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私のいつもとはちょっと違った一日

前エピ投稿したの2年前!?

 堕天したかのように現れたマネキン天使。機械声で自らの不注意を嘆くと、直ぐ様弱々しいファイティングポーズを取る。端からみても格闘技経験者とは思えないその構えからは怪物に対する怯えが隠し切れていない。


 その構えに馬鹿にされていると感じたセカンドが後頭部の鎖を天使の鉄仮面目掛けて伸ばす。その攻撃を天使の様なロボットスーツはその鉄仮面の頬に火花が散る程ギリギリの所で躱すとその鎖を左手で掴んだ。


 そしてその鎖を引っ張るとセカンドは体勢を崩し、春奈を捕まえたネクタイが緩む。セカンドが体勢を安定させ振り向く前に前進した天使は横の壁を蹴って速度を増したパンチをセカンドの顔面に叩き込んだ。


 セカンドが痛みで顔を覆う暇も与えずボディに一撃、顔面に一撃とラッシュを浴びせていく。そして前蹴りで距離を取ると素早くホルスターの銃を引き抜いて弾丸を乱射した。


 セカンドの身体に次々に閃光の花が咲き乱れ、徐々に後退していく。銃の引き金を弾き続ける天使には最早怯えを感じるような面影はない。


 このままでは防戦一方どころか蜂の巣であると危惧したセカンドは首元のネクタイで天使を一度牽制し、その隙に背後の排水管に鎖を巻き付かせると跳躍して撤退しようとする。しかし、


「あーしを忘れるんじゃねーよ!!」


 セカンドの退路の延長線上に先に跳躍していた春奈は既にドライバーの右側のスイッチを入れており、待ち構えていたように電撃を纏った拳を振りかぶっていた。


「しまっ…」


「はぁぁぁっ!!」


 驚愕の声が言い終わる前に突き出される拳がセカンドの顔面に命中する。しかし、


(側頭部じゃん⁉)


 振り向く間に攻撃してしまったのが仇となり、繰り出された右拳は右側頭部に命中してしまった。結果仮面は中央付近までしかひびが伝搬せず撃破まで至っていない。


 それならば脚で決めると思った春奈がドライバーの左のスイッチを入れようとすると下にいたはずの天使が姿を消しているのに気付く。逃げたのかと思い再びセカンドへと向かい直ると、顔の向きが明らかに自分の方を見ていないことに気付いた。


(どこ見て…上…なっ⁉)


 春奈が視線を上にずらすとそこには自分よりも高く跳躍していた天使がいた。身体が上下逆さまの状態の天使は手に持った銃に付いたスイッチを入れる。


 銃からReady gunの音が聞こえると銃口に熱のような橙のエネルギーが集約していく。天使はしなやかに腕を伸ばすと銃口をセカンドの顔面に向けた。


「Bullet Judgement!」


 機械音ながらも覇気のない声で呟いた天使が細い鉄の指で引き金を弾くと、赤熱の弾丸が発射され直進していく。その刹那とも思える瞬間、春奈にはその姿が外界にいる人間に裁きの鉄槌を下す神の様に見えていた。


 直進した赤熱の弾丸は彫刻の仮面の眉間に命中する。その瞬間小さい爆発が起きセカンドの頭が爆裂四散した。首無しの身体が地面に落下した数秒後、春奈と天使がほぼ同時に着地する。


 セカンドの首から上は欠損していたが体表が剥がれ出すと同時に()()()()()()()()()()が現れ、中の人間が現れた。


 どういう仕組みなんだと春奈が仮面の下で目を細めていると、銃をホルスターにしまった天使はセカンドの中から出てきた男の襟首を掴むと乱雑に引きずっていく。


 結局こいつも何だったんだ、と春奈は呆れながら卓郎の方を見ると彼は天使の方をじっと見つめていた。どうしたんだと思い変身を解除しようとすると


「あのドライバー、僕が昔作って紛失したドライバーです……誰が何の目的で盗んだのかわからないけど取り戻さないと……」


 と噛みしめるように呟いた。彼は静かに震えながら拳を握り締めていた。自身に戦う力がなく春奈に頼まなければならない状況で、彼の口調は春奈に暗に頼んでいるというよりは自分の無力さを悔しがっている様だった。


