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謁見

 使徒たちは玉座の間に入ると、誰一人として口を開かず、各使徒を先頭に、それぞれの隊が一糸乱れず整列していった。わずか一分も経たぬうちに、すべての隊列が整えられたことを確認したノエルは、側仕えにチャネルを送り、居室でくつろいでいる王――つまり俺に、会議が始まる旨を伝えるよう指示を出した。そして、自らは玉座の隣に控えた。


俺は扉をノックする音で目を覚ました。


「そろそろ会議のお時間です」


という声が、扉の向こうから聞こえてきた。それを聞いて仕方なく、寝転がっていた黄金に輝くキングサイズのベッドから、半ば転がるように起き上がり、扉を開けた。眠っていたせいで、いつも着ている、どこか魔法の絨毯でも似合いそうな重ね着の衣服が乱れていたが、玉座の間へ向かって歩き出すと、側仕え――親衛隊とは別の存在――が素早く整えてくれる。


こんなことを繰り返していたせいで、自分で服を整えるという習慣が完全に抜けてしまったが、本人たちに言わせると、俺の世話をするのは大変な名誉とのことで、とても嬉しいらしい。お互いWIN-WINな関係というわけで、いまさら遠慮する気にもなれなかった。


やがて玉座の間の奥の扉が開き、俺が現れると、使徒たちは一斉に跪いた。俺が玉座に腰かけると、ノエルが朗々と声を響かせる。


「顔を上げよ」


その声を聞きながら、やはり使徒たちとその配下の隊員が一堂に会すると、実に壮観だと改めて思う。最初にこの世界に転生してきた時は、この玉座の間が自分の部屋の何十倍、いや何百倍もあるように感じたものだった。だが今では、こうして全員が集まっていると、ちょうどよく空間が満たされているような感覚がある。


そんな感傷に浸る俺を知ってか知らずか、ノエルは淡々と会議を始めた。


「では、これより会議を始めます。最初の議題は、王の外出に伴い発覚した城の警備機能の不全についてです」


「説明は、筆頭使徒である私、ノエルが行います。事の発端は二日前、ノア様の外出時にあります。外出があったにもかかわらず、それに気づけず、我ら臣下が御供をつけられなかった結果、御一人での外出となりました」


「原因は、まず親衛隊が村へ向けて出発した際、その動きや、城の警備網に関する情報を使徒たちに周知できていなかったこと。また、親衛隊の独立性ゆえに、我々使徒への情報伝達がなされなかったことが挙げられます」


「結果としてノア様にお怪我はなく、無事であられましたが、このようなミスは最悪、天空城の陥落、ひいてはノア様への攻撃につながる恐れもありました。二度とこのような事態を起こしてはなりません。そのため、この件に関し、責任者への処罰と、今後の対応策を検討します」


「では、まず今後の対応について、意見がある者は挙手を」


いつもなら、ここで真っ先に手を挙げるのはコニーだったが、今回は珍しくルークが挙手した。


「私見ですが、親衛隊の所属を筆頭使徒の指揮下に置くべきかと。また、城の警備網の構築に関しても、先の失敗を踏まえ、筆頭使徒に一任すべきと考えます」


聞いていて、確かに一理あると思った。天空城で知識面においてもっとも高いステータスを持つのはノエル、次にコニー、そして少し下がってサーシャの順。だが、コニーが失敗した今、ノエルに任せるのが妥当だ。……というか、最初からノエルに任せてなかったか?


「ノエル、お前に最初、警備網の構築を任せていなかったか?」


「はい、王より確かに任命を受けました。しかし、その後、遠征隊の指揮を執ることとなり、また、コニーが強く自らやりたいと申し出たため、私はその権限を譲りました。……ですが、結果としてこのようなことになってしまい、すべては私の責任でございます」


そう言って、ノエルは深々と頭を下げた。


正直、俺の逃亡に気づけなかったことに関しては、まあ俺が悪い。でも警備網の不備はいただけない。これがかつてのゲームでいう超級の難易度なら、とっくに城は落ちていただろう。


