第43話 ユウト達以外で初めて特殊能力を自覚した男。( 1/2 )
******ユウト達がダンジョンに入った日の夜。
カトマンズにある在ネパール日本国大使館の地下の一室。
柳田小次郎というルクラのホテルのオーナーがいて、どこかに電話をかけている。首には外務省の職員証が下げられている。
小柄だが浅黒く日焼けした肌と引き締まった体、精悍な顔つきで40代後半ながら30代前半と言っても通じるような容姿をしている。
******ヤナギタ・コジロウ
プーッ、プーッ
「はい」
「42 60993 柳田小次郎。地点ガンマに到着」
「……確認できました。お繋ぎします」
守秘回線だが、一応ラジオを2個大音量でかけているし、水道も流している。……大丈夫だな。
「柳田君か、待っていたよ」
「まさかこんなことになるとは、思ってもいませんでした」
俺は自衛隊から外務省に引き抜かれ、アジア各国の語学を修めた諜報員。
アジア各国で現地に溶け込み、治安や政治状況等の情報収集をしてきた。
「ホテルは大丈夫か? ルクラの様子はどうだ?」
数年前に一線を退き、自衛隊で言う所の即応予備自衛官の様な、有事の際に諜報員として動員される条件でルクラに土地をもらい、登山やトレッキング客相手の宿を営んできた。
「物騒ですよ。軍用車両はバンバン通るし、世界各国の諜報員がいますね」
「指令が出た。今から伝える命令を完遂せよ。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「了解。明朝〇六〇〇より開始致します」
冗談じゃない!!
今更なんでこんなことしなけりゃならんのだ! 命がいくつあっても足りないぞ!
まあ、俺みたいな命なら、本国にはいくらでもあるから使い捨てってか?
「こんなことになるなら、とっとと引退してればよかった……」
――で、俺はルクラにとんぼ返りさせられたワケだ。
「柳田君には、ネパール軍に潜入してもらう。別ルートからの情報では、ネパール軍は軍を再編してエベレストに挑むらしいから、何としてもそこに潜り込め」
チッ! 無茶振りにも程があるってもんだ。
って思ってたら、案外うまくいきそうだ。
というのも、ルクラに着いて町をうろついていたら、よろよろと歩く軍服の男を見つけた。
で、介抱するふりをして話を聞くとそいつは軍曹で、新たに創設される中隊へ合流するために移動しているが、昨日暴漢に襲われて背中を痛めているらしかった。
「その部隊に知り合いはいないのか? そいつに手を貸してもらえば……」
「いや、聞いた限りではいなかったから困ってた所でな……」
チャンス! こいつに決めた。
「何処に何時までに行くんだ? 俺が手を貸してやる」
人気の無い所に連れ込んでっと。
で、見事に入れ替わって、俺はサビン・ガルティー軍曹になった。
今は3日経ってベースキャンプまでの輸送ヘリの中ってワケだ。
ベースキャンプまでの経由地を1つ飛ばすから高山病にならないように気をつけないとな。
それにしても本物のサビン・ガルティーの背中の痣!まるで日本刀で峰打ちされたような一直線の痣だったな……
あれなら俺が殺らなくても途中で死んでただろうな。
ベースキャンプに着くと、既に指揮所が設営されていた。
輸送ヘリが、兵員のみならず大量の物資をピストン輸送でひっきりなしに運んでいる。
心配していたバケモノ共は粗方処分出来たらしいが、なぜか死体は見つかっていないらしい。
陸軍を再編し、急遽作られた100人規模の中隊。
50人規模の小隊が2隊。
その中の5個分隊のうちの1つの長、つまり10人隊の隊長に成り済ますことには成功した。
「さて、この後どうなるか……、今のところ違和感無く溶け込めている」
話によると、2つある小隊のうち1隊が穴に突入し偵察の任務。
もう1隊が補給・輸送任務及び欠員補充要員らしい。
偵察部隊に割り当てられないと、また誰かと入れ替わらなければならないな……
指揮所から戻ってきた小隊長の口から、偵察部隊だと告げられ安堵した。
明日から早速各キャンプ地を経由して山頂を目指すらしい。
――いや、高山病で死ぬだろ!
「既に何十人も兵士がいるのに、何で俺達が呼ばれたんだ?」
と同じ分隊長の奴に聞いたら、独身の兵の中から親族の少ない順に優秀な奴を選んだら、こうなったんだとさ。
死んでも影響は少ないってか?
「装備を分配する。分隊長は集合!」
なんだこれは?
統一感が無い。ほとんどが大勢いた登山家連中からかっぱらった物じゃねえか!
喜ばしい点は、強行軍なので酸素をいくら使ってもいいとお許しが出たことだ。
それとベースキャンプからエベレスト頂上まで4ヶ所のキャンプ地を経由するが、2ヶ所目までは
ヘリで送ってくれる点も嬉しい。
「随分手厚いな、……装備以外」
「欧米が援助をしてるらしいぜ。後で権益よこせって言うつもりなんだろ」
さっきの分隊長が訳知り顔で教えてきた。
中隊長からの伝令で明後日の早朝、ベースキャンプからのヘリ輸送を開始することになった。
「高所順応を疎かにしてるから、酸素マスクが無いときつくなるな……」
輸送ヘリで2ヶ所目のキャンプ地まで運んでもらったものの、辛そうな隊員が多い。
ここを拠点に作業している隊員やシェルパたちはマスクなしで動き回っているのとは対照的だな。
「はぁ~、気が重い……」
俺の覇気の無さが分隊にも伝播しているようで、時折ため息が重なる。
「はぁ~ぁ」
お読み頂きありがとうございます。
長編小説です。
ブックマーク頂けると嬉しいです。しおり機能等も便利です!
良きところで評価して頂ければ幸いです。




