美術館小噺
§ひとつめ
神戸市の東の端。
六甲山に上がっていくハイウェイの通りすがりに、その美術館はあります。
「白鶴美術館」
ご存じ、日本酒でおなじみ白鶴酒造が所有している美術館です。美術館に関するうんちくはホームページ等々をご覧あれ。
この美術館、ぱっと見はお寺? と思うようなたたずまいで、実際、私も美術館と知る前はお寺だと思っていました。
そのうえこの美術館、春と秋しかオープンしていないんですよね。
その他の期間は建物の補修だとか修復とかに当てているようですね。
なにせ建物自体が、美術館か博物館か、と言うような、古くて、でも手入れが良くされていてものすごく素敵です。お庭も素敵、フォトスポットが設けられているのもなかなかよろしいですわ。
古い建築に興味のある方は、ぜひ訪れてみてください。建物を見るだけでも値打ちがあると、私は思ってます。
で、そんなに素敵な美術館ですが、場所と建物の雰囲気からあまりメジャーではないようで、展覧会しているときでも、平日の朝一(10時オープンです)に行けば、ほぼ貸し切りです(笑)
展示物も建物も見放題。
本館に飾られている絵画は圧倒されてうっとりして。
展示物を見て回るために歩くと、自分の靴音が響きます。磨き抜かれて黒光りしている柱や床や、天井や。その雰囲気だけで、もう来て良かった~と思えるんですよね。
それから面白いのは、この美術館は本館と新館に分かれていて、新館の方の建物は、本館とは打って変わってコンクリート打ちっぱなしの現代建築。そちらにはペルシアをはじめとした中東で織られた絨毯が展示されています。この絨毯たちがまたなんとも言えず美しい。
まあ、機会があれば訪れてみてください。昔の建物に興味がある方は、是非。
§§§
それは、とある展示期間のとある日。
お天気に恵まれたその日、私は「白鶴美術館」を訪れていた。
いつもは貸し切りなのに、その日はもうすでに誰かがいる模様。
「あれ? 今日は先客がいるんだ」
と、ちょっぴりがっかりして、でもまあいいかー、と、展示室へ。
「……」「……」「……」
展示室に入ると、白髪のおじいちゃん(失礼)と、美術館の方と、あと何人か男性がいて、美術館の方が展示物の説明をされているご様子。
へえ、ここって頼めば説明してもらえるのね、と、最初は何の気なしに、ちゃっかり説明を小耳に挟みつつ見学していたのだけど。
なんか、様子が変?
展示物とその説明を、ものすごく興味深く楽しそうに聞いているのは、そのおじいちゃんのみ。周りの男性方は、最初親族かなと思っていたのだけど、それにしては距離の取り方が……。
「あ!」
そこで唐突に気づく。
「この人たち、SPだ!」
黒服ではないけれど、きちんとしたスーツで、しかも鍛えられたガタイで。
「ええー?!」〈心の声〉
これって映画やドラマのロケじゃないよね? ロケだったら入り口とかで教えてくれるよね?
「ええーーー!」〈またまた心の声〉
うわあ、SP連れて美術館来てる人なんて、初めて見た! でもさあ、そんなにお金持ち? なら、この時間だけ貸し切りにしなよ。あ、でも、春と秋しか開いてないのに貸切なんかしたら駄目だよねえ。ええー? でも~、受付の人危機管理なさ過ぎ。もしも私がプロの殺し屋だとかだったら、どうすんのさ! 違うけど(笑)
そんなこんなで頭グルグルして冷たい汗も出て来たので、じゃあ先に2階の展示室行ってこよう、と、内心焦りつつも変な動きは出来ないので優雅な振りして、その場を立ち去ったのでした。
あー緊張したー。
そのあとも、いつ彼らが上がってくるか気が気じゃなくて、展示物もササアーっと見て回っていると、どうやらご一行様がゾロゾロと上がってくるご様子。
ひええー、と、気の弱い私は、また優雅な振りして入れ違いに2階も後にしたのでした。
わあ、凄い経験したあ。でも、あのおじいちゃん誰なんだろう。どこか大きな会社の会長さんとか? それともどこぞの富豪?
でね、本館を後にして、新館へ行こうと外へ出たら、またまたいましたよ! SP!
なんだかねえ、見張られているみたいな気分。
新館の安全も確かめなきゃならないんだろうけど、まあその日その場にいたのは私だけなんだけど……。
こんなおばさんに何が出来るっちゅうねん!
