表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

52/121

第51話 老騎士ゴーシュ。


 シュンッ!


 遥か先まで進んでいたが、馬車の車列にある俺達のいた箱の中に転移する。


「おー、戻ったか?」

「――!! えっ?」


 眠らせていたはずの老騎士の突然の呼びかけに驚いた。


「起きていたのか?」

「いんや、さっき起きたばかりだで」


 その割に騒ぎになっていなかった。……他の連中に報せていない?


「居眠りか眠らされたのか、判らんかったぞい? かっかっか!」

「そ、そうか。居眠りだと思うぞ? ……ところで、何で騒ぎになって無いんだ?」


 疑問をストレートにぶつける。


「かっかっか! 君達は逃げないと思ったでの。 ほら、あの騎士達に魔人族を埋葬させたろう?」


 俺の魔法に気付いたってのか!?


「だで、君達は悪い人間ではないと思ったのだよ。……それに、君達は我らを倒そうと思えば、容易(たやす)く倒せるほど強い。捕まったのはワザと……だろう?」


 鋭いな、この爺さん。

 ……確かに、騎士連中はレベルも低く、スキルも持たず、弱かった。


 油断してこの爺さんのステータスを覗いていなかった。

 ……俺のミスだ。

 

 俺達はゆっくりと、ガタガタ揺れる床に腰掛ける。

 ミケ達は、話を俺に任せて黙っている。

 

 改めて爺さんを観察する。

 白髪頭にサンタクロースの様な立派な白ひげをたくわえている。瞳は青く、強い意志を持った者の目だ。

 身に着けている鎧や床に置いてある兜は、年季が入っているが綺麗に手入れされている。

 壁面に立てかけてある爺さんの槍は綺麗で、汚れ1つ付いていない。魔人族の遺体を(もてあそ)んでいないし、略奪もしていないようだ。


「お嬢さん方も、緊張せんでええでの。ゆっくりしんしゃい。――まぁ、揺れてゆっくりできんか? かっかっか!」


 爺さんがミケ達に気を使ってくれている間に、こっそりスマホで《アナライズ》を発動する。


 名前 : ゴーシュ

 種族 : ヒト族

 年齢 : 63

 レベル: 42

 称号 : -

 系統 : 武〈剣〉 隠 

 スキル: B・隠密〈4〉 C・剣技〈8〉 

       

 この爺さん、他の若い奴らに比べて断然強いじゃないか!

 スキル持ちだし、レベルなんて30近くも上だぞ! 《スリープ》の解けが早かったのにも納得だ。

 それにゴーシュという名前。ゴーシュ、ゴーシュ……記憶にあるような無いような。


「《フローティング》」


 俺達だけではなく、爺さんにも掛けてやる。


「お~? すまんのぉ、腰が楽になるわい。かっかっか!」


「……爺さん、名前は?」

「ワシか? ワシはゴーシュじゃ。ワシは貴族では無いから楽にしていいぞ。かっかっか!」


 俺達も一応名前だけは教えて、話を進める。


「爺さん、見たところアンタ、相当強いだろ。何で若造にあんなこと言われて黙っているんだ?」

「ん? ワシか? さっきも言ったが――」


 爺さんは平民で、若い騎士達は大抵が貴族の子弟だそうだ。

 爺さんが15歳になって、騎士学校に入り頭角を現したのを、ある若き団長に見染められて遠征騎士団に入った。

 その団長――おそらくバハムートだろう――が死んでからは、少しずつ腐敗していき、今では素行の悪い貴族子弟達の行きつく先になったとの事。

 弱いとはいえ、貴族子弟。爺さんは、まだ遠征騎士団にいたいので、何も手出しはしないようにしているらしい。


「それで、君達は何故あの門から出てきたんだ?」


 門のある場所はここ十数年間魔人族の領地で、半月以上前に異常な魔力が確認された。そうしたら、しばらくして何故か魔人族が撤退をしたので、遠征騎士団が確認に派遣されたらしい。


「――何日か前にワシらが門を発見したで、どうすべきか悩んでおったら、今日急に門が開き出した上に、君達が出てきたでの」


 ……どうしたらいい? 話すか、騙すか。


“みんな、どうする? 話すか? 隠すか?”

“ユウトに任せておるじゃろ。我らなら何とでも出来るじゃろうから、好きにせい”

“このお爺さん、良い人そうですけど……”

“アニタ眠くなってきた~、寝る~”


 ……よし! 話してみるか。


「ゴーシュさんは、バハムートって知ってるか?」


 一瞬……ほんの一瞬、爺さんの表情が硬くなった。


 ガタゴトガタゴトガタン!


 馬車が止まった。


「どこでその名を……」


「――おい! 老いぼれ! 今日はここに宿営だ。テメェはそのままそこに入ってろってさ!」


 ギャハハハハハハ


 周りがうるさくなり始めて、話どころでは無くなった。



 しばらくして、明かり取りの隙間から硬いパンと何の肉か解らない干し肉が、まるで遊びの道具のように投げ込まれた。


「よし! 俺は2個入れたぞ!」

「く~! 狭すぎるんだよ! おい! 新入り! 入らなかったモン全部拾って来い! もうひと勝負だ」

「ジジイ! てめえの飯もそれだ! ありがたく食ってろ!」

「ギャハハハハハー! ひ~、腹イテ~」


「……ゴーシュさん、遠征騎士団って、いつもこんなことしてるのか?」

「ワシは50年近くここにおるが、年々酷くなっていっておるで困っとるところじゃて……、すまんな、君達の食事なのに」

「いいさ、どうせ食わないから。……ちょうどいい、ゴーシュさんも連れていってやる」


 まず、俺だけ上空に転移して、飛びながら騎士団の宿営地を見渡せて、且つ見つかりにくい高台を見繕って、全員を連れて転移する。


「ひゃ~! 一瞬でこんな所まで……凄いな」

「ここならゆっくり出来るだろう。……まずは晩飯だ」


 爺さんがいる手前、そんなに凝った料理はしない。

 茹でてストレージに保管していたスパゲティに、温めたミートソースをかけて簡単に食べる。


「ん~~! うまいのぉ! こんなに美味い飯は王都でもなかなか出会わんぞい」

「そうか、良かった。まだあるからな。みんなもお代わり自由だぞ!」

「おかわりじゃ!」

「ミケは早すぎるだろー」



 夕食後、丁度いい場所だったのでロックドームを作ってここに泊まる事に決めた。

 ミケ達は寝床の準備をし、そのまま寛いでいる。


 俺と爺さんは焚火の前で、マグカップに入れたワインで乾杯する。


「……で、バハムートの名を知っているんだな? ゴーシュさん」




 俺とゴーシュさんはそれなりに長話をし、いろいろ情報を得ることができた。

 夜も更けてきたので明日の起床時間を確認し、その時間には戻ることにして、ゴーシュさんだけ箱に送っていった。


 シュンッ!


 戻って来て、もう少しワインを飲もうとしたんだが……


 毛をピンク色に染めて、目を回している白狐姿のミケがいた。


「はりぇ~~? みぇぎゃみゃわりゅ~にょじょわ~」

「……ミケ、学習しろよ~」


お読み頂きありがとうございます。

長編小説です。

ブックマーク頂けると嬉しいです。しおり機能等も便利です!


良きところで評価して頂ければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