僻地④
ルークやコニーが王の不在に気づく少し前――
ノアは、以前こっそり見つけていた玉座裏の隠し通路を使い、静かに城の外へと抜け出していた。
城の周囲は濃い霧に包まれていて、東西南北どちらの方角へ向かっているのかすらはっきりしない。どこかへ飛ばねばならないのは確かだが、運が悪ければ遠征隊と同じ方向に出てしまうだろう。――その時は…まあ、諦めよう。
今になって、せめて前に見つけたあの村の方角くらい聞いておけばよかったと、少しだけ後悔する。
だが、そんな悠長なことを言っていられない。早く離れなければ、すぐに追手――いや、“味方”が来てしまう。そしてまた、どこへ行くにも過保護な護衛がついて回る生活が始まるのだ。
もちろん、あいつらを嫌っているわけじゃない。ただ、今は少しだけ、一人になりたいだけだ。完全に、誰の目もない時間を過ごしてみたかった。ただそれだけの理由だ(弁明)。
そろそろ使徒たちも異変に気づいて、探索に乗り出してくる頃だろう。大抵の探索魔法はなんとか防げるが、神話級の術を使われたらさすがに逃げきれない。
中でも厄介なのは――探索魔法の使徒、フィン。
そういえば今日、城であいつの姿を見かけた気がする。
……ああ、まずい。遠征隊として外に出しておけばよかった(後悔)。
それにしても――俺、飛べるのか?
今まで地面の上を普通に歩いていたから気にしてなかったけど、よく考えたら天使って飛べるんだよな。
いや、飛ばなきゃいけないんだよ俺は!
天使は、魔法がなくても空を飛べる。それは特性、初期装備、仕様ってやつだ。俺は天使の王だ。行けるはずだ。
……よし、試してみよう。
「せいっ!!!!!!!」
――意外と、あっさり飛べた。
なんというか、肩甲骨のあたりをほんの少し意識して動かすだけで、ふわっと浮かぶ感じ。力はまったくいらない。
行ける。これは行けるぞ。
気を取り直して、このまま正面に向かって、行けるところまで飛び続けよう。
――というか、飛ぶのって案外楽しいな。
たとえ途中で捕まったとしても……まあ、少しは楽しめるだろうし、それならそれでいいか。