第46話 最下層が近い?
70階層を出て、スロープを下る。
次はどんな階層だろうかと思いを巡らせる。
ミケもアニカもアニタも、アンデッドから解放されるので嬉しそうにしている。
これまでなら、ボスフロアを抜けてスロープを下りると、そのまま次の階層に入るのだが、今回はまた扉があった。ボスフロアの扉と同じ扉だ。
「あれ? また扉だね~、ユウトお兄ちゃん?」
「……そうだな。ニア? もしかして……」
「そうですね。近いのかも知れませんよ。最下層が……」
「ユウトさん、私、緊張してきました」
「な~に、入れば判るじゃろ? どうせ進むのじゃ、とっとと入ればよかろう」
まぁ、ミケの言う通りなので、扉を開けて入った。
ブオン! ブン! ブォン! ブオーン!
巨大な斧の刃の部分が、時計の振り子のように振れていて、それが奥に向けていくつも並んでいる。
振り子の並びは一定ではなく、中央に1つあったり、両サイドに1つずつあったりして、まっすぐ進めない感じだ。
振り子の揺れも一定ではなく、ゆっくりな物もあれば、早い物もあり、不規則に揺れている。
空間自体は物凄く奥行きがあって広いが、振り子の刃のせいで行動範囲は限られてしまう。
「そりゃ、大軍のガンダー達の進軍が遅い訳だな……」
「面白そうじゃのぅ?」
「たのしそ~!」
「楽しくないわよアニタ! 怖いですよー」
反応はそれぞれだな。
「《フライ》で飛べば、刃の部分は普通に回避できるぞ?」
「「それじゃーつまんない!」じゃろ!」
「それで行きましょ? ねっ? ミケさんもアニタも、ねっ?」
「「いや!」じゃ!」
ミケとアニタは、完全にワクワクしている……
「よし、俺とアニカは《フライ》で飛んで行く、ミケ達は避けてくる。それでいくか」
「よいぞ」「い~よ~」
「はい、ユウトさんと2人なら安心です」
アニカは、ポッと頬を赤らめて嬉しそうに言った。
「いや、アニカ……、俺達が先に行くという事は、先にボスに当たるって事だぞ?」
「えっ!」
「よ~~~い、ドン!」
なぜか同時スタートになっている。
俺とアニカは《フライ》で先行する。アニカは多少後悔しているようだが……
アニカの手を取って、ハイスピードで進むと、見えてきた。
ライオンの頭、もう1つ山羊の頭、胴体と脚は前がライオンで後ろが山羊? 尻尾があって、それが蛇。
「キマイラだ。ライオンは火炎を吐く。山羊は《スロウ》を掛けてきて、尻尾の蛇は毒を吐くぞ。あと、突進も要注意だ」
体格は、リッチの最初の大きさやジャイアントライノに比べれば小さいが、そのぶん機動性は良さそうだ。
「強そうです~。ユウトさん、どうしましょう?」
「どうするって、やるしかないだろ?」
「そ、そうですけど……2人ですよ?」
「2人だから良いんじゃないか。俺達があいつの後ろに降りると、アイツは向きを変えるだろ? 後から来るミケ達はあいつの背中を取れるんだ、挟み打ちじゃないか」
「そうですね! ……でも、あの2人、来られるかしら?」
ふっ! アニカは心配性だな。微笑ましい位だ。
「あの2人だぞ? 大丈夫に決まってるさ。さっ! いくぞ!」
ミケとアニタには《テレパシー》で挟み打ちするように伝えて、俺達はキマイラの背後に降りた。
やはり、蛇よりはライオンか山羊が主導権を握っているらしく、俺達の方に振り返った。
リッチ戦で魔法への対応もしていたので、山羊の頭は大丈夫だ。アニカにやらせよう。
「俺とアニカに《ハイウォーターフィルム》と《フィジカルブースト》、キマイラに《マジックオブストラクション》。ついでに《グラビティーコントロール》!」
ライオンの火炎対策の水属性防護膜と自分達の強化、キマイラには魔法封じと加重。
「よし! 始めよう」
キマイラは山羊の脚力とライオンの前脚の力強い蹴りで、凄い勢いで突進してくる。
「残念。《ロックウォール》先生!」
ロックウォールに“守り神”として敬意を抱いている俺は、いつの間にかロックウォールを“先生”呼びしている。
ドーーーーーン!