 卓郎は震えながらもそのドライバーを巻いた天使に向かって一歩踏み出そうとする。しかしその一歩は前に立つ春奈によって遮られた。


「あんたじゃ無理だから、あーしに任せな」


 優しくも冷たい言葉を投げ掛けると彼女は男を引きずったままの天使に駆け寄って行く。


「ちょいちょい、あんた」


 声を掛けると天使は足を止めてすぐに振り向くと空いていた方の掌を彼女に向けて差し出した。友好の証、協力への感謝、いわゆる握手というものだった。


「違ぇし」


 しかし、春奈はその手を拒むようにはたくと天使が腰に巻いているドライバーを指差す。


「それ、アイツのっしょ。盗んだもん返しなよ」


 当の本人は手をはたかれた事を不思議がりながらも


「違いますよ、拾ったんです」


 と機械音声で答えた。天使は否定しつつも敵対の意思は無いという様に手を挙げながらも右上腕部にしまわれていたカードを取り出した。それは春奈が変身時に使用しているカードと同系統のものだった。


「まぁでも本当にあの方の物でしたら返しますけど」


 天使はそう言うとカードをリードしようとする。その行為の意味を理解した春奈は話が早くて助かると完全に安堵しきっていた。


「まぁしょーみあんたが代わりに戦ってくれるならあーしは戦わなくていーから楽なんだけど。知らん奴まで助けてたらキリないし」


 もう全て解決したと思い込んだ春奈が発した言葉は天使の手を止めた。しかしその所作に気付かない春奈は立て板に水の如く話し続ける。


「あーしは楽しく生きられればそれでいーし。とりま争い事とかメンドイから一旦それアイツに返して……」


 話しながらドライバーへと手を伸ばした春奈の手を今度は天使がはたいた。その拒絶反応に仮面の下で軽く舌打ちしながら春奈は何? と不機嫌そうに聞く。


「そんないい加減な人にこれを返すわけにはいきません」


 機械音声越しですら覇気を感じさせる話し方で天使は拒絶した。そして変身解除用に取り出したカードを再び腕にしまうと、交渉決裂といったように踵を返して去ろうとする。


「ねぇ、待てって。それ盗品でしょ。返せって」


 立ち去ろうとする天使の腕を掴み引き止めようとする春奈。しかし天使はその腕を振り解くように抵抗する。


「あなたみたいな人に返したら被害者が増えるでしょっ!」


 掛け声と共に春奈の腕を振り解くと天使は睨み合うように対峙する。その無機質な仮面の下の表情は読み取れなくとも想像は容易い。天使の主張は正義感から来るものだろうが、目の前の春奈に取ってその主張は窃盗の正当化であり、自身の手を煩わせるものでしかなかった。


 互いに睨み合う沈黙の時間が流れる。埒が明かないと感じた春奈は腕を前に突き出すと天使に向けて指を差し宣言した。


「なら力尽くで取り返す」


「臨むところです」


 宣言を承諾した天使はまだ気を失ったままの元セカンドの男を後方の物陰に雑に寝かせると再び弱々しいファイティングポーズを取った。その構えを見てまだ自身の方が利があると思った春奈は走って距離を詰めながら渾身の右ストレートを振るう。


 天使はバックステップで右ストレートを避けると続けざまに突き出された左拳を身体を捻りながら避ける。その左手首を左手で掴むと脚を組み替えて回転し、その勢いで右肘を春奈の顔面にお見舞いした。


 顔面への攻撃に春奈が怯んでいる隙に天使は左腕を掴んだまま自身の左側の壁を蹴り上げ、春奈の左腕を中心軸に一回転しそのまま腕を捻る。しかし春奈は腕の稼働限界に至っても戦意を喪失する事なく、腕を捻られたままパワーだけで天使を後ろに押して壁に叩き付け、空いた右拳を天使の腹部目掛けて突き出す。