本来なら怒るべき場面だが、怒っても過去は変わらない。次に生かすしかない。


「よい。ではその挽回の機会をお前に与える。次の失敗は許さぬ」


そう強く言っておいた。……だが俺がノエルに視線を向けていたせいで、その時、わずかに背中を震わせていたコニーの姿には気づけなかった。


「必ずや、そのご命令を果たしてみせます」


ノエルは再び深く跪き、会議の進行に戻った。


「では次に、この件の責任者への処罰についてです」


その言葉に、フィン、ルーク、コニーが一瞬だけ肩を震わせたのを、俺は見逃さなかった。


「責任者は、前へ出よ」


その声に応じて、三人は静まり返った玉座の間に、重く、悲しげな足音を響かせながら歩み出た。


玉座の間は三段構造になっており、三人はその中段、玉座のすぐ下の段に跪いた。その姿は整列している全員の目に映る位置にあり、まるで見せしめのようだった。


今回のミス(俺のせいを除いて)は確かに重大ではあるが、それでもこの巨大な城の警備を日々回しているのは見事な仕事ぶりだとも思っている。だから、過剰な罰は与える気はない。しかし、あまりにも軽すぎても示しがつかない。


「ノエル、一か月程度の謹慎でどうだろう?」


「彼らも深く反省している様子。今回は一週間の謹慎で十分かと」


確かに、重くしすぎるのも逆効果か……と納得し、俺はそれに従った。


「よし。では、三人には一週間の謹慎を命じる」


その瞬間、コニーの顔が、ほんの一瞬だが救われたように見えた。……気のせいかもしれないけれど。


とはいえ、別件で気になることがあったので、探索の際に使われた魔法についてフィンに問いただす。


「探索の際、俺に対して魔法を使ったな?」


するとフィンは、何を思ったのか慌てたように


「あれは! あれは指揮官のルークの命令によるものです!」


と必死に弁明してきた。別に責めていたわけじゃなかったんだが、そう説明するのに、ずいぶん時間がかかってしまった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

オマケ(長いので読まなくて大丈夫です)


コニー視点:「跪く者」

使徒たちの整列は、いつもながら見事だった。筆頭使徒であるノエル様を先頭に、各隊は一糸乱れぬ動きで玉座の間に収まっていく。私はその最前列に位置しながら、無意識に拳を握りしめていた。


(こんなことに、なってしまうなんて――)


たった一つの判断ミスが、これほどまでの事態を招くとは。いや、判断ミスなどという言い訳は通らない。ただの慢心だった。私が、「できる」と思い込んで、ノエル様からその任を譲り受けた、あの瞬間から、すべては始まっていた。


王の外出。城の警備機能の不全。私が、責任を負わなければならないのは明白だった。


玉座の間の奥の扉が開いた瞬間、空気が震えた。王――ノア様が現れ、玉座へと歩を進める。その気配だけで、場の空気が一気に引き締まる。私は息を呑み、他の使徒たちとともに跪いた。玉座に腰を下ろされると同時に、ノエル様の声が響く。


「顔を上げよ」


私は顔を上げたが、視線は王に向けられなかった。向ける資格など、今の私にはない。会議が始まり、ノエル様が淡々と事実を述べていくたび、胸の奥に、鋭い針が突き刺さるような痛みが広がっていった。


(ノエル様は、最初は私ではなく、ご自身で警備網を構築されるつもりだった……)


それを私が、「やりたい」と申し出てしまったのだ。責任を全うできると、思い込んでいた。でも、結果はこれだ。


ノア様がノエル様に問いかけ、ノエル様が「すべては私の責任」と頭を垂れた瞬間、私の喉の奥が熱くなる。違う、違うんですノエル様。責任は……私にある。あなたではない。


けれど、この場で口を挟むことはできなかった。王の前では、ただ沈黙するしかなかった。


「良い。ではその挽回の機会をお前に与える。次の失敗は許さぬ」


その言葉が発せられた瞬間、私は一瞬だけ背中を震わせてしまった。誰にも見られていないことを祈りながら。


そして次の議題、「処罰」が告げられたとき、私は息を飲んだ。


(ついに……)


ノア様の「責任者は前へ出よ」という声が、玉座の間全体に響く。フィン、ルーク、そして私の三人は、沈黙の中、玉座の方へと進み出た。


玉座の段の中間、視線が集中するその場に跪いた瞬間、胸の奥がずしりと重くなった。まるで、その場所自体が「罪」の象徴のようだった。


(私は……本当に、何をしているのだろう)


