第6話 武器とケーキ。
******ユウトの心中
「あなた……、人を殺せますか?」
というニアの問いに、「出来る」と答えたのは、本当にできると考えているからだ。
俺は小学生から剣道を始めて、礼節を学び俺の人間形成にとてもいい影響を与えてもらったし、技術や身体の動かし方などを身につけられた。
しかし、いつからか……中学生くらいか。
“竹刀という剣”を使って防具をつけた部位への有効な攻撃を、“声を出して”するという点に違和感をもち、それが段々と大きくなってきて結局は剣道を辞めてしまった。
辞めてからも時間を見つけては素振りや足や体のさばきの稽古はしているが、手足を斬り落としたり首を斬る軌道であったり、心臓への突きに繋がるような流れを意識している。
もともと白兵戦で使う刀を扱う技術論から、平和な世の“武士の人間形成”のための生き方を示すものを加え、さらに防具を着けてそこを打ちあう練習が開発されて、それが剣道と形を変えた。
白兵戦で、決められた部位だけをお互い狙うだろうか? とか、相手の足をひっかけたり払ったらダメだとか、実戦を考えたら通用しないんじゃないか? と思っていたのは……俺が中二病だったからではなく、バハムートの魂が俺にそう思わせたのかもしれない思うと納得がいく。
俺には、バハムートが生きてきた世界での魔物や魔人族との――時には人間どうしの――血で血を洗う戦いの記憶が、魂に刻まれているのだろう。
******ユウトの家
「まあ、何はともあれ明日以降だな。まずはメシだ」
夕飯の準備をするので、一応ニアに聞いてみると、残念そうに「私の分は不要です」と言う。
「――分身体だから」とニアより早く言ってやった。
「でも、もしダンジョンやあちらの世界に行かれるのなら、あちらでは実体を持ちますので食べられますよ」
それはミケと夕飯を食べている最中だった――
「思い出した! 携帯ショップのお姉さんだ!」
ニアが誰に似ているのか、ふいに思い出す事ができた。
けど……ご飯を口に含んだままだったので、ミケが被弾した。
「……ユウトよ。我に米を飛ばしてまで言う事か?」
朝になると雨は上がっていた。
テレビは相変わらずエベレスト関連の特別報道番組をやっている。
モンスターは次々に出てきていて、途中のキャンプ地を襲いつつネパール側・中国チベット自治区側、双方のベースキャンプに向かっているらしい。
「人間を襲うように出来てるので、人間のいる方に向かっているのでしょう」
「ところで、モンスター共はよく死なないな。いきなり8,800メートル以上に出たんだぞ? 普通なら気圧か酸素不足で死ぬだろ?」
「我は平気だぞ!」
「……」
「それなら説明できます。奴らは知能が低いので魔法は使えませんが、魔力は持っているので、それを薄く身に纏うことで一種の身体強化をしているのです」
ニアが教えてくれた。
「そんなのが際限なく出てくるのか?」
「それはありません。普通のダンジョンならコアと呼ばれる核があるので破壊されるまでモンスターを生み出しますが、今回のは魔法によって作られた“道”としてのダンジョンで、コアを持たないので今存在するモンスターだけですね」
「いや、こっちの人間にダンジョンの普通、普通じゃないなんて分からんし……。まあ、理屈は解った」
朝食を食べたら早速武器を取りに神社へ行く。
「ここじゃ、ここ」
社殿の裏側の奥まったところをミケが指した。
「ここが山城じゃった頃に、ここに祠があっての。ちょっと深いかもしれんな」
ミケが言うには、山城が攻められて形勢不利になり、城を捨てる際に必ず取りに来ると祠の前に武器や財を埋めたが、後々滅んだためそのままであるらしい。
表面から1メートルは魔法で掘り起こし、後は持ってきたスコップで探り探り掘る。
「おっ! なんかあるぞ?」
30分ほど探したところで手応えがあった。
昔テレビ番組で見た発掘シーンの様に、出来るだけ丁寧に周りの土をどける。
出てきたのはボロボロになった麻か何かで作られた袋。二重三重にあるがどれもボロボロだ。
それを少しずつ剥いていくと、これまた丁寧に何重にも和紙で巻かれている。内側はあまり劣化していない。
「太刀と……槍? いや、薙刀だな」
太刀をゆっくりと鞘から抜くと、多少の手入れは必要そうだが錆もそれほど出ていない。
薙刀の方は持ち手が思ったよりも短く、刃渡りも40cmちょい、反りも小さい。
「おお、なかなかまともではないか。のぉ? ニア」
「そうですね。多少の手入れと、あとは魔法付与で十分強力な武器になりそうですね」
外野――穴の外――にいるミケとニアにも見えているようだ。
よく見ると武器と一緒に紙の包みがいくつか出てきて、なんと中身は砂金だった。
「おお! 金だ。全部で2kg位かな。まあ何も無いよりマシだ」
「金か……あ奴らよく持っておったのぉ。このあたりで金なんぞ、あまり出回って無かったろうに」
「それだけあれば、あちらの世界でいきなり無一文とならずに済みますね」
太刀も金もストレージに納め、穴も埋め戻してから「頂いていきます」と、一応手を合わせてみる。
「さあ武器を手に入れたら、次は買い出しだな。あ、ATMで現金が先か」
「甘味があればそれだけで良いじゃろ。ケーキじゃケーキ! なっ?」
いや、いかんだろ!
隣町の大型ショッピングモールで、一気に揃えられるかと思いきや……刀の手入れ道具が無い。
スマホで調べても近場には無い。通販になるが、時間が無い。
耳と尾を隠す約束で連れて行ったミケは、ケーキケーキうるさい。
「ネパールへ行く練習がてら、もっと大きな街へ飛んでみてはいかがでしょう? 熟練度も上がりますし」
「でも、街中じゃなくでも目立つんじゃないか? 上空は寒いだろうし」
「《認識阻害》があれば、降りる場所さえ間違えなければ気づかれないでしょう。寒さについてもそうですねぇ……風属性の《ウィンドフィルム》を使えば防げるでしょう」
「バリア的なもので寒さ対策もできるのか。《認識阻害》は街中でも効果あるか?」
「はい。でも、たまたまでも見えてしまったら、その人への効果は無くなってしまいますが……」
結局、県をまたいで200㎞弱、大きな都市へ《フライ》で飛んで行き、買い揃えた。
「まあ、こっちのほうが、品揃えもいいし、結果オーライだな」
「うむ、いつもと違うケーキも買えたしの」
刀の手入れ道具、ケーキ、アウトドア用品、米・パン、ケーキ、家電以外の生活必需品、ケーキなどなど買い揃えてストレージに納めた。
「ケーキで破産するぞ……」
あと一応、銀行で米ドルも用意しとくか。
家に着くともう夕方になっていて、エベレスト周辺の被害も拡大している。
「いやぁ、すぐにでも行った方が良さそうだけど、無理は禁物だな。もしかしたら、死んで帰ってこれらないかも知れないんだから、今日は刃物だけ手入れしてゆっくりしよう」
******ネパール某所
あばら家の立ち並ぶ一角の路地、その隅に二人の少女が隠れるように身を寄せ合っている。
「お姉ちゃ~ん、お腹すいたよぅ」
「ごめんねアニタ、我慢してね」
姉のアニカは、ぐずる妹のアザだらけの背中をさすりながら、謝ることしかできなかった。
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長編小説です。
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