 天使は自身の右手で咄嗟に春奈の拳を掴むも勢いが殺せず腹部に打撃を許してしまう。その威力は凄まじく天使のロボットスーツ越しにビルの壁に亀裂を走らせた。


 腹部への殴打により天使は春奈の左腕を離してしまう。腕の痛みから解放された春奈は再び右腕を振りかぶるも追撃を許すわけにはいかない天使は後退し一旦距離を取った。


「銃使えよ、使ってもあーしが勝つけど」


 春奈からの挑発を受け天使はホルスターの銃に手を掛けるも、春奈の後方を一瞥して手を離した。


「使うまでもなく勝てます」


 挑発に挑発で返すと取った距離を詰めるように天使は走り、横の壁を蹴って加速した勢いで春奈へと拳を突き出す。その攻撃をバックステップで避けた春奈は前蹴りを繰り出し、拳で追撃する。


 初手こそ春奈は天使の動きに遅れを取っていたもののこの短時間で動きを見抜いたのか対応している。やはり彼女の戦闘センスは凡人の比ではない。本当に潜在的な物なのか卓郎が推察している間に天使は反撃の回し蹴りを打ち込む。


 それに対応するように春奈も蹴り上げたことで両者の脚は交差して激突する。股関節の柔らかさ故に脚が高く上がるハイキックの状態になった二人、もし相手の脚で止められなければ互いに側頭部に命中し勝負はついていただろう。


 しかし勝負はまだついていない。二人は脚を接着させたまま互いにドライバーの左のボタンを下げる。二人の接着した右脚の下腿部がエネルギーを充填させ光り輝いていく。


 片方は稲妻迸る雷光、片方は炎燃え盛る炎光。二色の光が互いの下腿部を包み、共鳴するかの様に光り輝く。二人は同時に脚を下げると再び勢いを付けて蹴り上げる。


 再び激突する両者の脚先、その間から衝撃波が発生し周囲の壁を雷と炎のエネルギーが抉り取っていく。交差した脚を離し両者は前蹴りや回し蹴りを含め幾度となく攻撃を続けていく。


 巧みな足技で何度も蹴りを入れるものの、両者の攻撃は互いを戦意喪失まで追い込むような決定的なダメージを与えられていない。最早互いにヒートアップしておりなんとしても蹴りを相手に入れようとムキになってデットヒートを続けている。


 二人の意地のようなものを直感した卓郎は周囲の被害を考慮して止めようとするも渦中に入るわけにはいかず叫ぶことしか出来なかった。


「ちょっと待って‼  このままだとビルが崩れます!!」


 その言葉を聞いて脚の動きを止めたのは天使の方だった。だが、それは大きな隙となり春奈の雷を纏った蹴りが胸元に命中する。


 胸元のアーマーが凹み後方へ吹き飛ばされる天使。勝敗は決したかに思えたが、春奈は未だに雷光を纏わせた脚をビルの亀裂に叩きつけた。


「「は?」」


 天使の機械音と卓郎の声が重なる。わざわざその行動をする必要はなく、勝敗はついていたはず。しかもその壁はセカンドが出てきた会社の裏の壁であり、未だ中には昼休憩中の職員がいた。


 地震と見間違うような揺れが起き、社内の人々から悲鳴が巻き起こる。春奈の蹴りは壁はおろか、その余波で建物を支える柱に傷を着け倒壊の危険を引き起こした。


「何考えてるんですか‼」


 天使が崩れ落ちそうなビルを喰い止める為、柱を支えるべく走り出す。柱を支えた所でどうにもならないのではないかと頭で感じてはいたものの天使の身体は思考とは裏腹に動いていた。


 だからこそ柱を傷付けた本人、春奈に背後に迫られている状況下で何も為す術がなかった。


「貰うわ、そのベルト」


「この人でなしッ⁉」


 天使の吐く暴言を無視し春奈は柱を支えて無防備になった天使の腰のドライバーへと手を伸ばす。変身解除できないとしても剥ぎ取れば回収は出来るはず、そう思った春奈が帯に手を掛けた瞬間、


「ま、待ってあーしさん‼ 周り見て下さい!!」


 卓郎が崩れた壁の向こう側から叫びかけた。その声で少しだけ、たった少しだけ視界が広がった春奈は視界の端に避難する人々を見かける。


(あーしは…何してるん? あーしは今、ヲタク君のベルトを取り返す為に無関係のパンピーを危険に晒してる?)


 自分の行為を自覚した春奈はフリーズしてしまう。自分が戦ったのは眼の前で他人が死んで次の日の目覚めが悪くなるのが嫌だから、楽しい人生を送るのに目覚めが悪い朝は嫌だから、でも今自分がやったことは多くの他人を危険にさらし、あまつさえ自身の目覚めを悪くさせる事ばかりである。


(バカかあーしは⁉ 暴走し過ぎだっての!!)


