あーしのマジヤバ戦闘センス
昨日振りです。今回は戦闘シーンとなっております。よろしくお願いします。
「え、ダッサ」
そう呟いた春奈の中にどうやってデコればマシになるのだろうかという考えが頭をよぎったが今はそれどころではないと首を振る。
電撃のダメージから復活した怪物が左手の鈍器を振り上げると怒り任せに地面に叩きつけた。アスファルトの地面がクッキーが砕けるかの如く簡単に壊れる。あれを喰らったらこの格好でも死ぬかもと思った彼女は引きながらも
「物壊すなっての!!」
と文句を言いながら右の掌で顔を叩こうと横から振りかぶる。その手は怪物の彫刻像の仮面には届かなかったもののガードしようと南京錠状の鈍器を盾にしたためそれに当たった。
ロボットスーツ越しにジーンとした痛みが走り、それを逃がすように彼女が振っていると、怪物の鈍器がボロボロと崩れ出した。
(え⁉ ヤッバ、あーしの手ゴリラじゃん)
痛みは走ったもののスーツ表面には全く傷が残っておらずその硬さを実感していると気絶していた根暗男が彼女の姿を見て歓喜の声を挙げた。
「うえっ⁉ 成功? やった!!」
空気の読めない喜び方をする彼に彼女はこのロボットスーツは何なのかと問い詰めようとすると胴の辺りを強い力で掴まれた。
それは怪物の右手に付いていた巨大な手錠であり、それで腕ごと拘束拘束されてしまった彼女は身動きが取れなくなってしまう。
「束縛つっよ、頭といい腕といいアンタの本性なの? あーしはMじゃないし縛られるのはマジ勘弁……なんだけどッ!!」
しかし彼女が少し力を込めればその拘束すら飴細工のように砕け散る。右手を失った怪物を遠ざけるように突き飛ばすと怪物は後ろに一回転しながら倒れ込んだ。
距離を取ったことを確認すると彼女は気絶したOLに駆け寄り抱き上げると巻き込まれる事のないよう離れた店の壁に寄り掛からせる。
この行動でさえも脚に怪我をしているにも関わらず成人女性を難なく抱き上げ、全力で走っているかのスピードで瞬時に移動していた。これがスーツありきなのか、はたまた自身の眠れる力だったのか、それを考えながら未だに一人でガッツポーズをする根暗男の元へ瞬時に駆け寄ると胸ぐらを掴んだ。
「このダッサイけど凄いの何? あとアレ!! あんた知ってんでしょ⁉」
彼は恐らく長い前髪の奥の瞳を合わせずに少し聞き取れる声で答えた。
「あ、あれはセカンド……いわゆる怪人です。……でそれがセカンドと戦う為のスーツ……的な?」
「戦うってあれ元人間でしょ? あーしに人殺しさせるワケ?」
「元人間ですが今は怪人って言うか……別物? 取り敢えず倒せば元に戻るんで」
「じゃあ一片ブッ殺す」
「えぇ……」
考えるのをやめた彼女は彼の胸ぐらを掴む手を放すと丁度向かって来ていた怪人目掛け右手で大振りのビンタをする。最早防ぐ物が何もない怪人の彫刻像の様な仮面にその手はクリティカルヒットし右によろけた。
すかさず右手の甲で往復ビンタを食らわせると重心の移動がままならなかったのか怪人は左に転んでしまった。チャンスと彼女が思い馬乗りになろうとすると怪人の頭の縄が巧みに彼女の拳に絡み付き、彼女を投げ飛ばす。
彼女は飲食店の食品サンプルケースに突っ込み棚が崩れ落ちた。身体にはあまりダメージが来ていないものの硬いスーツは周りの物を簡単に壊してしまう。せめて得物でもあればと思う彼女は彼に質問する。
「ねぇ! なんかないの? 武器とか」
「指に牽制用の……」
「指ね」
彼の回答を最後まで聞くことなく彼女は左手を指鉄砲の形にするとその指先の標準を怪人の仮面に合わせた。
「あーしにゾッコン、指ビーム!!」
そう叫んだ彼女に呼応するようにスーツの指先が少し変形したかと思うと爪側から火花が飛び散りだした。そして弾丸の様に飛び出すと怪人の20センチ手前程で小さくパンと破裂した……
「え? これだけ? ただのロケット花火じゃん!」
「だ、だからそれ牽制用ですって……あと一回っきり」
「うわマジはっず、そこは指からビームじゃないん? 知らんけど」
恥ずかしさを紛らわすように彼女が両手で顔を仰いでいると怪人が再び襲いかかってくる。それに対し
「来んなっての!」
前方に彼女が蹴りを入れると怪人は簡単に後ろに倒れ込んだ。
(何か長くね? 埒あかないじゃん)
しびれを切らして来た彼女が腰に左手を当てようとするとふとした拍子に何かのスイッチが入った。腰のベルトがReady footと告げると身体がロボットスーツを纏ったときとはまた違う音楽が流れ出した。
目の前のモニターに身体の状態を表す図が現れ左脚の部分が温度が高くなっているかのように赤く染まっていた。気のせいか左脚にエネルギーが溜まっているのを感じる。
「イけそうじゃん? あーしのキック!」
立ち上がったばかりの怪人目掛け彼女がミドルキックをお見舞いすると触れた足先から電撃が流れ怪人の動きが止まる。明らかに先程までとの反応と違う。叩いたら飛ぶ、蹴ったら飛ぶではなく内部にダメージを与えている感覚。
(もう一発いっとこ)
感覚で左のスイッチを探し当てると再び押して次の蹴りに備える。しかし少し時間が経っても一向に左脚にエネルギーが溜まる気配がない。正面を見ると赤い文字でLackと書かれていた。
(ラック……運だっけ? 運がないってこと?)
