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第72話 エルフの女王に貞操の危機を感じる。


 エティゴーヤの手配してくれた宿に一泊したが、昨日の宴会で出されたワインや果実酒が美味くて、呑み過ぎてしまって胸がムカムカする。

 《デトックス》で何とか取り除けてよかった。

 3日連続同じような朝を迎えている気がする……


 出立の準備を整えてエティゴーヤの屋敷に挨拶に行くと、エティゴーヤはすでに小国家連合の他国に向かって元気に出発したらしい。

『宿代は特別にワイが払っといたりますわ』と伝言が残されていた。

 いや、宿代取る気だったのか……

 だけど、早速動いてくれているようで何よりだ。


 昨日の宴会で、ルート的にはエルフ族領に行ってから、宗教国家ディステに行った方が効率的だと言われたので、予定通りエルフの大森林に向かうことにした。

 センバーから北西に飛び立つ。


 オーサクにも森林地帯はあったが、急に雰囲気が変わった。木、というか森の質が変わったのだ。おそらく国境を越えたのだろう。

 オーサクの森よりも、幹も枝も葉も大きくなり、枝がしなって、あたかも自分で動いているかのようにゆらゆらと揺れている。

 見方によっては通せんぼしているようで、人を寄せつけない雰囲気がある。


 しばらく飛ぶと、遠くにうっすらと何かが見えてきた。山だろうか?

 近づいていくにつれて、徐々に姿が露わになっていく。


「おいおいおい! 木だ!」


 地球で、標高2,800mのルクラから見上げたエベレストくらいの高さだ!5~6,000mはありそうだ。


 これが、エルフが信仰の対象とする“始原の樹”か。

 この木も枝が動いているように見える。


 始原の樹の奥には、富士山の様な独立峰がそびえ立っている。


「これはこれで凄いが……、始原の樹の方が実際の高さもインパクトも上だな」


 エルフ族は、大森林の各地に散って集落を形成しているが、エルフの女王リーファ・トゥインクルウッドは、始原の樹の付近に大集落を設けている。

 大集落を見つけたので、下に降りて入り口に向かう。


「止まれ! そこのヒト族! どこから入って来た!」


 木の枝に潜んでいたエルフ族の男達5人が、一斉に弓を向けてきた。

 いるのは判ってたけど、いきなり弓を向けてくるかねぇ。


「こんな大森林の奥地に急に現れるなんて! どこから入って来た! 」

「早まるなよ? 俺はアンタ等の女王、リーファ殿への遣いで来たんだ!」

「嘘をつけ! 手順を無視して森に入った者が使者な訳あるか! 捕えろっ!」


 手順なんてあったの? 誰からも聞いてないんですけど?


 エルフ2人が、そのまま木の上から弓を向けて、3人が俺を捕まえに降りてきた。


「……仕方ない」


 先に3人を気絶させ、木の上の2人は後ろに転移して気付かれる間も無く取っ捕まえた。

 5人を縛って連結した上で猿轡を噛ませて、1列に並んで集落の入り口に向かう。


「止まれ! そこのヒト族! どこから入って来た!」

「むー! むむー!」「ムーー!!」


 入り口の番が俺を止めるが、捕まえた連中が「()()せ」と、声になっていない声で制止する。


「こいつらみたいに早まるなよ? 俺はリーファ殿への遣いで来たんだ!」

「嘘をつけ! 手順を無視して森に入った者が使者な訳あるか! 捕えろっ!」


 だから、手順知らないんだって!

 仕方ないから、縛って連結したままの5人のロープを持ったまま《フライ》で上に行く。


「ん゛~~」「むーーー!」


 一直線に吊り下げられた形になった5人のエルフ達が、ジタバタと騒いでいる。


 その時、始原の樹の方から強風が吹き、その風に乗ってリーファがやってきた。


「あ~ん! やっぱりユウトちゃんだ~♪ 来てくれたのね? リーファ嬉しい!」


 リーファが、5人のエルフを吊り下げたままの俺に抱きついてきて、ほっぺにチュッチュしてきた。

 ふくよかな胸が俺に押し付けられている。


「なっ! 何をしていらっしゃるのですか! もう少し女王たる自覚をお持ちください!!」


 駆けつけて来た側近がリーファに小言を言っている。

 とりあえず地上に降りて事情を説明すると、リーファの屋敷まで案内された。

 移動の間も俺から離れることなくひっついているリーファの姿を見て、集落のエルフ達が驚いていた。


 エルフの住居は木で作られているが、リーファの屋敷は始原の樹の大きな(うろ)に手を加えて作られていた。

 椅子やテーブルなどの家具、窓や扉の枠などは、始原の樹が自分の意思で形を変えたかのように、自然な形で作られている。

 屋敷についても、リーファは俺から離れようとしない。


「リーファ様! そろそろお離れを。もう少し女王たる自覚をお持ちください」

「あなた、100年位同じ事言ってるじゃな~い? しつこいわよ~?」

「で、でしたらもう少し女王たる自覚を……」


 埒が明かないので、キースとアムートの書状を渡すと、ようやく対面の自分の椅子に離れてくれた。


「ふ~ん? アムートちゃんって子がバハムートちゃんの子供で、キースちゃんが匿っていたのね? ……で、フリス坊やは国の子達に酷いことをしてるから王様を辞めてもらう、かぁ」

「そうです」


 少しは考えるのかと思ったら、すぐに口を開いた。


「いいわよ。お手伝いしてあげる」


 俺が拍子抜けしていると、リーファが身を乗り出して来た。


「そんな事より~、ユウトちゃんこの前ステータスを偽装してたでしょー? それに! ユウトちゃんは、なんでバハムートちゃんと同じ魔力なの? 教えて教えて~!」


 仕方ないので、俺のステータスを見せて、バハムートの記憶もある事を伝える。


「王城でも、リーファさんの事はすぐ分かりましたよ。全くお変わりないようで……」


 俺の言葉が終わらないうちに、椅子から飛び上がって俺に抱きついてきた。


「バハムートちゃ~ん! あなたが居なくなって寂しかったんだから~! うわ~ん」

「お、俺はバハムートじゃないぞ? 残念ながら」

「一緒よ~。同じ魔力なんだから~」


 違うと思う……


「リーファ様! そろそろお離れを。もう少し女王たる自覚をお持ちください」

「まだ言うの~? うるさいわね~」


 改めて協力してくれる事を確認し、側近たちも納得してくれたようだ。

 これでエルフ国でのミッション達成だな。


 リーファが、『ユウトちゃんの歓迎会と、バハムートちゃんのお帰り会』という名目で宴会を開いてくれた。

 木の実や果実から作った美味しいお酒と、美味しい料理でもてなしてもらう。

 気のせいかリーファが注いでくれる酒が、段々強くなっている気がするぞ?



 深夜、リーファの用意してくれた部屋で寝ていると、リーファが「ユ・ウ・ト・ちゃ~ん」と夜這いに来て貞操の危機を感じた。

 集落の外まで転移で逃げて、魔力を隠蔽して木の上に寝袋で寝る羽目になった……


お読み頂きありがとうございます。

長編小説です。

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