あって……しかも、目から灼熱の閃光を放つの。

  当たれば骨まで焦げる……って書いてあった」

 

 ライアンはゴクリと唾をのみ込んだ。

背中に冷たい汗が流れ、洞窟で黒衣の男やシグムントと戦った記憶がよみがえる。

だが、その肩に力強い手が置かれた。

 「おい、ライアン。そんな顔すんなよ」

 

 レグナスは、いつもの豪快な笑みを向けてくる。

しかし、その明るさが逆に胸に重く響いた。

 「三人で戦えば倒せる。俺とライアンとフィオナならな。

  それに……あくまでも試験だから、死ぬことだけはねぇよ。

  きっとあのレースみてぇに、防御魔法かけてくれるさ」


 レグナスの言葉を聞いても、すぐには不安は消えない。

ライアンの胸では、恐怖と希望がぶつかり合っていた。


 (……本当に、倒せるのか?

  シグムントとの決闘みたいに……俺、また打ちのめされるだろうか?)

 

 隣のフィオナも同じだった。

不安げな表情を浮かべたまま、レグナスの言葉を飲み込めずにいるように見えた。


 「……三人で、って言っても……あれは、本当に危ない魔物よ」

  フィオナの声は震えていた。

 

 だが、レグナスは二人の間に立ち、しっかりと肩に手を置いた。

 「怖ぇのは当たり前だよ。でもさ――

  “怖ぇから無理”じゃなくて、“怖ぇけど行く”のが冒険者だろ?」


 その声に、無理やり励ます押しつけはなかった。

ただ、二人を信じているという確かな重みだけがあった。

ライアンは俯きかけた視線を上げ、レグナスを見た。フィオナもまた、そっと視線をレグナスへ向ける。

心の奥の恐怖は、まだ完全には消えない。けれど――その恐怖を押し流すほどの“支え”があった。


 「……レグナス、君……」

 

 「ほんと、いつもこういう時だけ強いんだから……」

 

 二人は同時に小さく笑った。その笑みは弱々しいけれど、確かに前へ進むための一歩だった。

ライアンは両手を握りしめ、ゆっくりと息を吸い込む。


 (怖い。でも……二人がいる。だったら、俺も――戦える。

  絶対に最深部まで行って、ロニーが言っていた“答え”を見つけ出すんだ)


 「……よし。三人で最深部まで行こう」


 「うん。やってみよう……!」


 ほんのわずかだが、三人の胸に勇気が芽生え始めた。


 「そう言えば、この後、講堂で説明会があるって。行こう」

 ライアンの言葉に合わせて、三人は並んで歩き始めた。

地下迷宮で待つ試練も知らないまま――



 講堂へ足を踏み入れた瞬間、ライアンは思わず周囲を見渡した。

既に多くの学生が集まっていて、不安、期待、ワクワク、緊張――あらゆる感情が空気に混ざって

揺れている。

 

 レグナスとフィオナも並んで立ち、三人は自然と肩を寄せ合った。

やがて、壇上に向けてざわつきが走る。ダリオン先生とアルヴェイン校長が姿を現したのだ。

アルヴェインは長い白髪を揺らし、静かに集まった学生たちを見渡す。

その紫の瞳が一人ひとりを確かめるように動き、自然と講堂に緊張が満ちていく。


 「皆、よく揃ったな。これより――恒例の期末試験について説明する」

 老人らしい静かな声だが、不思議と講堂の隅々まで響き渡る。

アルヴェインが片手を横にかざすと、その指先から淡い光が立ち上った。

光は宙に浮かび、ゆっくりと形を変えていく。

逆さまの円錐――まるで大きな塔をひっくり返したような立体が浮かび上がった。


 ざわ……っ。


 「何だあれ……?」

 「魔道具か?」

 「いや、どう見ても……」


 学生たちのざわめきが一気に広がった瞬間、壇上の男が大きく咳払いした。


 「静粛に」

 ダリオン先生の一声で、空気が凍りつくように静まる。


 「これは学院地下に広がる“迷宮”だ。今回の試験会場となる」

 ダリオン先生は淡々と説明を続けながら、円錐の幻影を指し示す。


 「全体で十階層。下へ進むほど危険な魔物が生息している。

  アルヴェイン校長が、諸君にも分かりやすいように幻影魔法で可視化してくださった」

 

 学生たちは円錐の表面を流れる光のラインを食い入るように見つめる。

そこには階層ごとの区切りらしき線が刻まれ、部分部分で魔物の影も揺らめいていた。


 「今回の試験では、各自チームを組んで最深部を目指してもらう。

  進んだ階層に応じて加点され、地下五階に到達できれば合格とする」

 

 その瞬間、学生たちから安堵の吐息が漏れる。

五階なら何とか行けるかもしれない――そんな表情があちらこちらで浮かんだ。


 「そして――最深部に到達した者には“豪華なご褒美”が待っている」


 講堂の空気が一気に緩む。もともと強張っていた表情も、途端に期待に変わった。

しかし、ダリオン先生の声はそこで厳しくなった。


 「ただし。そこには凶暴な階層主がいる」

 その瞬間、アルヴェインが静かに右手を振った。

円錐の幻影が波紋を描いて崩れていき――代わりに、巨大な“影”が浮かび上がる。

輪郭が揺れ、やがて形が定まった。


 六本の腕を持つ巨人。

 ギィ……ギィィ……

 その唸り声が幻影から響く錯覚に、学生たちは息を呑んだ。


 「これが最深部の階層主“六腕の巨人”。成人男性の十倍の身長。

  六本の腕から繰り出される打撃は、盾ごと骨を砕く威力だ」


 ざわっ……!


