広がる洗脳
幾つの村を洗脳したかは、小さな集落も含めれば、十を過ぎたあたりで数える気をなくした。数を数えること自体が、もはやオレにとって意味を感じないような気がした。提案したのは自分だが、正直最後は帰りたい気持ちでいっぱいだった。
ようやく天空城へと帰還した夜、石の床に閉ざされた居室で、オレは自分の精神がいつの間にか軋んでいることに気づいた。城の壁は冷たいが、胸の内側のざわめきはもっと冷たかった。脱走の一件――使徒たちの命を預かるという重みは、彼の肩に冷ややかに座り込み、指で骨を押した。あのとき初めて理解したのだ。決断とは、時に躊躇を脱ぎ捨てることなのだと。もうオレは、部下の命を預かる身として、軽率なことはせず、征服のために進むことに決めた。だが、いまだにその理想のために多くの血が流れる事に、恐れを抱いている自分もいる。考えれば、ここ最近の行動は、そういったことで板挟みになり、心が不安定になっていたことから引き起こされていたのかもしれない。やっぱり体は天空城の王 ノアでも心は人間のままなのだから。
偵察で見た村の戦力は散発で、統率は粗く、技術は未熟だった。比較の尺度があれば答えは一つしかない。オレと使徒達の前では、相手は紙細工のように扱われる。だからこそ、俺はあえて、自らのユニークスキル──他者の意識を織り替える力──を選んだ。自分の理想のために、血があまり流れてほしくなかったから。それは甘えであったとしても。
しかし、計画が進むにつれて、最初にあった逡巡は薄れていった。人の意識を操ることへの倫理的なためらいは、無数の頷きと「ありがとう」の声に溶けていく。人が自ら進んで首を垂れ、名を唱えるその瞬間、彼の内部に別の何かが芽生えた。支配すること、その応答を享受すること。冷静に正しいはずの行為が、いつの間にか歓びへと変わっていった。
鏡のない居室で、彼は自らに嚙みつく。
「オレは、そんな人間じゃない!!」
その叫びは空虚に反響し、すぐに消えた。答えは出ない。だが、彼の指先は地図の上で次の点を赤く塗りつぶし、冷たく淡々と次の命令を書き加えていった。正義と効率の帳尻が合う場所なら、世界は黙って従うだろう──そう、自分に言い聞かせて。だがどこかで、彼はその言い聞かせが自分を欺いていることを知っていた。欺きに気づきながらも、なおも手を伸ばすのが、王の宿命なのかもしれないと。
色々どこかで話の辻褄が合わなくなることもありますが、雰囲気でお願いしますm(_ _"m)




