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第71話 商人との駆け引き?


 ドワーフの王ゴダンの住居に1泊したが、アルコール度数という概念が無いかのようなきつい酒とドワーフ達の飲酒量に合わせたせいで、二日酔いで胸がムカムカしている。

 《デトックス》で何とか取り除けてよかった……

 昨日の朝もこうだった気がする。


 ゴダンはもう起きていて、二日酔いの気配すら無く、さっそくスライサーの研究をしていた。


「おはようゴダン。昨日はご馳走さん」

「おう! 楽しく飲めて良かったぞい! しかし、ワシらと同じくらい飲んで無事に起きたヒト族なんぞ滅多にいないのである。流石じゃぞい」

「さっきまでへろへろだったよ。……準備ができ次第、次の国に行くよ」

「おう! こっちもアムートの件は任せるのである」


 ゴダンの見送りを受けて、商業国家オーサクへ向けて出立した。


 ドワーフの王都を出て、大河に沿って上流方向に飛ぶ。

 対岸の国は農業国のイビャラク。空から見るとパッチワークのように色とりどりの畑が広がっている。建物は木造というかログハウス的な物が多い。

 大河には漁船らしき小船も出ているし、酪農もしているっぽい。


 大河沿いをしばらく飛ぶと、今度は荷物を積んでいる小船や中型船が盛んに出入りしている河川港があった。

 これが、オーサクの北の玄関口らしい。

 ここで方向を南西に変えて、巨大な街だという代表都市センバーへ向かう。


「へぇ、商業国家と言っても、農業もしているし、工房らしき建物もあるんだな……。あ、あれがセンバーだな」


 センバーも一応城壁に囲まれているので、外に降りて、通行門に向かう。


「あんさんセンバーは初めてでっか? 手形かギルド証を見せてもらえまっか?」


 門では監査人による通関作業がせわしなく行われていて、俺みたいに手ぶらで入ろうとする奴なんて1人もいなかった。


「ギルド証って、これか?」

「そうそう、これがないと通れまへんで~、って! これ冒険者登録証やおまへんか! ワイがゆうとんのは商業ギルドの登録証のことや!」


 ……これが乗り突っ込みかぁ。――って違う違う。


「マッカラン大公国のキース大公の遣いだ。エティゴーヤ殿に取り次いでもらいたい」


 門から早馬を出してもらい、返答が来たと思ったら、なんとお迎えの馬車を寄越してくれた。

 立派な馬車に乗ってエティゴーヤの屋敷に向かう。

 馬車から見える街中は、人でごった返していて、いわゆる好景気真っ只中なのだろう。


 蔵の立ち並ぶエティゴーヤの屋敷に到着すると、本人が出迎えてくれた。


「よう来てくれはったなぁ、ユウトはん」

「わざわざ出迎えて頂いて、ありがとうございます」

「なんもなんも! 堅苦しい事いいなや。どうですセンバーの街は?」

「いや~、すごい景気がいいですね~。エンデランスとは大違いですね」

「せやねん! あっこのフリスはん、なんも仕事できしませんのや、困ったお人やで、ホンマ」


 エティゴーヤに先導されながら屋敷の中に入った。屋敷の中も、大勢の使用人が忙しそうに働いている。


「商業国家と聞いていたけど、農業とかもやってるんですね」

「ああ、それはな、農業の国でもよう作らん作物を育ててまんねん。高う売れまっせ!」


 ……商魂たくましい!


 豪華な応接室に案内され、お茶を出してもらった後は、扉を閉めて2人きりになった。


「さて、本題に入りまひょか」

「そうですね。……これを」


 キースとアムートの書状を渡すと、エティゴーヤは(うやうや)しく受け取るそぶりをした。

 じっくりと目を通したエティゴーヤは、深く息を吐いて、つづける。


「やはりそうでしたか~」

「やはりって?」

「ウチらもアホやありまへん。政治でも商いでも情報が一番や、当然商会の情報網があって、色々情勢を探らせてたんですわ。今回はなかなか掴めんくって難儀してた所やったんです~」


 エティゴーヤはそう言うと、一瞬目の奥に光を宿して言葉を続けてくる。


「そう言えば、ユウトはん。王都での王城崩落騒動、アレ、あんさんのお連れの方がやったらしいですな?」

「――! え、ええ。大変でしたよ。しばらくはエンデランスに行けないかなって思ってたんですけど、案外早く行く事になりそうですね」

「ふ~ん」


 エティゴーヤが考えを巡らせている。損得を勘定しているのだろう。


「よっしゃ! いいでっしゃろ。協力しまひょ。このままフリスはんのせいでエンデランス王国にこけられたら、ウチらの景気まで悪うなりますさかいな」

「おお、ありがたい!」

「――ただし! 当然見返りはあるんでっしゃろな?」


「え、ええ、もちろん!」


 ……勢いで返事をしてしまったが、どうしよ~。


「まさか、あんさんの武器や衣服を剥ぎ取るわけにいきませんよってな~?」


 エティゴーヤが、チラチラと俺を窺ってくる。

 どうしようどうしよう。小金貨か? ――いや、それで足りるか? 物か? 物……もの、そうだ! 魔石にするか!

 でも、どの魔石にする? ブルードラゴン? ――それはもったいない。キマイラ……リッチ……サラマンダー……グリフォン……



******エティゴーヤの心の中



 おーおー考えとる考えとる。

 あんさんは気付いとらんかもしれんが、あんさんのステータスはウチの番頭がアナライズしとるんやでぇ。確かにレベルが低かったけどぉ、偽装してはる可能性も捨てきれん。


 それに! ウチの情報網では、門は確かに巨大やったらしい。そんな巨大な門のダンジョンが、1層で終わりなわけあらへんやん!

 30階層はあるはずや! もしかして40階層あるかも?

 ……持ってはるんでしょう? ゴブリンキング並みのモンスターの魔石を!! 出してもらいまひょか!

 ふっふっふっふ



******エティゴーヤの屋敷、応接室



 グリフォンの魔石か~、俺の握りこぶしぐらいしかないぞ~。50階層程度のボスだしなぁ? 40階層のアシッドワーム……

 アシッドワームの魔石で様子を見るか? ダメだったらガルーダの魔石でも付ければいいんじゃないか?

 ……よし! 決めた!


「これでどうでしょう?」


 ストレージから魔石を取り出して、テーブルに置く。



******エティゴーヤの心の中



 おーおーおーおー! 出しよったで! 魔石!! しかも大きい。やはり40階層近くあったんやな! 

 それに土系統魔法しか持っとらんはずのあんさんが、ストレージから出さはったで? ステータス偽装してるや~ん!

 レベルも30~40あるんとちゃいますか? 

 ……十分や! これがあれば、他の国に金バラまいても元は取れて、利益も莫大や!

 王城でのユウトはんの根性見て、商人にならはったら、好敵手になる逸材や思たけど……チョロかったやん!

 そやけど、この気持ち、表情に出したらアカン! 渋々納得した感じにするんや。チョロかったけどなっ!!



******エティゴーヤの屋敷、応接室



「……ええでっしゃろ」


 おおー! よかった~。アシッドワームの魔石で通った~!

 40階層程度のモンスターの魔石なんかじゃ足りないって言われるかもと思ったけど、何とか納得してくれたみたいだな。良かった良かった!


「これで気持ち良く協力してもらえるという事で?」

「もちろんや!」


 今日は契約成立のお祝いだと宴会を開いてくれて夜が更けていった。

 これで小国家連合のミッションは達成だな。


お読み頂きありがとうございます。

長編小説です。

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