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第17話 新入生歓迎レース

 学院中庭は朝から熱気に包まれていた。

屋台からは香ばしい匂い、舞台からは楽団の音色。新入生も上級生も笑顔で溢れている。

 「お、輪投げだ! なぁライアン、やってみようぜ」

 「……僕は見てるだけでいいよ」

 「ほらほら、せっかくだから!」


 レグナスとフィオナに半ば押されるように、ライアンは屋台を回る。その時、掲示板に大きな

張り紙が目に入った。

 《新入生歓迎レース開催! 豪華景品あり!》

 

 「これだ!」レグナスの目が輝く。

 「お前ら、出ようぜ!」


 「……僕が、レースに?」

 ライアンは思わず立ち止まった。胸がざわつく。

 

 「そう。面白そうだろ? 大丈夫、俺が一緒だ!」


 フィオナも優しく笑んでうなずいた。

 「三人ならきっと大丈夫」


 二人の顔を見比べ、ライアンは小さく息を吐く。(……断れないな)

 「……分かった。やってみる」


 レグナスは満面の笑みで背中をばんと叩いた。

 「決まり! じゃ、武器を選びに行こうぜ!」


 倉庫の扉をくぐると、冷たい鉄と油の匂いが鼻を打った。棚には大小さまざまな武器がずらりと

並び、光を反射してきらめいている。


 「……すごい」

 ライアンは思わずつぶやいた。森では決して見られなかった、人間の世界の“力”がそこに

並んでいる。短剣を手に取って振ってみる。軽くて扱いやすいが、どこか頼りない。

片手剣を構えてみると、確かにしっくり来るが――腕だけに力が偏って重さが気になる。

槍を持ち上げると、長さの感覚に戸惑って、思わず棚にぶつけそうになり、慌てて戻した。

そして、最後に両手剣。


 大ぶりの剣を両手で握り、腰を据えて振ってみる。風を裂く鈍い音が耳に届き、全身に

ずしりとした重みが馴染んだ。

 「……これだ」

 胸の奥が熱を帯びる。握った瞬間から、剣が自分の一部になったように感じた。


 「おぉ、似合ってんじゃん!」

 レグナスが笑って肩を叩く。

 「そのデカいの振ってるとこ、様になってるぜ!」


 「……そ、そうかな」

 照れくささを隠しきれずに、ライアンは頬をかいた。

 (悪くない……初めての武器なのに、なぜかしっくりくる)


 ふと気になって二人に尋ねた。

 「レグナスとフィオナは、どんな武器を?」


 レグナスは片手で軽々と掲げて見せた。

 「俺はこれ! 魔法を撃つ用の杖。片手で振れるくらい短いやつな」

木の先端に細い刻印が彫られていて、炎の魔法が宿りそうな雰囲気だ。


 フィオナは自分の背丈ほどの長い杖を抱えて微笑んだ。

 「私はこっち。回復や支援の魔法を込めるには、これくらいの方が安定するから」


 「なるほど……」

 ライアンは二人の武器を見比べ、思わず頷く。

 「みんな、それぞれの戦い方に合った武器なんだな」


 レグナスが両手を打ち合わせるようにして叫んだ。

 「よし! これで三人の武器がそろったな。相棒、フィオナ、行こうぜ!」


 「うん!」

 フィオナが力強く頷き、ライアンも剣を握り直す。


 三人は倉庫を出て、祭りの喧騒が響く会場へ歩みを進めた。


 学院の広大な中庭。祭りの熱気に包まれた空間に、色とりどりの旗が翻り、観客席からは新入生を

見守る上級生たちの歓声が響いていた。壇上に立った司会者が両手を広げ、朗々とした声で告げる。

 「諸君、待ちに待った新入生歓迎レースの始まりだ!」

 

 その一声に、生徒たちの胸が一斉に高鳴った。ライアンもまた、ごくりと唾を飲む。隣では

レグナスがにやりと笑い、フィオナは緊張した面持ちで杖を抱えている。


 「ルールは単純明快! 各チームは四つのフィールドを突破し、最後のゴールへ辿り着け!

 一番早く到達したチームには――豪華な褒賞が待っている!」

 歓声が再びあがり、期待に満ちた空気が広がった。司会者は手に持った棒で地面を突き、順を

追って説明を続ける。


 「第一フィールドは――スライムの原野だ!」

 壇上の背後に浮かぶ幻影魔法に、青いぷにぷにした塊が映し出される。

 「見た目はゼリー状の魔物。だが油断するな。触れれば軽い火傷を負う。倒すには体内の“核”を

  壊すことだ!」

 ざわめきが起こる中、ライアンは眉をひそめて小声でつぶやいた。

 「……ま、魔物……? あれが……?」

 

 耳ざといレグナスがすぐに反応する。

 「おっと、知らなかったのか? スライムは魔物の中じゃ一番弱い部類だ。柔らかい体の真ん中に

  核があって、それを壊せば消える。ただし油断すると足元すくわれるから注意な」


 ライアンはごくりと喉を鳴らし、両手に汗が滲む。

 (……俺は、本当にやれるのか……?)

