僻地⑥
ノエルは遠征隊の指揮を放り出し、村の探索予定をすべて取り消すと、飛ぶような速さで戻ってきた。怒りを抑えきれず、銀色の長い髪を大きく揺らしながら、急遽設置されたノア様捜索のために使徒が集まっている部屋、すなわち諜報室の重々しい扉へと向かった。
彼女はまるで扉を蹴り破らんばかりの勢いで中へ飛び込んだ。
先に部屋にいたルークは眉をひそめ、コニーは青ざめた顔で床を見つめ、フィンは我関せずとばかりに真っ黒な髪を弄っていた。ノエルは大きく息をつき、会議室の椅子にどかりと腰を下ろすと、短く問いかけた。
「状況は?」
報告を受けるや否や、ノエルは一瞬の思考を挟み、冷静に命じる。
「よくわかった。私が使徒筆頭として総指揮を執る。ルーク、君にはその部隊の指揮を任せる」
「了解しました」
「コニー、君の責任は後ほど問いただす」
そう言い放つと、翼を一度はためかせ、足音を響かせながら管理室へと歩き去っていった。動揺しているコニーに構わずに――。
ルークもすぐに部隊を引き連れて出なければならない。だが、さすがにコニーをこのまま放置していくのは何か自分が許せなかった。
主が最も大切であるが、やはり主もこの状況であれば(そんなことはあり得ず、また不敬なような気もするが)、きっと許してくれるだろう。
ルークはコニーの前に跪き、そっと両手を握ってあげる。
「コニー」
「……」
「もう過ぎたことだ。確かに天空城の警備網や伝達内容に不備があり、王を御一人にさせてしまったのは俺や君の失態だ。でも、まだこの失態を挽回するチャンスはある。動揺している場合ではないよ」
コニーはスカートを握りしめ、俯いたまま震える声で言った。
「でも……ノエルのあの様子を見たでしょう……もう私は、他のみんなに申し訳なくて……動けない……」
それを見たルークは、コニーの心が深く傷ついていることを悟り、あえて強い言葉を選んで話すことにした。
「だが、君は仮にも第二隊を預かる使徒だろう。ノア様から期待されているんだよ。それとも、このまま動けずにノア様の期待まで裏切るのか? なら、ノア様が戻り次第、使徒の位を返還しな。ノエルにもそう伝えておくよ」
そう言って立ち上がる素振りを見せると、コニーは驚くような速さで立ち上がり、涙声でルークの服を掴みながら叫んだ。
「ダメ、それだけはダメ! 私、使徒ですらなくなったら、もう生きていけない。私、頑張るから、それだけは……それだけは許して……!」
ルークは微かに微笑み、優しく言った。
「分かっているよ。ただ君のノア様に対する忠誠を確かめたかっただけさ。さあ、立ち上がれたね。君もノア様捜索のためにできることを探して力を尽くすんだ。ノア様がお戻りになったら、一緒に謝りに行こう」
「……うん。わかったわ」
ルークは彼女の背をそっと押してやり、コニーはそれに逆らわず、ゆっくりではあるが、確かな足取りで会議室を後にした。
コニーが完全に部屋から出たのを確認してから、フィンは相変わらず髪を弄りながら、半笑いで言った。
「君もお人好しだな。全部責任をコニーに押し付ければいいのに」
「確かに今回の責任の大半は彼女にあるとしても、僕や君も同じ場所にいた。ならば、その責任の一端はあると思わないか?」
ルークはきっぱりと否定した。
「まあ、いいよ。どっちにしろ僕はそうするつもりだし。だってノア様に僕の失敗を咎められるなんて、僕ならもう耐えられないよ」
そう言い残し、フィンも会議室を後にした。