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第18話 窮地で生まれた連携攻撃

 境界を越えた瞬間、空気が一変した。

 吐息が白く漂い、足元の草原は凍りつき、視界いっぱいに雪と氷の大地が広がる。


 ライアンは思わず身震いした。

 「……寒い」


 「気を抜くなよ、ここはアイス・スライムの巣窟だ」

 レグナスが前を見据えて告げる。

 その直後――。

雪原の上で白い塊がゆらりと揺れた。スライムより少し大きい、透き通るような球体。

それは静かに跳ね、フィオナの前にじわじわと迫ってきた。

次の瞬間、白いスライムが口を開き、拳ほどの氷塊を吐き出した。


 「きゃっ!」

 

 「フィオナ!」

 ライアンは反射的に飛び出し、両手剣を構える。刃の腹で氷塊を受け止め――ごん、と重い音を

立てて弾き飛ばした。氷片が四散し、雪の上に散らばる。ライアンが息を荒げる間もなく、背後から

声が響いた。


 「ナイスだ、ライアン! 次は任せろ!」

 レグナスが杖を構え、呪文を叩きつけるように唱えた。

 

 《ファイヤー・アロー!》

 赤い魔法陣が杖先に浮かび、火の矢が一直線に飛ぶ。白いスライムは逃げる暇もなく貫かれ、

体を震わせると――光の粒となって消え去った。


 雪煙が晴れた後、ライアンはすぐに振り返った。

 「フィオナ、大丈夫か!?」

 

 フィオナは肩で息をしながらも、安堵の笑みを浮かべる。そっとライアンのそばに寄り、肩に

かかる三つ編みを指で撫でながら、小さな声で囁いた。

 「……ありがとう。助けてくれて」

 

 至近距離で向けられる感謝の瞳。ライアンは一瞬、胸を突かれたようにドキッとする。

 「い、いや……無事なら……それでいい」

 耳まで赤く染まり、どこか照れくさそうに呟いた。


 二人の視線が絡む。雪原の冷気とは裏腹に、頬が熱を帯びていく。

 

 ――ごほんっ。


 唐突な咳払いが背後から響いた。レグナスが眉をひそめ、不機嫌そうに呟く。

 「おいおい、まだ戦闘中だぜ? イチャつくのは帰ってからにしてくれよ」


 「なっ……ち、違う!」

 ライアンは慌てて拳を握り、前を指した。

 「さ、さぁ行こう! まだ敵はいるはずだ!」


 フィオナも顔を赤らめて小さく頷く。レグナスはやれやれと肩をすくめながらも、口元には

呆れ半分、楽しげな笑みを浮かべていた。


 その後も三人は連携して進む。前衛にライアンとレグナス。アイス・スライムが氷弾を飛ばせば、

ライアンが剣で弾き、レグナスが隙を見て炎矢を撃ち込む。後方ではフィオナが支援魔法を繰り返し

唱え、二人の動きを軽やかに保つ。


 「仲間を導く黄金の加護――《ブレイブ・ブースト》!」

 足元が再び光に包まれ、力が漲る。ライアンは思わず声を上げた。


 「すごい……全然疲れない!」

 「へへっ、こりゃ戦いやすいな!」レグナスも勢いづき、次々と氷の魔物を消し飛ばしていく。


 気づけば三人の呼吸は自然に合い、互いの動きを読み合って、まるで長く組んできた仲間のように

戦えていた。やがて前方に光の境界が見えてくる。氷原の出口だ。

 