 そう心の中で自分を責める春奈を見て、柱を支えたままの天使が絶叫する。


「突っ立ってないで他の人を助けろ!!!!」


 先程までの丁寧口調はどこへ行ったのかそう叫ぶ天使に今度は返事として頷いた春奈は避難する人々の元へ走って行く。突如現れたロボットスーツに人々は驚いていたものの、春奈は怪我人や年寄りを抱えながら建物の外へ運び続ける。


 スーツにはサーモグラフィー機能が付いており、逃げ遅れた人の場所がわかるようになっていた。スーツの表示を頼りに春奈は避難者を探し続ける。


 その様子を横目に天使は倒壊までのタイムリミットが迫っている事を感じ焦っていた。


(大通り側に倒壊したらとんでもない事になるからなんとかしないと……でもここを離れられないし)


 破損した柱の欠損部分をスーツの超パワーで支えているため、離れるとここを起点に一気に崩れる危険性があった。だが徐々に天井のヒビが伝播していく。


 この柱を支え続けても先に天井が崩落するだろう。建物内に人がいれば怪我では済まないかもしれない。


「あ、あの‼」


 ふと声を掛けられたと思えば卓郎が手にいくつかの金属棒を抱えて立っていた。早くあなたも逃げろと天使が声を荒げようとする前に卓郎の方が叫んだ。


「避難完了…したみたいです!!」


 彼は携帯端末を握っていた。それが春奈の視界と連携しているのだろう、そう解釈した天使が気を緩めた瞬間、天井が崩落する。


「うわあぁぁ!!」


 最早支えていても意味がないと感じた天使が絶叫している卓郎に覆い被さる。退避が間に合わない、生身の卓郎では建物の崩壊に巻き込まれたら死んでしまうためだ。


 天使の背中に衝撃が走ると共に凄まじい轟音と煙が一気に襲ってくる。卓郎に息を止めるように叫んだ天使は倒壊による圧死を防ぐために卓郎の身体を丸め自身の体躯からはみ出さない様に抱え込んだ。


 常人では耐えられない程の重量が背中に伸し掛かりスーツから悲鳴にも似た金属音が鳴り響く。人間の機能を大幅に越えた対セカンド用スーツであっても流石に限界のようだ。


 光は遮られ、瓦礫と煙で目先すら視認不可能。その上限られた酸素を考慮すれば生還は困難。しかしその天使型のスーツの中にいた人間だけは諦めていなかった。


 既に故障し顔面に対する防護機能しか残っておらず視界はブラックアウトしたまま、自身の身体の下にいるはずの卓郎に叫びかける。


「右のスイッチを!!」


 機械音声によるジャミングが施されていない女の声でアバウトな指示を飛ばす。だが相手はこのドライバーの作成者と言っていた。それならばある程度の機能は理解しているはず。


 その意思を汲み取った卓郎が暗中模索でドライバーを掴み取る。春奈に渡したドライバーは後継機だが先代機であるこのドライバーにも同様の機能が備わっている。


 変身時に一度だけ使える拳にエネルギーを収束させる所謂必殺技を繰り出す為の操作スイッチ、春奈との戦闘時に左――脚の必殺技は使用済みだが拳側は未使用であった。


 ドライバーの右側のスイッチを感覚で下げると微かにReady fistという電子音声が答える。天使型のロボットスーツを着た()()は自身の右拳にエネルギーが溜まっていくのを暗闇の中で感じ取っていた。


