第52話 老騎士ゴーシュとの会話。
カコン!
俺と爺さんは、ワインで満たしたマグカップで乾杯。
「バハムートの名を知っているんだな? ゴーシュさん」
「……ゴーシュでいいで。バハムートでん――バハムート様の事は良く知っておるよ。さっき話した団長殿こそバハムート様だで」
やはりゴーシュさんは、バハムートの時代から遠征騎士団にいたのだな。
「バハムート様は素晴らしいお方だった。ワシとそれほど年が違わぬのに、壮絶な鍛錬と実戦経験をしておった。王太子であるにも関わらず……」
「【聖剣技】というスキルを持ったが為に。……だろ?」
「――! 何故それをっ!?」
パチパチ……パチッ!
焚火の火が弾け、ゴーシュさんの髭が赤く照らされる。
「ゴーシュさん、俺達があの門から来たのには理由があるんだ。実は――」
かなり省略したが、俺にはバハムートの魂が宿っていて、魔王がバハムートの魂を狙って俺の住む世界に攻めてくる事を知ったので、逆に攻めてきた事を話した。
「証拠になるかは判らないが、……これを見てくれ」
俺はストレージから、ガンダーの巨槌とグンダリデの巨斧を取り出した。
ドシーン!! ドスン!
ゴーシュさんは、いきなり現れた巨槌と巨斧に驚いた表情をしている。
「実際にあの門から攻めてこようとしていたのは、ガンダーの軍団だった。……殲滅したがな」
「――た、確かに……、これは魔王軍第2軍団長、いや、今は第1軍団長か、ガンダーの槌に違いない! ……信じられん。これを君達4人でやったのか?」
槌と斧を仕舞いながら確認する。
「これでも信じられないか?」
「ガ、ガンダーを倒した事は真実だろうが、バハムート様の事は……」
敬愛するバハムートの、こんな突拍子もない話を信じられないのだろう。ゴーシュの表情には、未だに疑念の色が濃い。
「魔王を倒すことだけが目的じゃない。それは、俺の連れの仇討ちでもあるからな。……俺は、バハムートと約束したんだ」
バチッ! パチパチ!
「――いつになるかは解らないが、バハムートの息子のアムートを必ず探すって。ミーナさんもどうしてるかな……」
「なっ! 何故アムート様とミーナ様の事を!!」
「だから言ってるだろ! ほれ、ステータスオープン」
名前 : ユウト ババ
種族 : 人族
年齢 : 24
レベル: 77
称号 : 世界を渡りし者 英雄
系統 : 武〈長剣〉 魔〈全〉 製作 商
スキル: S・聖剣技〈10〉 SS・魔法大全〈9〉
A・言語理解 A・魔力回復‐大‐ A・使用魔力低減‐大‐
B・探知〈6〉
「おおっ! あ~~バハムート様の【聖剣技】!」
ゴーシュは涙を浮かべながら、実際には触ることのできないS・聖剣技〈10〉という表記を、愛おしそうになぞっている。
ようやく信じたのか、この事実を頭の中で整理しているのか、しばらく沈黙が続く。
パチパチ! バチ! バチーンッ!!
ゴーシュさんは、大きく弾けた火の粉が1つ、不規則な軌道で飛んで行くのを見送りながら口を開いた。
「ユウト殿は、大公国を知っているか?」
名前を呼ばれたと思ったら、“殿”なんて。
「ユウトでいいって、俺はバハムートじゃないしな。俺もこれからゴーシュって呼ぶからさ」
「そうかそうか。……で、知っているか? ユウト」
俺の記憶の中のユロレンシア大陸は、地球で例えると、大きさは別にしてオーストラリアが形的には似ているかな。
ユロレンシア大陸の1/5~1/4程をエンデランス王国が占めていた事は知っているが、大公国の存在は知らない。
「いや、俺の持っているバハムートの記憶には無いな」
「そうだろうな。バハムート様がお亡くなりになった後に建国されたでのぅ。まず、――」
バハムートには優秀な若い側近がいた。
バハムートにとって従弟のキース・フォン・マッカラン。公爵家の嫡男だが、バハムートを本当の兄のように慕って、自らも騎士の道を歩んでいた。
そして、バハムートが亡くなった時、近くにいたのにお助けできなかったと悔いていたらしい。
そのキースが、マッカラン大公国の大公である。
余談だが、バハムートに魔法を打ち込んで邪魔をしたのがフリスの配下で、そいつを斬り伏せた騎士の中にゴーシュがいたらしい。
「キースの記憶はある。……でも、あのキースが王国を裏切ったのか?」
バハムートの死後、精神的なショックを受けていた国王を病魔が襲い、国王は急逝。
第2王子のフリスが王位を継承したが、フリスは利己的な悪政を敷いた。
フリスが国王に毒を盛ったんじゃないかという疑惑が、今でも燻っているらしい。
フリスの悪政や暴虐性に苦しむ民や下級貴族の為にキースが立ち上がって、公国を名乗って独立。公国には圧政に苦しむ多くの民や善良な貴族達が集結した。
もちろんフリスがそれを許すはずも無く何度も戦争となるが、その全てで勝利した公国は、領土を拡大して後に大公国と改称した。
これはゴーシュの推測だが、キースは今でもバハムートを“王”として仕えているから、王国や帝国と名乗っていないのではないか、という事だ。
「近年は、再びの魔王軍の脅威を前に、一応の協力関係を築いているがのぉ」
「なるほどぉ、そういう経緯があったのか。――いやいや、それでその大公国がどうしたんだ?」
ゴーシュは更に真剣な顔になった。
「……ワシは、大公国の内通者なんだで」
パチッ! パチパチ!
だから、遠征騎士団を辞めずに残っているのか。愛着もあるんだろうけど。
「――今、この魔力騒ぎで、対魔王連合の首脳が王都に集まっている。ユウトはその場に呼ばれるかもしれない」
キースと直接話す場面もあるかもしれない。
もし無くても、ゴーシュが必ず俺の事を――バハムートの事を伝えるから、いつか会って話をするべきだとのことだ。
「まあ、それがアムートやミーナさんの捜索の役に立つならな……」
「ところでユウトよ、そのステータスを偽装できるかや?」
「偽装?」
「ああ、王城には《アナライズ》使いがおるし、各種ギルドには鑑定石もある。王城でそのステータスが見られれば、命を狙われるじゃろうて」
人間からも命を狙われることになるのかよ!
「《ハイディング》! 《カムフラージュ》! ――どうだ?」
名前 : ユウト ババ
種族 : 人族
年齢 : 1
レベル: 1
称号 : -
系統 : -
スキル: -
とりあえず全部消して、年齢とレベルを1にしてみた。
「――出来てるか?」
「ああ、出来ておるが……これは極端だのぅ。明日夜には王都に着くで、移送中にでも考えておくといいぞ。4人全員だでのぅ」
そうだな、取り調べの為に移送されているんだった。
夜も更けてきたので、ゴーシュを箱まで送り届けた。
……ワインが入ったままのカップは仕舞っておけばよかったな。
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長編小説です。
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