キマイラは、タイミング良く立ち上がった岩壁に激突してダメージを負う。
「先生ありがとう!」
岩壁を消して、俺とアニカが攻撃を叩き込む。
「地這斬り!」
アニカから放たれた強力なスラッシュが、地を這い進んでキマイラの胴体を斬りつけた。
ブメエェェェェェエエーーーーーーー!
続け様に顔面に攻撃を叩き込む。
「トルネードショット!」
俺はライオンの片目を突いて潰して頭に着地。そして勢いを付けて飛び、蛇の尻尾を斬り落とした。
グゴォオオァルルーーーーー!
アニカの元へ戻って《シャドウバインド》と《パラライズ》でキマイラの動きを止めて、2人でバンバン攻撃を続けた。
かなりダメージを与えたところで、リッチの時と同様にキマイラが咆哮をあげて、より攻撃的になった。
ライオンは大きく息を吸い込み、火炎を吐く予備動作に入った。
その時、キマイラの背後に閃光が走って、直後に雷が直撃した。
バンッ! ピッシャーーーーーーン!
「アニタ! ゆくのじゃ~!」
ミケの陰に隠れていたアニタが前に出て、ミケがアニタの背中を押し出した。
「せんじゅざ~~ん!」
凄い勢いで突っ込みながら千手斬を食らわした。
「アニカ! 俺達も畳みかけるぞ!」
「はい!」
「燕返し!」
アニカは山羊の首をV字に斬り裂き、俺はライオンの脳天に刀を突き立てた。
みんな、またレベルが上がっているのだろう。それぞれの技の威力が上がっている。
グガァァアアアアーー! ギュメエエエェェェェ!
断末魔の叫びを残してキマイラは消え去った。
「ふ~、一撃だけじゃが、間に合った。よかったよかった」
「びゅんびゅんして楽しかったよ~」
物凄い勢いで俺達に追いついたミケとアニタが合流する。
「――おいっ! ミケ! どうしたんだ? 何があった!?」
ミケの頭から血が垂れている。
「むっ? これかー。……ちと攻めすぎての~」
「攻めすぎ? キマイラをか?」
「いや~、違うのじゃ……」
「じゃあ何だよ?」
ミケの態度が煮え切らないなぁ。
アニカが《ヒール》でミケの傷を癒し、アニタが《クリーン》で血のりを綺麗にしてくれた。
「あのーそのー、アニタをの? 後ろにつけてトレインしておっての……」
「はっ? トレイン?」
「そうじゃ。後ろにつけて引っ張っておっての、ギリギリを攻めすぎてのぉ、刃がかすっただけじゃ」
トレインして? 攻めて? かすった?
ピンときた。
「ミケ! アニタ! お前たちはロードレース漫画の読み過ぎだ!! こんな時に真似してどうするんだよ!」
「そ、そうなんじゃが、面白くての~?」
「うん! 楽しかった~」
「そんなに楽しいなら、私もやりたかったな~」
「……アニカまで言うか。はぁ」
俺達の攻撃力が強くなってて、それほど時間もかからずに倒すことができたが……
「最下層が近づいているから、迂闊に進まない方が良いな……。疲れを溜めないように今日はここに泊まるべ」
キマイラを倒したら振り子が止まったので、危険もないだろう。
動いていたらまた遊びたくなるだろうし、これで良かったな。
「2夜連続のホールケーキパーティーか? ユウト!」
「やるわけ無いだろ! 今度こそ事件になるぞ!」
「「「え~~~~!」」」
「……でも、そのかわり風呂には入るか」
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長編小説です。
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