 三人は一旦足を止め、荒い息を整えた。

 「……ここまで来られたな」

 ライアンが言うと、レグナスは大きく頷き、胸を叩いた。


 「おう! 俺たち、けっこういいチームじゃねぇか」

 彼は指を折りながらまとめていく。

 「俺は炎魔法でガンガン攻めるタイプだが、不意打ちに弱い。けど、お前が剣でカバーしてくれる

  から攻撃の隙が生まれる。

  さらに――フィオナの強化魔法のおかげで、体力をほとんど消耗せずに戦えてる」


 フィオナは小さく笑って頷いた。

 「うん……私も二人に支えられてる。だから、次もきっと大丈夫」


 ライアンはその言葉に勇気をもらい、両手剣を強く握りしめた。

 「よし……次のフィールドも、このまま行こう」

 三人は視線を交わし合い、同時に境界を越えた。

 



 目の前に広がるのは、赤くゆらめく炎の世界――ファイヤー・スライムの領域だった。

境界を越えた瞬間、熱風が肌を刺した。赤々とした炎があちこちで燃え盛り、地面はひび割れ、

焦げ臭い煙が鼻を突く。まるで草原全体が燃えているようだった。


 「……すごい。ここだけ別の世界みたいだ」

 ライアンは思わず呟いた。


 「でも、全部が燃えてるわけじゃねぇ。まだ通れる道が残ってるはずだ」


 燃えていない黒土の部分を指差し、ライアンは二人に声を掛けた。

 「……あそこを伝って進もう。無理に炎の中を突っ切る必要はない」


 慎重に足を運ぶ三人。熱気に汗が滲み、ライアンの手は無意識に剣の柄を強く握っていた。

 ――その時、地面がぐらりと揺れた。

 赤いぷにぷにとした球体が炎の中からぬるりと姿を現す。ファイヤースライムだ。


 「来るぞ!」


 スライムの口から炎の玉が弾丸のように飛び出す。


 「っ!」

 ライアンは反射的に剣を構え、両手剣の腹で叩き落とした。火の粉が散り、炎は弾き飛ばされた。

だが、わずかな火の粒が肩に触れ――。

 「っぐ……!」

 刺すような熱痛が走り、思わず体が後ろに引ける。


 「ライアン!」

 フィオナが慌てて両手を胸の前で組み、低く詠唱を唱える。


 「聖なる光よ、癒しの力を――《セイクリッド・ヒール》!」


 金色の光がライアンの肩を包み、じんわりと痛みが引いていった。

 「……助かった」


 「気を抜かないで!」

 フィオナの声に、ライアンは強く頷く。


 その直後、さらに一匹のファイヤースライムが飛び出す。


 「任せろ!」

 レグナスが杖を振りかざし、力強く叫ぶ。


 《ファイヤー・アロー!》

 炎の矢が一直線に飛び、スライムの体へ命中――するはずだった。

 しかし、炎は弾けることなく吸い込まれるように体内へ消えた。


 「……はっ!?」

 レグナスが愕然と目を見開いた。

 「効かねぇ……!? 俺の魔法が……」

 

 スライムは粘り気のある声を上げ、仲間を呼ぶように震えた。地面のひび割れから次々と赤い球体が

湧き出してくる。


 「数が……増えてる」

 ライアンの喉が鳴った。次の瞬間、無数の炎弾が一斉に飛び交った。


 「ぐっ……!」

 ライアンは必死に剣を振るい、炎を弾き落とす。だが、数が多すぎた。肩、腕、足へ次々と炎弾が

当たり、焼けつく痛みが襲う。


 「ライアン!」

 フィオナが必死に呪文を紡ぐが、緊張で声が震え、言葉が途切れる。


 「くそっ……俺じゃ役に立たねぇ!」

 レグナスは拳を握りしめ、ただ悔しそうに歯を食いしばった。


 それでも、ライアンは二人を責めなかった。

(……焦るな、二人とも。戦えないなら――その分、俺が守ればいいんだ)

 

 息を荒げながらも、仲間の方へ一瞬視線を向け、決意を込めて剣を握り直す。


 「大丈夫! 僕が前で受け止める!」

 ライアンは一歩踏み出し、二人の前に躍り出た。

次々と飛んでくる炎弾を両手剣で裁き、火花が散る中で必死に仲間を守り続ける。


 だが、限界は近い。呼吸が荒くなり、腕は鉛のように重い。

(……このままじゃ持たない。何か……突破口が必要だ……!)