 「そして一番の脅威は――」

 ダリオン先生が顎で示す。

巨人の頭部、ぎょろりと光るその目。


 「目から放たれる灼熱の閃光。当たれば、大怪我……

  場合によっては、即死だ」

 

 講堂全体が大きく揺れた。

学生たちは息を呑み、後ずさる者まで出る。

ライアンも喉がきゅっと締めつけられるような感覚に襲われた。


 あれと戦う――自分が、あれと?

不安が胸を支配しそうになったその時。


 「心配するな」

 アルヴェインが声を張った。

 「受験者には防御魔法をかける。死ぬことだけはあり得ぬ。

  恐れる必要はない。ただ全力で挑めばいい」

 

 その言葉に、ざわめきは少しずつ落ち着きを取り戻す。

ライアンは改めて六腕の巨人を見つめた。


 確かに恐ろしい。だが――胸の奥に少しだけ力が灯る。


 (……絶対に、倒す。

 ロニーが言ってた“答え”も、そこで見つけてやる)


ライアンは拳を握りしめ、静かに決意を固めた。



 ダリオン先生の説明が一段落した後、アルヴェイン校長は円錐の幻影にそっと手をかざした。

すると、光の像は静かに揺らぎ、霧のように消えていった。

その瞬間、講堂の空気が僅かに引き締まる。

続けてダリオン先生が前に一歩進み、深く息を吸って学生たちを見渡した。


 「――試験は、明日の朝だ。準備する時間はまだある。装備も体調も、抜かるなよ」

 その声には、普段よりも重い響きがあった。地下迷宮がただの勉強の場ではないことを、

誰もが感じ取っていた。やがて説明は終わり、学生たちはざわめきながら講堂を出ていく。

ライアン、レグナス、フィオナも流れに混じって歩き出した。


 「……よし。明日、三人で頑張ろうな」

 ライアンがそう言うと、二人は同時に力強く頷いた。


 「もちろん! 絶対に最深部まで行こうぜ!」


 「……うん、やるしかないね」


 歩いている途中、フィオナがふと立ち止まり、二人を見上げた。

 「ねぇ、明日の試験……地下迷宮って、何日も潜ることになるかもしれないんだよね」


 「まあな。長期戦になるかもって言ってたし」

 レグナスが腕を組む。


 フィオナは頷き、少し考えるように口元に指を当てた。

 「だから……ちゃんと食料を持って行ったほうがいいと思うの。

  でね――せっかくだし、私が作っていこうかなって」


 「マジか!?」

 レグナスの顔が一気に輝いた。


 「うん。同じチームなんだし、準備くらい手伝わせてよ。

  だから二人とも、好きな食べ物教えて?」


 「肉!! 肉ならなんでも!!」

 レグナスは食い気味に答えた。

 

 フィオナは思わず吹き出し、肩をすくめた。

 「ほんと、分かりやすいなぁ……。じゃあ、肉多めで考えるね」


 一方、ライアンはというと――

口を開きかけては閉じ、もごもごと視線を彷徨わせるばかり。


 「ライアンは? 好きなの、ないの?」


 「え、あ……その……」

 しどろもどろで答えられない。


 レグナスはニヤリとし、黙っていられないといった顔でライアンの肩を抱いた。

 「おいおい、フィオナの手作り飯だぞ?

  好きな子の愛情弁当が食える――めったにないチャンスじゃねえか?」


 「っ……!! レ、レグナス!!」

 ライアンの顔は一瞬で真っ赤になり、俯いてしまう。


 二人でこそこそ話している光景を見たフィオナは、首をかしげて尋ねた。

 「どうしたの、ライアン?」


 「ち、ちがっ……! えっと……! ぼ、僕も……肉料理が好き、かな……!」

 ようやく絞り出した答えに、フィオナはふわりと微笑んだ。


 「そっか。じゃあ二人とも同じだね。明日、楽しみにしてて」

  そう言って、フィオナは軽く手を振り、寮へと歩いていった。

背を見送るライアンの耳は、まだ真っ赤なままだった。

レグナスとライアンは互いに顔を見合わせて笑った。


 「武器の手入れでもしとくか」


 「……うん、そうだね」


短い言葉を交わした二人は、それぞれの部屋へ戻った。


 自室に戻ると、ライアンはガラントが作った両手剣――ブレイヴフレイムを丁寧に抱え込み、

布で磨き始めた。明日の戦いを思い浮かべながら、立ち位置、連携、魔物の攻撃パターン……

様々な状況を何度も頭の中でシミュレーションする。


 そして――シュタインルー村の洞窟での失敗が胸に刺さった。

あのときの自分の判断が甘く、レグナスを大怪我させてしまった。


 (……もう二度と、同じことはしない)


強く誓った瞬間、剣の表面に赤い幾何学模様がふっと浮かび、淡く脈動した。

まるで――彼を励ましているように。


 「……ありがとう。明日、頼りにしてるからな」

 ライアンはそっと刀身を撫でた。

その夜、ブレイヴフレイムを枕元に置き、胸に期待と不安を押し込みながら、ライアンは目を閉じた。

明日、運命の試験が始まる。


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