僻地②
親衛隊が城外へ飛び立ったころ、遠征隊が出発がしたことから、天空城にはルーク、フィン、コニーの三人が残された。使徒筆頭ノエル率いるサーシャとヒューを含む遠征隊が村へ向かうと入れ違いに、三人は依然、城壁の警備網再編や物資確認、内郭の見張りに奔走していた。
そんな、警戒を担当していたルークは、ふと空を仰ぎ見た。煌びやかな装備に身を包んだ小隊が、伝達なしに飛び去っていく──その異様な存在感に、胸の奥がざわつく。
(あの小隊は何者だ……一般兵どもの装備とは比べものにならぬ華やかさ。実戦向きとも思えぬ)
天使の感覚は仲間の気配を篝火の明かりのように捉え、階級が高いほど炎の規模は大きくなる。今飛び去った小隊は燦然と強い余韻を残し、一瞬で消えた。
その隊について、事前に、伝達もなければ命令もない状況に、ルークは管理室へと急いだ。警備網を練るコニーへ、使徒共通のテレパシーチャネルで問いかける。
「コニー、聞いてくれ。先ほど城壁を飛び立った小隊の正体を知らぬか?」
モニターに伸びる監視ログを凝視しつつ、コニーは不安げに返答した。
〝小隊……確認するわ。少し待って──これは……?〟
彼女の声にルークは殺気を孕ませる。
「どうした?ノア様に何かあったのか?」
コニーは震える指でログを操作し、ついに口をついた。
〝……主君の親衛隊よ。彼らはノア様直属、主君の命令以外には一切従わない部隊なの〟
ルークの眉が跳ね上がる。
「親衛隊だと!? それを我々に伝えぬとは統制の放棄に等しいぞ!」
コニーは申し訳なさそうに視線を落とす。
〝すまない。親衛隊は警備強化のため最近、新設された仮設部隊。召喚されたばかりで、大半の使徒は顔すら見ていないはずよ〟
ルークの怒りは収まらない。
「敵か味方かの区別もできぬではないか! 侵入者と勘違いしかねんぞ!」
コニーは眼鏡を押し上げながら、素直に頭を下げた。
〝確かに私の不手際よ。今すぐ警備網の変更点を全使徒に共有する。謝罪するわ〟
ルークは深呼吸し、言葉を選ぶ。
「だが我らは今後、何があっても説明できねばならぬ。親衛隊の動向を正確に把握せねばならぬのだ。私と共に、直接主君へ確認に行こう。コニー、同行するか?」
コニーは決意を込め、頷いた。
〝ええ、私も――この不手際を謝り、真相を確かめに行きましょう〟
二人は再び玉座の間へと急ぎ、城の深奥から主君を訪ねる足音は、闇に潜む不穏な予兆を運んでいった。