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第23話 襲われた村人

 木々の葉がすれる音に混じって、誰かの悲鳴が林を切り裂いた。

ライアンは足を止め、仲間へ視線で合図する。(今のは……助けを呼ぶ声だ)

 「行こう」


 レグナスが頷き、フィオナも三つ編みを押さえながら駆け出す。三人は膝上まで伸びる草をかき分け、

声の方向へ一直線に走った。視界が開けた先で、年配の男が小さなハンマーを必死に振り回していた。

腰を抜かしたまま、汗に濡れた肩が震えている。その周囲を、数体のゴブリンが取り囲んでいた。


 彼らは灰緑色の肌にぎょろつく目、痩せぎすで不気味にしなやかな手足を持ち、甲高い笑い声を

上げながら、じりじりと男へ迫っていた。


 「おーい、こっちだ!」

 ライアンが声を張り上げる。獣の群れを前にしたときのように、低くまっすぐ響いた。

ゴブリンたちの黄色い目が一斉に向き、牙をむいて突進してくる。

(さあ、かかってこい......!)

 「レグナス、援護を! フィオナは僕に強化を!」

  瞬時に指示が飛ぶ。


 「任せろ! ファイヤー・アロー!」

 レグナスの杖先に赤い魔法陣が咲き、矢のような炎が奔った。先頭のゴブリンの胸を貫き、

体が光の粒となってはじけ飛ぶ。


 「エンハンス!」

 フィオナの詠唱とともに金色の膜がライアンの脚と胸に重なり、体が軽くなる。


(……いける!)

 両手剣を振り下ろし、迫るゴブリンの刃を受け止め、力任せに押し返す。返す刃で腹を断ち、

光の粉が宙に舞った。次に飛びついてきた一体は剣の腹で払って地面に叩きつける。


 「数は多いけど、まだ余裕だな!」

 レグナスが笑って二射三射、炎矢が群れを次々と焼き払う。


 横から回り込んできた影――ライアンは腰をひねり、剣先を小さく突き出す。刃が肉を裂き、

核を正確に貫いた。

(核は中心……見えないけど、体の揺れに“空白”がある。分かる……!)

最後のゴブリンが地に伏し、光の粉となって消える。残された小さな黒い核が、草の上にころんと

転がった。


 ライアンは荒い息をつきながら剣を下ろし、核を一つ拾い上げる。

 「よし……これで三つ目。課題の成果になるな」


 「ははっ、さすがライアン。的確だ」

 レグナスが笑う。


 「でも気を抜かないで。まだどこに隠れてるか分からないから」

 フィオナが真剣に告げる。


 ライアンは二人の言葉にうなずき、手の中の核を見下ろした。光を失ったそれは、ただの石に見える。

けれど――(これが、人間が恐れる“魔物”の証か……)と、心に重みが残った。


 「大丈夫ですか」

 ライアンが男の側へ膝をつくと、男は座り込んだまま、痛む右足を押さえていた。ズボンの膝が裂け、

うっすら血がにじんでいる。周りには大きな布袋や工具が散らばって、揉み合いの跡が草の上に

生々しい。

 「う、うむ……助かった、若いの。足をひねっちまってな……」


 「じっとしていてください。すぐ治します」

 フィオナが膝をつき、掌をそっと男の足首にかざす。柔らかな声で紡がれる。

 「――光よ、癒しのきらめきとなれ。《ヒールライト》」

 指先から溢れる温かな光が男の足首を包み込む。淡い金色の輝きが血を洗い流すように沁みていき、

歪んでいた呼吸が少しずつ整っていった。


 「……おお……痛みが……消えていく……ありがてぇ……」

 男は驚いたように目を丸くし、やがて安堵の色を浮かべて深く息を吐いた。


 その時、背後から鼻につく笑い声が響いた。

 「へっ、見ず知らずの老いぼれ助けとは、まったくご立派なことで」

 振り返れば、シグムントが悪友を二人引き連れて立っていた。灰色の長髪を高く結い、口元だけで

笑っている。


 「俺たちは先に洞窟へ行く。課題はちゃっちゃと片づけて帰る主義でね。お前らはそこで慈善ごっこ

  でもしてろ」


 「困ってる人を助けるのは当たり前だろ!」

 レグナスが一歩前に出て、眉を吊り上げる。

 