luck(運)ではなくlack(不足)、つまりエネルギー不足だった。このスーツは燃費が悪いのか先程のような特殊技は一度きりしか撃てないようだ。
(どーしよ、これは勝つる! って思ったのに~)
「ま、まだ右側のパンチが残ってます!……でもそれを仮面に当てないと……」
戸惑う彼女に根暗男は助言を行う。それを聞いた彼女がベルトの右側を確認すると左と同じ上から下に押すタイプのスイッチが付いていた。
これを入れれば先程のような攻撃が繰り出せるだろうが普通顔面への攻撃は何かしらで庇う。往復ビンタはたまたま入っただけでもう一度同じ事をしようとすれば今度は髪の縄の部分で防ごうとしてくるかもしれない。
(ボロボロの左腕はともかく髪かぁ……ん? ちょい待ち、あれ防げばいいから……わかった、あーしマジ天才!!)
作戦を思いついた彼女は右手の指先を全て怪人の方へと向ける。そして
「右手全部! 指ビーム!!」
と叫びながら相手との距離を詰めていった。彼女の叫びに合わせ右手の全ての指先から火花が飛び散り指先が発射される。発射された指先は真っ直ぐ怪人へと飛んでいくと仮面に命中し、ひび割れた左腕で顔を覆ってしまった。
(あれじゃあパンチできないんじゃ……)
根暗男がそう思っていると怪人の髪の縄が蛇のように動き出した。視覚が一時的に失われている今、警戒しているのか辺りを怪しむ様に動いている。その状態にも関わらず彼女はこっそりと近づいていく。
(いやいや、無理でしょ!!)
彼が止めようか迷っていると彼女は左手の親指と人差し指で丸を作ると残りの指を怪人の股下目掛けて向けた。火花が飛び散り発射されると、案の定ロケット花火もどきは怪人の股下をすり抜けその背後で破裂する。
その瞬間獲物を見つけた獣のように怪人の頭髪の縄が一斉に花火が爆発した場所目掛けて叩き付けられた。そして怪人も背後を向く。しかし眼前に彼女はいない。彼女は背後を向き隙だらけの怪人に対して右手を振り被ると、左手で怪人の右肩をトントンと叩く。
反射的に振り向いた怪人の顔面目掛け彼女は振りかぶった右拳を突き出す。そして拳が顔面に到達する前に空いた左手でベルトの右側のスイッチを入れた。
Ready fistの電子音が響くと同時にその拳が怪人の顔面にヒットする。軽快な音楽とともに右腕にエネルギーが集まり始め、そのまま怪人側へ電撃として発散される。
音が鳴っている間はエネルギーが集まり続ける性質らしく絶え間なく流れる電撃に怪人はなすすべなく痺れ続けていた。脅威のはずであった縄の頭髪さえも命令回路が電撃によって焼き切れてしまったのかピクリとも動かない。
やがて音が鳴り止むとエネルギーは収束したらしく彼女の画面の身体状態を表す図には右腕が赤く染まっていた。だが既に怪人の仮面はひび割れ、元の彫刻像のような美しくも不気味な雰囲気は微塵も感じられなかった。
最後のダメ押しというように彼女が再び力を入れて右手を突き出すと怪人の仮面は粉々に砕け散り、力なく後ろに倒れ込んだ。
そして体表にもひびが伝播し憑き物が落ちるように体表も崩れ落ちていった。その下からは元の言い争っていた男性が出てきた。驚いた事に怪人状態で失われていたはずの右腕は何事もなかったかのように存在していた。
「とりま、これでいい感じ? ストレス発散出来たし化物も倒せたしウィンウィンってやつ? つーかあーしボクシングの才能あるくね」
怪人を倒して慢心しきった彼女はシャドーボクシングのように何度か空に拳を突き出した。やがて飽きてくると寝かせたままのOLを思い出し救急車を呼ぶべくOLの下へ走る。
(ケータイ、ケータイって取り出せないじゃん)
持っていたバッグごとスーツを着込んでしまったらしくスーツを脱がないと携帯を取り出す事ができない。叩いて壊してみるかと何度も自分の腕を殴っていると
「こ、壊れないですよ……超硬いですから」
といつの間にか背後に立っていた根暗男に告げられた。また喜んでいるのかと思ったが彼の手には携帯が握られておりどうやら既に救急車の手配をしていたようだった。
「解除はこう」
彼は彼女の右腕を掴むと手首の装甲を一部外した。するとスーツを出現させた時と同じカードがそこから出て来た。スーツ形成の際にそこに移動されていたのだろうか。
そのカードを溝にスライドさせるとロボットスーツは霧散するように消え中から愛くるしい顔と抜群のスタイルのJD――つまり元の春奈が現れた。
「おっ! あーしのボディじゃん……ってあり? 顔痛くないしここも血出てなくない⁉」
