文明の利器
「風が全然吹かないな」
「船外機を搭載していて正解だっただろう」
「ああ、文明の利器様々だな」
私は友人たちと共にヨットでカリブ海をクルージングしている。
と言っても、私の所有する別荘がある島を出港してから数時間経った今、風がソヨとも吹かず船外機で航行しているのだが。
島に向けて航行している途中、デッキに置かれていたラジヲが複数の女性の歌声を捉えた。
捉えたのは良いが、捉え方が今ひとつでもっと良く聞こえるようにとチューナーを回す。
「何処の放送局か知らないが綺麗な声だな」
「本当だ、でも雑音が多いな、チューナーを回すだけでは駄目みたいだ」
「良く聞こえる方角に進路を変更しよう」
「正解だ、雑音が少なくなって来た」
「もう少し先に進めば雑音が無くなるだろう」
歌声に導かれるようにヨットを進めて数十分。
ガガガガガ、突然、船底から異音が響く。
「「「なんだ?」」」
「ヤバい、何時の間にか浅瀬の岩場に侵入している」
「あ! あれを見ろ」
友人の1人が指差す方を見る。
指差したところ、大きな岩の上に上半身が人間で下半身が鳥の女のような物たちが屯し、ヨットを見ながら笑顔で歌い続けていた。
女たちの後ろには無線機が置かれている。
「セイレーンだ…………」
「あれがそうなのか?」
「アイツ等も文明の利器である無線機を使って餌をおびき寄せているんだな」
私たちは女たちの歌声に導かれるように、ヨットから海に飛び込み女たちの下に泳ぎはじめた。