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谷崎潤一郎記念館


 その存在を知ってから、行こう行こうと思っていながら、なかなか訪れていなかった場所があります。

「谷崎潤一郎記念館」

 その名の通り、谷崎潤一郎の数々の資料を所蔵している記念館です。


 ただ、初めて行くには少しばかり駅から遠く、バスを利用しなくてはならないのがネックで(知らないところで乗るバスって、なんかものすごくハードル高くありません? 私だけか)なかなか重い腰が上がりませんでした。

 それなのに、何故行こうと思ったのか。

 それは、ひとえに、これ! ↓↓

「冬の特別展 【谷崎が・棄てた・「細雪」】~反古原稿の中の名作~」 


 なんと! あの、細雪に、日の目を見ることなく書き棄てられた、反古ほご原稿があったと言うんです。

 こいさんこと妙子が、本作品とはまた違う流れになっていく設定だとのこと。


 これは……

 これは!

 細雪ファンとしては、もう放っておけないじゃあ、あーりませんか!

 これはもうどうしても行くしかない、と言う事で、即、決行した次第です。



 記念館は、谷崎が愛した芦屋にあります。

 JR・阪神の芦屋駅からバスに乗るか、または阪神芦屋からは歩いて15分ほどだそうですが、それでなくても最近は迷子になる率が爆上がりの方向音痴なので、たとえ地図アプリがあろうとも、バス一択に決まってます。

 あ、ただ、私はJR芦屋駅からバスに乗ったのですが、行きは大きな駅の大きなバス停なので、目指すバス停に行くバスがどれかもすぐにわかりました。が、帰り、バス停に行ってみると……、本数が少なーい!

 まさに行きはよいよい帰りは怖い、ですね。

 あ、でもね、私が勘違いしていたんですが、芦屋駅へ行く系統のバスがいくつもあるので、そんなに数は少なくなかったようです。けれど、初めて行く場所の初めてのバス停は、やはりハードル高かった。

 バスで行かれる際は、帰りの時間をしっかり確認されることをお勧めします。

 が、一度行った場所なら土地勘もつくし(ほんまかいな?)ちょっとばかし大胆になれるので、今度は阪神芦屋駅から歩いてみようかな(また行くんかい!)

 だってねえ、1回きりなんてもったいない。

 入場料は300円と破格のお安さだし。

 芦屋なのに。

 でもそのからくりはすぐにわかりました。

 記念館の中には展示室の他に、カルチャー教室というのかな、色んなお稽古事が出来る場所が設けられているんです。なのでこの料金設定でも大丈夫なのかなあって。


 とりあえず、バスをおりたらすぐに谷崎潤一郎記念館の案内表示があり、それも丁寧に記されていて、私にでもわかるのだから、きっと誰にでもわかると思いますよ。

 けれど、すぐ隣に芦屋市立美術館があるのに、完全にスルーしてまっすぐ記念館に向かうあたり、どんだけ好きやねん(笑)

 通りすがりにお洒落なカフェがあったのですが、今回は緊張していて利用せずじまいでした。今度行くときは是非行ってみますね。


 小さいながら屋根のある和風の門をくぐると、重厚な建物があり、入り口に少々迷いつつ、見つけた自動ドアを2つくぐると建物の中はまだそんなに古くなくて、とても明るくて綺麗でした。

「どちらを見られますか? 特別展?」

 と、受付の方に聞かれて「?」となりつつも、特別展だと答えるとチケットとパンフレットを下さいました。

「生徒さんの作品展も、良ければお庭も見て下さいね」

 そう言われて、そう言えば門をくぐる前に今月のお稽古事とかいうのがあったなあ、と今さらのように気づきました。


 作品展は後で見るとしてまずは特別展から、でもその前に。

「あの、お手洗いをお借りしても良いですか?」

 年齢問わず、若い頃からトイレが近いわたくしは(変な話題ですみません)、美術館に行くとまずはお手洗いです。

 でもですねえ、ここのお手洗い、ビックリです。なんと「厠」とでかでかと書かれていて、谷崎が思う厠のうんちくがそれぞれの個室の壁に書かれているんですよ。おもしろーい!

 思わず今回使わなかった方の個室にも入って、うんちく読みましたよ。

 あれ、でもこれって女性用だけなのかな。



 さて、すっきりしたところで、いよいよ念願の特別展へ。


 展示室はそんなに広くなくて一部屋だけなんですが、谷崎潤一郎の書斎なども再現されていて、見入ってしまいました。

 特別展示は中央に据えられており、こちらから順にご覧下さいの表示から拝見して行きました。


 もうねえ、生原稿ですよ。

 神戸文学館にあったのと同じ、丸文字みたいな可愛い文字。毛筆だと思うのに、この字体で書けるんだあ。

 所々黒く塗りつぶされているのは、今なら削除で出来るところ。

 それに、所々に>のマークをして挿入された文があったり、ときにはそれが吹き出しみたいになっていたり。

 ああ、わかるなあ、これ。

 書いた文章を読み返してみて、ここの表現はこれを入れた方が良いかな、とか、これも書けば良いかな、など書き加えるのは物書きあるあるですよね、いや、名だたる文豪と私なんかを比べるのは本当におこがましい話なんですが。

 けれど、現代みたいに、カーソルあわせてチャチャッと削除したり挿入したりが出来ない手書きの時代だったからこそ、こんな貴重なものが見られるんですよねえ、嬉しくて嬉しくて仕方がない。

 もう一つ嬉しかったのは、谷崎潤一郎ってけっこう几帳面な人だったのでしょうか、原稿が読みやすーい。編集者泣かせの文豪も多々いたでしょうけど、谷崎はそんな事なくて、ドシロウトの私でもスラスラッと読んで行けるんですよね。

 そして、その中身というか文体が。

 紛れもなく「細雪」なんですよ。

 読んだ覚えがない内容なんだけど(反古されたんだから当たり前)、つらつらと長く続く文や、登場人物の口調や話し方が。

 もう完璧に細雪。

 ああ、この文章を、本編の解説でもあとがきでもいいので、おまけで印刷してもらえないかなあ、と思えるほどしっかりと胸に響く作品でした(あえて作品と言ってしまおう)。


 そのほかの展示は、谷崎潤一郎の生涯的な。

 うーむ、私は細雪だけ、が大好きなので、他の作品はちょっとドロドロでご遠慮気味の人なのですが、谷崎自身も、まあその~、恋多きお方? ぶっちゃけ天才と呼ばれる方は私たち凡人とは色んな意味で観念が違うのだな、と、すこしばかり納得した感じでした。

 けれど。

 今まで名前と作品しか知らなかった人物が、時代は違えど確かにここに生きて、原稿を書いていたことに、ものすごく大きな感慨を受けました。


 見終わってから、作品展もお庭も見て回りまして、意気揚々と記念館を後にしたことでした。

 私と違って、お隣の芦屋市立美術館メインで訪れる方もいらっしゃると思いますが、その時は是非こちらにも足を運んでみて下さい。




 ああ、また「細雪」が読みたくなってきた。






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