 ライアンは頭を必死に働かせた。自分の力、レグナスの炎、フィオナの支援――

組み合わせれば……!


 「フィオナ!」

 「は、はい!」


 「僕に最大限の身体強化を!」

 「わ、分かった!」


 《フォース・エンハンス》

 フィオナが震える声で呪文を唱えると、ライアンの体は金色の光に包まれ、全身に力が漲った。


 「レグナス!」

 「お、俺に何をしろってんだ!?」


 「剣に……炎を!」

 「なっ……剣に炎魔法を!? やってみる!」


 レグナスは必死に杖を構え、炎の力をライアンの剣に注ぎ込む。

 「よし、ライアン! 俺の炎を剣に乗せるぞ――《フレイム・エンチャント》!」


 剣の腹に炎が絡みつき、蛇のようにのたうち始めた。ライアンは大地を踏み抜き、腰を捻って

渾身の横薙ぎを放った。


 「――はああああッ!」

 

 剣が炎を纏い、弧を描いて空気を裂く。その瞬間、轟音が大地を震わせ、炎の軌跡が巨大な刃

となって前方を薙ぎ払った。


 ――ドォォォォン!!

 爆風が襲いかかり、草と土が舞い上がる。


 ライアンの前髪がばさりと揺れ、衣服がはためいた。空気そのものが振動し、耳にビリビリと響く。


 「きゃあっ!」

 フィオナが思わず悲鳴をあげて顔を覆う。

 

 「うおっ……!」

 レグナスも目を細め、思わず一歩後ずさる。


 炎の衝撃波に包まれたファイヤースライムの群れは、耐える間もなく次々と吹き飛び、

光の粒になって消滅していった。地面には深々と抉られた裂け目が残り、煙が立ち上る。

ただそこに立つライアンの姿は、燃え残る炎に照らされ、まるで戦場に降り立った英雄のようだった。


 呆然と立ち尽くすレグナスとフィオナ。

 「……お、お前……」

 「ライアン……今の……」


 ライアンは息を荒げながら、必死に叫んだ。

 「……立ってないで……今のうちに……! 走るぞ!」

 

 二人はハッと我に返り、ライアンの背に続いた。境界を越えた瞬間、熱気は消え、広がるのは

穏やかな草原だった。


 「はぁ……はぁ……」

 ライアンは力尽きるように剣を取り落とし、その場に仰向けに崩れた。大の字になって空を見上げ、

荒い息を吐き続ける。


 「ライアン!」

 フィオナとレグナスが慌てて駆け寄る。


 体のあちこちに火傷が残り、服も所々焼け焦げていた。


 「……大丈夫、だ」

 ライアンは苦しげに笑い、弱々しく親指を立てた。


 だが、フィオナの表情は険しい。彼女はライアンの傍らに膝をつき、低く短い詠唱を紡ぐ。


 「聖なる光よ、癒しの力を――《セイクリッド・ヒール》!」


 金色の光がライアンの身体を覆い、焼けただれた皮膚が次第に癒えていった。


 「……ありがとう」

 ライアンは安堵の笑みを浮かべる。


 その間、レグナスは拳を握りしめながらも笑みを浮かべた。

 「お前……すげぇよ! あんな技、俺でも思いつかねぇ!」


 「……いや、二人がいたから……できたんだ」

 照れくさそうにライアンが答えると、レグナスはますます嬉しそうに笑った。

 

 息を整え、三人が立ち上がろうとしたその時――。


 下品な笑い声が草原に響いた。



 「ククク……ようやく来やがったな」

 複数の人影が近づいてくる。その先頭にいるのは――見覚えのある黒い瞳。

シグムントが、挑発的な笑みを浮かべて立っていた。

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