転生
「ピンポーン――」
その音が、俺の平凡な日常を一変させた。勢いよく玄関へ駆け出し、インターホン越しに声を確かめるまでもなく、配達員の微笑みと段ボール箱の存在が、待ち望んでいたフィギュアの到着を告げている。
「来た……ついに来たんだ!」
心を踊らせながら扉を開け、宛名にサインをし、慎重に箱を抱え取った。手のひらから伝わる段ボールの感触に、胸は高鳴りっぱなしだ。
部屋へ戻る道すがら、まるで伝説の英雄が聖剣を手にするかのような期待感に身を包まれ、足取りは自然とゆっくりと重厚に。箱を開く瞬間、世界の歯車が一瞬止まったかのように深呼吸をする。
「わぁ……」
箱の蓋をそっと開けると、そこには漆黒と純白が交錯した姿で佇む彼――悪魔と天使が融合した異形の王、ノアが鎮座していた。頭上に浮かぶ欠けた輪は、不滅の証明。これこそ、俺の“天使軍団”の盟主だ。
机の上に神聖に置き、まるで聖域を守護する玉座に迎えるように、ゆっくりと席に着かせる。胸いっぱいの喜びを全身で表現したくなり、いつの間にか立ち上がり、大声で叫びながら踊り出した。
「イエーイ! ついに完成だあぁぁぁ!」
――しかし、熱狂が過ぎたのか、運動不足と貧血が牙を剥き、足元がふらつく。
「えっ……?!」
立ち眩みでよろめき、俺は無意識にフィギュア棚を避けるように倒れ込んだ。その瞬間、身体の痛みよりも恐ろしい予感が胸を走る。
(これが、俺の最期……?)
否、それでも後悔はない。大切なノア様を守ったのだから。
――意識が遠のく中、最後に見た光景は、棚から舞い落ちる数々の戦友たちの影だった。砕け散る音とともに、世界は静寂に包まれた。
そして……――気づけば、眩いばかりの光に包まれていた。目の前に広がる白銀の空。
さらに、耳元には、どこか懐かしい、しかし決して忘れられない声が響く。
【――こうして、俺の異世界転生譚は幕を開けた】