そんなに心配なら、やっぱり貸切りにせえーー!(笑)
とある風の心地よい、お天気もピカピカの日の、美術館鑑賞でのおはなし。
§ふたつめ
鳥取砂丘の近くにある美術館。
と言えば、ご存じの方もいらっしゃいますよね。
「鳥取砂丘 砂の美術館」
小説『はるぶすと』の中でも、従業員たちが訪れていた美術館です。
でも、本当に素晴らしいんですよ、ここも。入り口に作られた砂の造形から始まって、中はグルグル回れる回廊みたいになってて、砂像がため息をつくほど精巧に作られていて。
でも由利香ちゃんが言っていたように、展示期間が終わると、その砂像たちは惜しげもなく砂に返されてしまうのだそう。
その時期に見られるのは、その時期の砂像だけ、まさに一期一会ですね。
皆様も、機会があれば是非訪れてみてください。
§§§
長い廊下? みたいなところを通ってエレベーターに乗って、砂像が見渡せるあたりへとやってきたのだけれど。
なんか、でっかいカメラ抱えたテレビクルーの一団みたいなのがあちこちにいて、カメラテストとかをしている。
「へえ、ローカルニュースに流れるのかな?」
とは言え、ローカルでもなるべく写りたくはないので、カメラを避けるようにあちこちまわっていたのだけれど。
そのうち黒いスーツ姿の女性があちこちで見受けられるようになった。
「ん?」
たぶんこの方たちも、SP。
「へえ、誰か来るんだ」
女性のSPという事は、来るのも女性だな。
で、このときはまだ、どこか外国の王女さまでもいらっしゃるのかな、と思っていた。
一般ピープル一緒に見学しても良いんだあ、とも思って。
そのあとトイレに入ったら、こちらは何分かごとにものすごく厳重なチェックが入っているらしく、それに時間がかかるのでけっこう並んでいたりする。
でね、ここで発揮される、厚顔、怖い物知らず、好奇心満々のオバさん気質。
なんと私、SPの1人を捕まえて、
「どなたがいらっしゃるんですか?」
と、厚かましくも聞いていた。
でも、「言えません」の一言で片付けられてしまいましたわ。こっそり教えてくれてもいいのにねえ、良い訳ないか(笑)
でもその後、「美術館の外で聞いてみて下さい」と、今度はこっそり教えてくれました。
あれ?、外出たら言ってもいいって、まあ、変だけど、その時はあきらめて、展示を堪能して美術館を後にしました。
で、美術館から出てみると、お土産屋さんに人がたくさんいるのは良いとして、なんか、駐車場のあたりに人垣が列をなしてるんですよねえ。
外だったら教えてくれるのかな?
と、そのあたりにいる人を捕まえて聞いてみると。
「なんだかね、秋篠宮佳子さまが、いらっしゃるんですって。もうすぐここを通って行かれるようですよ」
と、優しそうなおばさまが教えてくれました。
「ええーーー!? ちょっと! あの、秋篠宮佳子さまだって!」
思わず家族に伝えて、人垣のすいたあたりに身体をねじ込ませていく? ド厚かましいオバサン。
やった、最前列!
で、で、この目でご本人を目に焼き付けたいオバサンは、撮影を家族に任せて、ただひたすら列に並ぶこと数十分。
キターーー!
駐車場に入る道に現れた、黒塗りセダン!
おお、まさしくあれこそは、皇室の方が乗るにふさわしいお車!〈ホンマかいな〉 と、1人興奮していると。
目の前をゆっくりと、車が通り過ぎていく~。
なんというか。
別に、追っかけではないし、さっき来られるのを初めて聞いて、野次馬根性丸出しで並んでいた私らなんかにも手を振って下さるその姿の、まあ、なんとお可愛いこと!
で、この時代にカメラもスマホも持たずに、素手で手を振るこちらを見て、ちょっとビックリされたような感じを受けたのは、まあ、私の妄想と言う事にして(笑)
美術館入り口でお迎えの方に挨拶されたあと、きちんともう一度こちらに向かってお辞儀をして下さいました。
まあ、素敵~、もうそれだけでファンになっちゃうわ。
思いがけない経験でした。
こんなこともあるんだね~、と、その日は家族と話しつつ、美術館を後にして、帰路に着いたのでした。
こんな偶然めったに無いよね、と言う出来事があった、大好きな鳥取砂丘での、とある日のおはなし。
ここまでお読み頂き、ありがとうございました!
美術館SP特集小噺おふたつ、お届けしました(笑)
今回も不思議というわけではありませんが、お楽しみ頂けたら幸いです。