 その様子に気づいたフィオナが、そっと肩を叩いた。


 「大丈夫だよ。私たち、三人で組んでるんだから」

 緑の瞳がまっすぐライアンを見つめ、柔らかな笑みを浮かべる。

 「一人じゃないから、きっと平気」

 

 ライアンは目を瞬かせ、少しだけ胸の奥が軽くなった。


 「第二フィールドは――氷の洞窟!」

 白く輝くスライムが氷塊を吐き出す映像が浮かぶ。

 「アイス・スライムだ。氷弾を飛ばし、当たり所が悪ければ気絶する危険もある。だが同じく

  核を壊せば消える!」

 「第三フィールドは――炎の荒野!」

 赤く揺れる塊が小さな火球を放つ幻影が映し出される。


 「ファイヤー・スライムだ。火傷や打撲の危険はあるが、命に関わることはない。もっとも、

 連発されれば手強いぞ!」

 「そして最後、第四フィールド――乱闘の平原!」

 映像には、複数のチーム同士が剣や魔法をぶつけ合う姿が現れる。

 「ここには魔物はいない。他のチームを出し抜き、妨害し合い、最後にゴールへ辿り着け!」


 司会者は右手を高々と掲げると、会場全体を淡い光が包んだ。

 「この瞬間、防護結界を全員に施した! これにより致命傷は避けられる。だが怪我や気絶は

  免れん。本気で挑め!」

 観客席から大きな拍手と歓声が起こる。ライアンは改めて剣を握り直した。心臓がうるさいほどに

高鳴る。

 「それでは――新入生歓迎レース、開始!」

 高らかな合図と同時に、フィールドへの扉が開かれる。


 「行くぞ!」レグナスが拳を振り上げる。

 「うん!」フィオナも力強く頷いた。

 ライアンも息を吸い込み、大きく叫んだ。

 「……行こう、三人で!」

 三人は合図とともに駆け出し、第一フィールドへと飛び込んでいった。

扉を抜けた瞬間、視界に広がったのは一面の草原だった。風に揺れる草むらの間に――奇妙なものが

蠢いている。


 「……あれが……」

 ライアンは思わず足を止めた。草の上を、青く半透明の塊がぷるんと震えながら跳ねている。

水のようでもあり、ゼリーのようでもあり……それが“魔物”だとは、到底信じられなかった。ごくりと

唾を飲み込むライアンの肩を、隣のレグナスが軽く叩いた。


 「なぁに、ビビることはねぇさ。いいか、よく見てろよ。手本を見せてやる」

 レグナスは片手杖を構え、近くのスライムへと向き直る。

 『――ファイヤー・アロー!』

 鋭く呪文を唱えた瞬間、杖の先に赤い魔法陣が展開し、そこから炎の矢が飛び出す。細長い光条が

空気を裂き、スライムの体を真っ直ぐ貫いた。ぼんっ、と小さな炸裂音。青い体は震え、光の粒と

なって消え去った。


 「どうだ、見たか!」

 レグナスが得意げに胸を張る。

 

 ライアンは目を丸くして、その鮮やかな一撃に息をのんだ。

 「……すごい、本当に一瞬で……」

 感嘆の声が漏れた。


 「ははっ、もっと褒めてくれていいんだぜ?」

 レグナスは鼻高々に笑う。

 だがその横で、フィオナが呆れ顔をして杖で地面を軽く叩いた。

 「もう……調子に乗らないの。まだ始まったばかりなんだから」


 その真剣な声音に、レグナスも「へいへい」と肩をすくめる。三人は再び歩みを進める。

草むらの奥で、またも青い影が跳ねている。


 「……次は僕がやる」

 ライアンは大きく息を吸い、両手剣を握り直した。緊張で掌がじっとりと汗ばむ。

 スライムがこちらに気づき、どろりとした体を揺らす。


 「……いける。核を……狙えばいいんだな」

 目を凝らすと、半透明の体の中央に赤い小さな塊が浮かんでいる。ライアンは踏み込み、

渾身の力で剣先を突き出した。

 ――ぐさり。

 手応えと同時に、赤い核が砕け散る。

 直後、スライムの体は霧散し、細かな光粒となって風に溶けた。


 「やった……?」

 ライアンは剣を構えたまま、呆然と立ち尽くす。背後からぱちぱちと拍手が起こった。


 「おーっ! 初めてにしては上出来じゃねぇか!」レグナスが笑い、

 「うん、本当に……すごいよ、ライアン」フィオナが柔らかく微笑む。


 褒められた瞬間、ライアンの頬が熱を帯びた。

 「……あ、ありがとう。まだまだぎこちないけど……」

 剣を下ろしながら、照れくさそうに笑う。


 「よし、ここから一気に抜けるよ」

 フィオナは両手で杖を握り、短い詠唱を唱える。

 「仲間を導く黄金の加護――《ブレイブ・ブースト》!」


 淡い光が三人の足元を包み、体が軽くなる感覚が走った。

 「これで少しは速く走れるはず。油断しないで」


 「助かるぜ!」

 レグナスが拳を突き上げる。

 

 ライアンも頷き、剣を背に走り出した。三人は草原を駆け抜ける。風を切る足音が心地よく

響き、ライアンの胸に高揚感が広がった。

 やがて――視界の先に、境界を示す光の壁が見えてきた。その先には、白銀の世界。雪と氷に

覆われた大地が広がり、冷気が漂ってくるのが遠目にも分かる。


 「次は……氷のフィールドか」ライアンは小さく呟いた。

胸の奥に新たな緊張が走る。三人は視線を交わし、頷き合った。

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