スーツを着る前に男性に壁に叩きつけられた時の痛みや、ナイフが刺さっていたふくらはぎの傷も綺麗さっぱりと塞がっていた。着るだけで傷が治るの凄いけど高そー、と彼女は思いつついくらなんでも周りに人がいなさすぎる不自然さに気付く。
「人がいないのはセカンドの影響……です、多分。人の潜在意識下に作用する特殊な脳波を発生させて近寄らせなくするとか……多分言ってもわからないですよね」
彼女は何だか馬鹿にされている気がしたが、実際彼が何を言っているのか理解できていなかった。人が近寄らなくなるのはわかったが、ならば何故このOLは自分を助けてくれたのか。
「まぁ、たまにその脳波を跳ね除けちゃう人もいるみたいですけどね」
このOLは人が襲われている所に臆することなく飛び込んで来たのだ。面倒事にはあまり関わりたくないと思っている自分とは別の世界の人間なのかと彼女は尊敬とも軽蔑ともどちらでもとれる複雑な感情で眺めていた。
「と、ともかくあーしさんは凄いです。渡してすぐにコレを使いこなすなんて」
「あーしさん……ってだれ? あーしは春奈だけど?」
「え? てっきり自分を名前呼びしてるのかと……」
「あんたさっきからあーしのこと馬鹿にしてない? まぁいいやとりま名前は?」
「奥野 宅郎……です」
卓郎はカツアゲにあっているかのような怯え方で名乗った。相変わらず声のテンションの移り変わりがわからずイラつき始めた春奈はようやく取り外せたベルトの機械を目の前に上げた。
「じゃあいいや、えーっとヲタク君? これなんなん?」
「ヲ、ヲタクじゃないん……ですけど。それはSuper Only one brilliantドライバー、セカンドに対抗する為の道具です」
「いや長いわ、え〜っとSOB、SOB……お、これでいいじゃん」
ドライバーの名前がくどいと思った彼女は携帯の検索機能を使いしっくり来た呼び方の英単語を見つけ、彼に提示した。
「さ、サノバビッチ!?」
「そそ、S.O.B.ドライバー」
「意味違っ……まぁあなたが使うものですから良いですけど」
「は?」
あり得ないといった表情をした彼女に疑問を抱きつつ宅郎はとある提案をした。
「え? これからもこのドライバーでセカンドと戦ってくれますよね? セカンドから世界を守りましょう」
「あ~……パス。あーし暇じゃないしヒーローとかそういうガラじゃないし? 責任とかメンゴなんでこの関係はワンナイトってことで、じゃ」
彼の提案を跳ね除けた彼女はすぐさまベルトを彼に押し付けて返却するとそそくさと帰ろうとする。流石にここで帰るのは無しだろうと彼が引き留めようとするも彼女は頑なに提案を受け入れようとしない。
「ヲタク触んな、あーしは人助けとか進んでしないし!! 関わりたくも無いつーの!!」
「そこをなんとか」
「人助けならヲタク君が自分でやればいいじゃん!!」
そう言って引き留めようとする彼を突き飛ばすと引っ張られて少し伸びた袖を直しつつ彼女はさっさと帰路に着こうとする。しかしあのOLの無事も少しは気になったため引き返すと起き上がろうとする彼に対し
「連絡先だけ……あの人の事気になるからそれだけ交換してやる。ヤリモクだったら殺す」
「えぇ……」
連絡先の交換だけちゃちゃっと済ませると今度こそ彼女は帰路へと付いた。もう一度追うべきかと宅郎は思ったが救急車のサイレンが近づいて来たためそれを断念する。
深いため息を付くと彼は気絶したままのOLに向き合う。ドライバーを握るその手を強く握り締め、ギチギチという音が辺りに響いた。
(もう一つのドライバーも行方不明だし、早くセカンドに対抗できる人材を探さないと……)
※ ※ ※ ※ ※
「よし後は寝るか〜」
少し高めのバスローブに顔面パックをした状態で春奈は布団の上で携帯を弄っていた。あの後少しだけSNSをサーフィンして見たもののあの繁華街で化物を見たという目撃情報は一切見つからなかった。
気味が悪いと思いつつももう自分には関係ないと考えを改め部屋の電気を消した。いつものこの時間なら誰かしらと横でピロートークしているので一人の夜になるのは久し振りだった。
(明日のあーしは楽しい今日を送ってますよーに)
寂しさを紛らわすような願い事を暗い天井に投げ掛けながら彼女は眠りについた。
私的にはなりますが戦闘シーンを書いていると別サイトの小説を思い出します。あちらも更新しなければならないのであと2話ぐらい出したらインスピ待ちになるかもしれません。ご了承ください。