 シグムントはわざとらしく肩をすくめ、鼻で笑った。

 「当たり前? ふん。そんな無駄に時間を食う正義感、俺には理解できんね。老人を助けても

  何の得にもならん。助けるならせめて美人のお姉さんにしとけよ」

悪友たちが下卑た笑い声を上げる。シグムントも肩を揺らしながら踵を返し、洞窟の方へと歩いていく。

軽蔑の残滓だけが場に落ちた。ライアンの胸にちりっと火がともる。だが、視線は追わず、男に

向き直った。


 「立てますか」

 フィオナがそっと問いかけると、男は短くうなずいた。


 「ああ、もう大丈夫だ。嬢ちゃん、礼を言うよ」

 男は足を確かめながら、散らばった荷物を見回す。筋の太い腕、指の節に刻まれた古傷。

年を重ねているのに、眼差しは生き生きとしていた。


 ライアンたちは互いに頷き合い、布袋や工具を一つひとつ拾い集める。草に埋もれた小さな部品まで

丁寧にかき集める姿に、男の顔がほころんだ。

 「すまんな……ほんと、助かったよ。わしはガラント。村まで案内しよう」


 「僕はライアン。こっちはレグナス、そしてフィオナです」

 三人が名乗ると、ガラントは満足げにうなずき、荷物を肩に担いで歩き出した。


 「……そう言えば......その村は、なんて名前なんですか?」

 ライアンが首をかしげて尋ねると、ガラントは振り向きながら答えた。


 「シュタインルー村さ。山の恵みで生きる小さな村だ」


 「やっぱり……! 僕たち、ちょうどそこへ向かっていたんです!」

 ライアンの瞳がぱっと輝く。


 男は目を細め、口元に笑みを浮かべた。

 「そりゃ好都合だな。案内してやろう」


 林を抜けると、視界が一気に開けた。石畳が円を描くように広がり、その内側に家々の屋根が並ぶ。

中央には屋台の並ぶ広場――香ばしい匂いと人々の声が渦を巻いている。

遠くの丘に、ぽっかりと大きな黒い穴が口を開けている。


 「ほれ、あの丘の上に口を開けとるのは洞窟じゃ」

  ガラントが指を差す。


 「昔からあそこは村の収入源でな。武器や道具に使う鉱石がよう採れたんじゃ。だが……」

 言葉を切り、ガラントは苦い顔をした。

 「最近になって魔物が棲みついてしもうた。村の者も容易に近づけん。命を落とす者さえ出ておる」


 ライアンは胸の奥がざわついた。

 (あれが……俺たちの目的地……!)


 「よし、行こうぜ!」

 レグナスが腕を振り上げる。


 「えっ、今から?」

 ガラントが目を丸くした。

 「無茶を言うな。夜になると魔物は活発になる。そんな時間に洞窟へ入るなんて、わしでもせんぞ」


 フィオナが一歩前に出て、胸を張った。

 「私たち、ヴァルグランデ学院の生徒なんです。課題で……あの洞窟に入って、ゴブリンを

  討伐することになっていて」


 「なんじゃと……!」

 ガラントの顔に驚きが走る。

 「子どもがそんな危険な真似を……せめて明るい内にせんと命がもたん」


 ライアンは唇を噛み、仲間を見た。

 (……ガラントさんの言う通りだ。夜に突っ込むのはさすがに無茶だ)

 「なぁ、レグナス、フィオナ。今日は宿で休んで、明日の朝イチで挑もう。そっちの方が絶対いい」


 レグナスは一瞬むっとした顔をしたが、やがて肩をすくめて笑った。

 「ま、ライアンがそう言うならな」


 フィオナも頷き、安堵の息をついた。


 「そうと決まれば――助けてくれた礼じゃ。わしが飯をおごってやろう」

 ガラントの笑顔に導かれ、三人は賑やかな広場を抜けて宿の食堂へと足を向けた。


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