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第61話 今語られる、アムートの脱出劇。


「実は、……アムート様は我が国で匿っている」

「……えっ!?」

「ふ? ――ふごー! ふぐぉー!」


 俺は、アニタに気を取られている最中のキースの発言に、完全に虚をつかれていた。


「ほれ」

「――ングングング、ゴクンッ! ……ぷはー!」


 アニタはミケから水を受け取って、難を逃れたようだ。よかった……


「ア、アムートがあなたの国にいる?」


 ドクン!


 心臓の鼓動が一度大きくなった。

 アプリ開始特典で丈夫な身体になった俺だ、不整脈などではない。まるでバハムートが反応したかのようだ。


「あの後、――バハムート様が命を落とされた後、私はバハムート様に代わって対魔王連合軍の指揮を執らなければならなかった……」


 キースは指揮官として、魔王軍がユロレンシア大陸から完全に撤退するのを見届けるまで、戦場から動く事ができなかった。

 王都への早馬やバハムートの遺体の安置、部下がバハムートの後を追う事を禁じたりと、悲しみにくれる間もなく指揮以外にも忙殺されたらしい。


「そして――」


 キースがゆっくりと言葉を紡いでいく。

 暇を持て余したミケとアニタは、すでに眠りに落ちていた。


「――バハムート様の死が王都に伝わって、気落ちなされた国王陛下が病に伏せ、しばらくすると王城は不穏な空気が漂い始めたそうだ」


 王太子妃ミーナとアムートには、バハムートによって優秀な護衛騎士が就けられていたし、その頃にはキースも戦場から様々な手を打つ余裕も出来ていた。


「だけど、事が起きた?」

「ああ、フリスが自身の王位継承を確実なものにするために行動を起こしたのだ」


 護衛騎士達が異変を察知して、ミーナ様とアムート様を王城から逃れさせようとした。


「1人1人は腕の立つ騎士であったが、追手の数の暴力には敵わず、一人、また一人と命を犠牲にして時間を稼ぐことしかできなかった……」


 キースは40年以上前の事を、まるで今起きたことを話しているかのように、手を震わせながら話している。


「――そして、最後の騎士が身を挺して時間を稼ごうとした時、ミーナ様が『私が行きます。あなたは、どうか我が子を、わが夫の血を引くアムートを安全なところへ!』と、アムート様を騎士に託して敵の前に立ちはだかったそうだ」


 ドクン!


 再び心臓が大きく拍動した。

 俺のものなのか、バハムートのものなのか、涙が溢れてくる。


「アムート様を託された騎士は、アムート様を鎧の内側に隠し、追手に背を討たれつつも私の領地に辿り着き息絶えた」

「それで……アムートは?」

「信頼の置ける伯爵家に、――彼ら夫婦には子ができなかったから、実子として引き取ってもらったのだ。大切に育て上げてくれたよ。公国として独立を宣言した時も一番に伯爵についてきてもらったんだ」


 今は40歳を超え、伯爵家を継いで領地も治め、キースが全幅の信頼を寄せる側近となっているそうだ。


「内政面ではアムート様の右に出る者はいないだろう」

「バハムートの事は?」

「御身の安全のために伝えてはいない。私も故伯爵にしか明していないので、アムート様は恐らく故伯爵を実父と思っていらっしゃるだろう」

「あ、会えますか?」


 ドクン!


「もちろん会わせるさ。ただ……魔人族から回復した領土の復興の陣頭指揮を任せていて、今は公都にはいないのだ。数日の猶予をくれないか?」

「もちろん! アムートの負担にならないように日程を調整してくれて構わないですよ」


 もう1つ気がかりがある。


「ミーナは?」

「ミーナ様については……、当時お亡くなりになったという話は出ていなくて、ゴーシュを中心に王国内を探ってもらっていた。確証は無いが、王城の一角の塔に幽閉されているかもしれない。ゴーシュが長い年月をかけて得られたミーナ様に関する情報はそれだけだ」


 ドクン!


「そうか……。死んでいない。生きている。生きて……」



 細かい事は明日にしようということになった。

 俺もキースも頭を整理したいからな。

 しばらくしてマッカラン大公国に入り、出迎えた男爵の先導で男爵邸に到着した。


「ユウト殿達も一緒でいいだろう?」

「いや、俺達は町に行きたいのだけれどいいのかな? こちらの宿屋に泊まってみたいし……」


 宿に泊まってみたい。それもあるが、貴族だのお屋敷だの、格式張ったのは苦手なのだ。

 何より、ミケとアニタ。こいつらは必ず何かやらかしてしまうはずだ。君子危うきに近寄らず……だ。


 キースや男爵の引き止めもあったが固辞して、明日の待ち合わせ時刻を確認して別れた。


「よくねた~」

「ギルド規則は大体頭に入りました!」

「長話じゃったの~? 暇で腹が減ったぞ」

「……とりあえず町に行こう! 今日は宿屋に泊まってみような!」

「「「宿屋!?」」」


 俺達は町に入った。ダイセンの街より大分規模が小さい町だけど、小綺麗ないい町だ。

 恰幅のいいおば、――お姉さんに宿屋について尋ねて、評判がいい宿に泊まることにした。



******エンデランス王国王城、フリス



「なぁ~にぃ~? 失敗しただと~?」


 ようやく報告に来たと思ったら失敗だと~~~!?  


 ダーーン! 「――痛っ!」


 く~~~! 怒りにまかせて杖をテーブルに叩きつけたはいいが、指を挟んでしまった!!


「つ~~~っ! 貴様ぁ! あの小憎たらしい男も雌どもも見つける事が出来ずに、更にキースの襲撃も失敗したというか!」

「れ、連絡が途絶え、戻っても来ない所をみると……、恐らく……」

「どいつもこいつもっ! 余がやれと言った事がなぜ出来ぬのだ! この無能めが!!」

「陛下、お言葉ですが――」

「――な~にを口ごたえしておるか! 貴様は工作・諜報の長であろうが! 失敗をのこのこ報告に来おって!」


 こいつも余を見くびっておるのか!


「おい! そこの騎士ら! 王命である! 今すぐコイツの首を刎ねよっ!」

「し、しかし……」

「ひっ! お許しをっ! どうか命だけは!」

「今更命乞いか? 貴様のような無能など要らぬわ! おい! 早く切り捨てよ」

「は、はは!」

「おゆる――ギャ~!」


 ……気に入らない! 何もかも上手くいかぬ! あの男のせいだ、ユウトとか抜かしたな。

 あの男の余をなめた態度、あの雌どもの凶悪な行い、許せるわけがない!!

 キースもだ! 常に余の邪魔をする。余の国土を! 富を! 奪っていきおる。少ない護衛で動いていた今日こそが排除の絶好の好機であったのに……!


「何をボーっとしておる! 早く死体を片付けぬか! 汚らわしい! それと、宰相を呼べ! この役立たずの代わりを立てさせろ!」


 必ずやあのユウトとかいう輩に制裁をくれてやる!


お読み頂きありがとうございます。

長編小説です。

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