僻地➂
玉座の間に到着したが、王の姿は見えなかった。警護の兵に尋ねると、「つい先ほど、どこかへ急いで向かわれました。恐らく、お部屋に戻られたのでは」との答え。そこで部屋をノックしてみたが、返事はない。
(もしかすると、以前のように釣りにでも行かれたのだろうか)
そう考えたルークは、コニーと手分けして王を探すことにした。だが、城内のどこを探しても、王の姿どころか痕跡すら見つからない。
胸騒ぎが強くなる。ルークは言った。
「コニー、君は管理室でログの確認と、親衛隊への聞き取りを。命令の内容が分かれば、何か手がかりが得られるかもしれない。私は兵を全員動員して、城全体で王を捜索する」
普段なら指揮系統に口を挟むコニーだが、今は何も言わず、すぐに行動に移った。
ルークは部下とのチャネルを開き、王の行方を追うよう命令を下す。天空城はまるで蜂の巣をつついたような騒ぎとなり、使徒から末端の歩天使まで総出で、城の上から下までをくまなく探し始めた。
それでも、王の姿はどこにも見つからなかった。
ログには痕跡がなく、親衛隊の返答も「親衛隊の様子を偵察せよ、とのご命令でした」というだけ。
これは――非常事態だ。
王の捜索こそ、今この瞬間、我々が最も優先すべき任務である。 ルークは、ついにある決断を下す。
「……フィン、第五使徒として、俺が責任を取る。魔法の使用を許可する」
この一言に、コニーとフィンの目が大きく見開かれた。
フィンは探索系統に特化した使徒だ。しかし、王直属の使徒が、その力を行使するというのは――主君に弓を引いたと見なされてもおかしくない。特に「正義」の象徴であるヒューが聞けば、激怒したに違いない。
「いいんだね……僕は、知らないよ」
フィンは小さくつぶやくと、ルークを一瞥し、空を見上げる。そして静かに詠唱を始める。
彼を中心に、空間が波打つように揺れ、巨大な魔法陣が浮かび上がる。
その詠唱は、静かでありながら、空気を切り裂くような力を帯びていた。
「欺きの幕よ、真理の光に焼かれよ―― 見えざる魂よ、我が目に姿を見せよ―― 頁をめくりて、真実を我に示せ――
《ワールド・アカシック・サーチ》」
その瞬間、空全体が曇った。 次いで、ガラスが砕け散るような音。 詠唱の終わりとともに、すべてが晴れ渡った。