怒号も、罵声もない。ただ、静寂と注視の中で、自分の無力さだけが浮き彫りになる。


ノア様とノエル様が短く言葉を交わしたあと、「一週間の謹慎」が下された。その瞬間、心の奥がふっと軽くなった気がした。だがそれは、「許された」からではない。


(次は、ない)


それだけだった。


視線を落としたまま、深く頭を下げる。頬に何か熱いものが伝いそうになったが、ぐっと堪えた。泣く資格も、私はもう――持っていない。




フィン視点:

整列した使徒たちの視線が、玉座の奥の扉へと一斉に向く。


間もなく、その扉がゆっくりと開いた。


……ノア様だ。


たった一歩、足を踏み出された、それだけで空気が変わった。呼吸の仕方すら変えなければならないような、そんな圧力が、いや、気配がノア様にはある。周囲の者は畏敬の念を抱く。けれど、僕にとっては、それだけじゃなかった。


心臓が、跳ねた。

ずっと、こうして現れてくださればいいと願っていた。

姿が見えなくなったとき、どんなに怖かったか――。


でも、顔には出さない。僕は、感情を表に出すのが苦手だ。


ノア様が玉座に腰を下ろされる。

それに合わせ、ノエルの「顔を上げよ」の声が響いた。


顔を上げると、ノア様の姿が真正面に入った。

――美しい、と思った。


思考が瞬間的に脱線する。


だめだ。今は会議だ。


ノエル様の声が淡々と会議を進めていく。王の外出、警備の不備、使徒間の情報共有の不全。すべて正論だ。……けれど、僕たちは、ノア様を一人で外に出してしまったという、ただ一点において、取り返しのつかない失敗をしてしまった。


(あのとき、僕がもっと早く気づいていれば……)


心の奥で何度もそう思いながら、ただ拳を握りしめる。


ルークが意見を出したのは意外だった。けれど、内容は正しかった。筆頭使徒であるノエル様が再び警備を指揮すべきだ。僕も、そうすべきだと思った。


ノア様がノエル様に任命の経緯を確認し、ノエル様が謝罪する。ノエル様に罪はない。むしろ、僕たちのためにその責任まで背負ってくださる姿に、胸が痛くなった。


ノア様がノエル様に「次の失敗は許さぬ」と言ったとき、僕はその口調に痺れるほどの威厳を感じながらも、内心で安堵していた。


(やっぱり、ノア様は……王だ)


でも――


「次の議題、責任者への処罰についてです」


その言葉が発せられた瞬間、背筋が凍った。


ノア様が「責任者は前へ出よ」とおっしゃったとき、視界の端でルークとコニー先輩が動くのを確認し、僕も自然と歩み出ていた。


(これが、償いだ)


玉座の下の段。整列した仲間たちに見られる中、僕は静かに跪いた。

すべての罪を、ここで受け入れるつもりだった。


……でも。


コニーの表情が、わずかに歪んでいた。視線を逸らすように、うつむいている。

ルークも、拳を強く握っていた。いつもなら、他の使徒の失態は喜ぶべきところだけど、自分もこのありさまでは笑えない。


でも、僕は、ただ――


ノア様が傷つくのを、見たくなかっただけだ。

それだけで、僕は、この城の隅から隅まで駆け回って、どこへでも行けた。


……だから。


「探索の際に、俺へ魔法を使用したな?」


そうノア様から問いかけられたとき、心臓が跳ね上がった。

僕が……怒られている?


いや、違う。ノア様の声には、非難の響きがなかった。


それでも、僕は、動揺していた。

そして、つい、余計なことを言ってしまった。


「あれは!! あれは、指揮官のルークに命じられて行ったことでございます!!」


しまった、と思った瞬間にはもう遅かった。

ノア様の表情が、一瞬だけ困ったように揺らいだのを見て、僕は――


(違う、そうじゃないんだ……!)


慌てて訂正しようとしても、言葉がうまく出てこなかった。

ノア様は怒っておられなかった。ただ、僕が無意味に言い訳をしたと、思われたに違いない。


(ああ……本当に、こういうところがダメなんだ、僕は)


何もかもがうまくいかない。本当に..........。

どこかで文章に矛盾があるかもしれないですけど、許してくださいm(__)m

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