 彼女の攻撃属性は炎、瓦礫の下にいる今、現存の酸素を全て利用してしまうことからチャンスは一度きり。爆発や火災など二次被害を考え出したら助からない。


 意を決した彼女は身体を捻ると天に向けて拳を突き出す。たちまち燃え盛る円柱の如き炎が瓦礫を押し出し、太陽が二人に光を与える。


 地上では爆発が起きたと勘違いした聴衆が悲鳴を上げる中、炎で出来た突破口を最後の力を振り絞って彼女は卓郎を抱えて瓦礫の山から脱出した。


 再び崩れだした瓦礫を他所に聴衆がいない路地裏で抱えた卓郎を降ろす。咳き込んではいたものの少しの火傷程度で命に別状は無いようだった。


 軽症である事を確認した彼女は立ち去ろうとすると咳き込みながら卓郎が呼びとめる。


「ありがとう…ございました。それで、そのドライバーなんですが……」


 瓦礫の中でのやりとりの通りこのドライバーは彼の所有物だったのは確かであろう、そう思った彼女が変身を解除する為にカードを取り出した。


「あなたの様な人が持っているなら…安心です。もう少し預かっててください」


 カードをリードさせる直前、彼の言葉を聞いて手が止まる。彼の方を見ると表情が少し微笑んでいた。火傷と煙とニキビがある彼の顔はお世辞にも清潔感は感じられない。しかしそこには確かに感謝という綺麗な心が宿った眼差しに、彼女は手に持ったカードを握り締め、


「……ありがとう」


 そう例を言うと大通りに向けて小走りで駆け出していく。路地を曲がって卓郎の視界から外れるとカードをドライバーにリードし変身を解除した。


 顔に掛かった眼帯を外すと、目からは大粒の涙が流れていた。それをシャツの袖で拭いながら、OL――冬井 美姫は足早に人通りの方へ走っていった。


 治り切っていない目に着いた傷も、少しボロボロな服も、自分に向けられる奇異の目も、彼女には今朝のようには気にならなかった。



 ※ ※ ※ ※ ※



 卓郎が天使を見送ってからしばらくして、彼を探していた春奈がようやくこの場所に気付いてやって来た。既に変身は解除しており、少しボロボロになった私服に戻っている。


「あいつ居ないじゃん!! とりまコレ返すわ」


 手にはドライバーとカード。心配して来たと言うよりかは備品の返却に来ただけのようだ。彼が黙って受け取ると彼女はこの惨事を引き起こした原因であるにも関わらず反省はあまりしていない様な雰囲気で


「しくったわ、次は暴走しないように気い付ける」


 とまるで次があるかのようにヘラヘラと言った。それを聞いた卓郎は顔や身体に少し痛みを感じつつも、壁に寄りかかりながら立ち上がる。


「次…? こんな事故起こしておいてまたあなたにドライバーを渡すとでも……」


 彼は怒っていた。自身が渡したとはいえ、自分の発明品で意味もなく破壊行動を取り、大惨事を引き起こした事にも関わらず反省の色が見られない彼女に。


「ならいーよ、面倒くせーし。ヲタク君が戦えば良いじゃん」


 その一言で堪忍袋の緒が切れた彼は彼女の胸ぐらに掴みかかる。昨日知り合ったばかりの唯の知人の様な関係にここまで怒りを顕にするとは本人も思ってなかったのか、胸ぐらを掴んでどうしたいのか分からず止まっていると春奈に振りほどかれた。


「離せよ……だから言ったっしょ、ワンナイトだって。あーしは責任負いたくねーし、これでサヨナラだから」


 振りほどかれた手を強く握りしめ続ける卓郎を尻目に春奈は大通りへと戻っていった。やり場のない怒りだけがそこに残り、地団駄を踏むが如く何度か地面を蹴ると、壁に手を叩きつける。


「戦えるなら……やってるよ!!」


 その独白は現場に居合わせたサイレンの音にかき消され誰にも聞こえる事は無かった。



 ※ ※ ※ ※ ※    



「さーて、グッズ捨てて〜っと。良し、断捨離完了!」


 アパートの一室でお気に入りだったグッズを処分し終わった美姫は陽気にも鼻歌交じりのまま、冷蔵庫へと歩み寄っていく。中から安い缶ビールを取り出すと、そのプルタブを開けゴクゴクとハイペースでビールを飲み干した。


 空気を吐き出すとおもむろにカバンの中からドライバーを取り出す。それを蛍光灯に向けながら思い出すのは卓郎からの感謝の言葉。


(私も、感謝される人間になれたんだ!! これ持ってて良かった〜!!)


 愛しそうに酔った唇でドライバーに口づけすると、再びカバンにドライバーをしまう。そうして再び冷蔵庫へ向かうと二本目の缶ビールを取り出した。今日頑張った自分へのご褒美、そんなビールを口へ流しながら夜は更けていったのだった。

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