第53話 王都到着と下種な視線。
夜が明けて、俺達は早めに朝食を済ませて予定の時間よりも早く箱に戻った。
「おはようゴーシュ」
「おお、早いなユウト、それにお嬢さん方も。昨日は馳走になった」
しばらくして、またパンが投げ込まれた。
下種な言動と下卑た笑いは相変わらずだ。
パンは何かに使えるだろうからストレージに収納して、ゴーシュにはアニカが朝食に作ってくれたサンドウィッチをやる。
「おお! ありがたや。これも美味そうだの」
騎士達の朝食が済むと、馬車が動き出した。
ガタゴトガタゴト、ガタンッ!
あちゃ~、《フローティング》忘れてた……
「よし、じゃあ気を取り直して、ステータスの偽装を始めるか!」
「はい。お任せします」
「どうぞ~」
ミケ達には、朝食時にステータス偽装の事は話をしていた。
アニカとアニタは、別に嫌がる事も無く俺に任せると言ってくれたが……
「嫌じゃー! 火の魔法のレベルは下げられとうない!」
ミケは、せっかく頑張って覚えてレベルも上げたのだから弄られたくない、と抵抗している。
「ミケが頑張ったのは、俺達が知ってるよ。ステータスを偽装しても、強いのはそのままだぞ? それに、真の実力を隠すって格好良いじゃないか」
所々のワードに狐耳がピクッと反応した。
「真の実力? かっこいい? そ、そうじゃのー! なんか格好良いのじゃ」
ワード選びに成功したようで、なんとか説得できたようだ。
名前 : ユウト ババ
種族 : ヒト族
年齢 : 24
レベル: 13
称号 : -
系統 : 製作 武〈長剣〉
スキル: C・土属性魔法〈3〉
名前 : ミケ
種族 : 獣人族
年齢 : 12
レベル: 7
称号 : -
系統 : 農
スキル: C・火属性魔法〈2〉
名前 : アニカ クマル
種族 : ヒト族
年齢 : 10
レベル: 4
称号 : -
系統 : 知識 魔〈光〉
スキル: C・光属性魔法〈2〉
名前 : アニタ クマル
種族 : ヒト族
年齢 : 7
レベル: 3
称号 : -
系統 : 農 魔〈無〉
スキル: C・無属性魔法〈2〉
小さい変化だが、これまで『人族』だったのを『ヒト族』に書き換えた。
門から出て来て、クズ騎士達やゴーシュのステータスを見た時に『人』と『ヒト』の違いに気付いて、昨夜ニアに聞いたのだ。
「地球では人間と言えば『人』だけですが、カストポルクスでは人間にも様々な種族がいるので『ヒト』と表示して区別しています」
王都の人間に余計な疑念を抱かせない為に、偽装では『ヒト族』表記にしておく。
「な・ん・で! 我が獣人なのじゃ! 年も12じゃと~?」
「ま、まぁ聞いてくれミケ。さっきも言ったが、真の実力者は、強さを隠すだけじゃなくて、相手を欺いて油断させるもんだ。それって知的で凄く格好良くないか?」
「む? 欺いて油断させる? 知的で凄く格好いい? そ、そうかの~? 知的か~、そうじゃな! あざむくぞ! 獣人でもいいぞ、うん」
なんとか俺のワードチョイスで、不服そうなミケをなだめて、このステータスに落ち着いた。
実際は、ミケ達にも魔法のスキルがあることを見せるのは、将来的に大きな利用価値があると思わせることで手荒な扱いをさせない為である。
相手の身の安全の為に、だけどね。
「ん~~? なんだかいつもより進軍速度が速い気がするでの~?」
ゴーシュが首を傾げている。
「そうか? 俺の《フローティング》で、衝撃が伝わらないから速く感じるんじゃないか?」
「いんや、隙間から見える空の流れが速いんだで」
やっぱりゴーシュは気付いたか。……鋭いな。
実は朝、俺達が箱に入る前に全ての馬にアニタの《フィジカルアップ》とアニカの《アクティベーション》を掛けたのだ。
俺の魔法だと効果が出過ぎるかもしれなかったからな。
同じ理由でフィジカルブーストではなく、低位のフィジカルアップを使わせた。
夜に王都に着いたら、明日までの時間がなんか無駄に感じられるから、少しでも早まればいいと思ったんだが……。まずかったかな?
「馬が絶好調なんじゃないか? ――まっ、王都に早く着くんならいいじゃないか」
ゴーシュは、俺達が何かしたと勘付いている様だが、深追いしなかった。
徒歩の騎士もいないし、そもそもクズ騎士達は何も考えていないので、ゲラゲラ笑い声を出しながら騎乗しているから気付いていない。
そうこうして、なんと昼過ぎには王都に到着した。
「……だいぶ早まっちゃったな」
「だから言っておったのだで~」
だが、クズ騎士達は何も考えていないので、早く着いたことに何の違和感も抱いていない。
「俺達、良い馬に当たったな!」
「よし! こいつを俺の馬にしてやろう!」
「これで、飼葉も食わなくていいなら最高なんだけどな~」
ほらな。
王都に着いたはいいものの、王城の敷地内にある遠征騎士団団舎の車止めで、しばらく待たされた。
俺達の発見と移送開始については、あらかじめ早馬で報せてあったが、その到着の報告と指示待ちらしい。
箱から出られたのはいいが、今度はフルオープンの荷台に座らされて待たされている。
「わ~、ヒンドゥーの寺院より全然おっきぃーね!」
「大きいけど……、ちょっと汚いね」
「ユウトとネパールに着く前に見物した寺の方が綺麗じゃったぞ。金ピカで」
ミャンマーのなんとか寺院な。でも、こっちの世界に来て初めてまともに見る建物が王城か。
……確かに、かつては白くて荘厳だったはずだ。
城の主が悪い方に変わると、城も汚くなるんだな。
俺達は何食わぬ顔で気付かない振りをしているが、さっきから視線を感じている。
王城の上層階からだ。隠れて見ているつもりらしい。
「気持ち悪い視線じゃの~」
「なんかやだね~」
「寒気がします」
******エンデランス国王フリス
ふっ! 余の威光に恐れをなした魔人族が撤退し、再び余の威光を行き渡らせるべく騎士どもを行かせてみれば、巨大な門があったという。
そこから出てきた者がおると聞いて、どんなバケモノか覗きに来てみれば……、ただのヒト族ではないか!
野郎が1匹に、雌が3匹か。
どれどれ? 雌はどんな代物だ?
「ほほぉ♪ あの雌どもは幼いが上玉そうだ。ぐふふふ、ジュルッ」
おっと、美味そうで涎が垂れてしまったではないか。
「おい! 余と連合の代表者共で直々に取り調べを行う。男だけ連行せい! あと、処刑の準備も怠るでないぞ」
野郎は首でもはねて、あの雌どもは……、ぐふぅ! ぐへへへへぇ。
「――そこのお前! あの娘どもは余の寝室へ案内しておけ! 決して外へ出すでないぞ!」
ジュルッ
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長編小説です。
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