第40話 ここにきてアンデッド……
アニタはギャン泣きで治まる気配がない。
アニカはブルブル震えて俺の後ろに隠れていて、使い物にならない。
ミケは鼻をつまんでそっぽを向いている。
61階層からは一見普通の洞窟だった。
また最初からか? 2周目か? とも思ったが、何か違った。
マグマ地帯以外は適温だったのが、この階層はちょっと寒く、湿り気も多かった。
それにちょっと臭う……というか、クサい!
そして、みんなで歩いて行くと、出た。
スケルトンとゴーストとゾンビ、3体1組で出た。
「キャーーーーー! お化けーーーー!!」
アニカはゴーストを見た途端に俺の後ろに隠れてガクガクブルブル震えている。
「ぎゃーーーーーーーー! がいこつ怖い~~~~~!」
アニタはお化けは平気だったが、骸骨が歩いているのを見てギャン泣きを始めた。
「なんじゃ! この臭いは! 耐えられんぞ! 汚らしいし!」
ミケはもう臭いがダメらしい……
……はぁー、どうしたものか。
「この中でまともなのは、ニアだけか?」
「ユウトさん! スマホ! スマホだけは絶対に仕舞っておいてくださいねっ! 出さないでください! 汚したらダメですからね! 私が隠れるんですから……ねっ?」
「…………」
よし、俺がしっかりしないとなっ。
「アニカ、よく見ておけよ?」
「えぇえぇえぇ? ななあんででですか?」
(え? なんですか?)
「光属性高等魔法 《ピュリフィケーション》」
ふわーっと、清浄な光が3体を包むと、さらさらと消えて行った。
「これが浄化だ。アンデッドにはこれが効くそうだ。アニカも覚えたら何も怖くなくなるから、頑張って倒していこうな? 《フラッシュ》も効くんじゃないか?」
「浄化……。いいですね! それっ。早く使えるようになりたいです!」
少しは前向きになってくれたかな。
「よし! その意気だ。まずは俺も含めて全員に《ライトシールド》を、そして、ミケ以外全員に《ライトフィルム》を張ってくれ」
「はい!」
「これで身体は覆われているし、前も盾で守られている。だから、アニタも大丈夫だぞ?」
「でも~、がいこつが~。グスッ」
「何言ってるんだ。アニタは骸骨より全然強いんだぞ? それに、お化けの怖いアニカだって頑張ってるんだ。お姉ちゃんとなら怖くないだろ?」
「グスン、う~~~~お姉ちゃ~ん」
アニタが泣きやんで、アニカの元へ行ってしがみついた。
「アニカとアニタ、2人で組んでいれば怖いものなしだぞ!」
あとは、ミケに《ウィンドフィルム》でいいな。
「ミケ、これで臭いも汚れもお前には付かなくなったぞ」
「う~む。じゃが触りたくは無いぞ?」
「ミケには雷があるだろ? 雷でも撃っとけ」
「……なんか、我だけ扱いが雑ではないか?」
あ、これ対応間違ったら厄介になるパターンだな……
「何言ってるんだ、いいか? ミケは“特別”強いから、アニカ達と同じ訳にいかないだろ? “特別”なんだから」
ミケの耳元でささやいてやる。
「特別? ……そうか特別か、そうじゃな! 特別な我じゃからしょうがないのぅ! ほれ、お主たち、ゆくぞ!」
……単純で良かった。けど、罪悪感が残るな、これ。
進み始めた当初は、俺の浄化かミケの雷で倒していたが、徐々に慣れてきたアニカ達も参戦するようになった。
「ユウトさん! 《フラッシュ》も少しは効くみたいです! 次は《ライトバインド》とか《ヒール》も試してみます!」
「ユウトお兄ちゃん! がいこつ、弱かった~。もう怖くないよ~!」
62階層を掃討したところでお昼の時間になったが……
みんなここでは食べたくない、上に戻れと言うので仕方なく60階層へ戻った。
俺の転移で戻れたので一瞬だったが、これ、夜もここに来るって言うよな、絶対……
「今日はもういいじゃろ? あんな臭い所」
「そうです! せっかく戻って来たんですからわざわざ行かなくても……」
「さんせ~い!」
「それじゃー何日も臭い所に通う事になるぞ? いいのか?」
昼食後、あんまり乗り気でない3人をせっついて63階層へ向かう。
そこからは新たに、剣を持ったスケルトンソルジャー、簡単な魔法を使ってくるレイス、少し知能を持ったグ―ルも出現するようになった。
スケルトン系やゾンビ・グ―ルは、出来るだけ物理攻撃で倒し、ゴースト・レイスはアニカに光属性魔法で倒させていった。
まあ、途中で臭いに痺れを切らしたミケが、雷で一掃する場面もあったが……
66階層を掃討して今日は打ち止めという事で、60階層に舞い戻った。
「ほら! 今日頑張ったから、明日の午前中でこのアンデッドゾーンを抜けられそうだぞ?」
「……そんなことより風呂じゃ風呂! 臭いが染み付いていそうで気持ち悪いのじゃ」
ミケ達が3人で寝床や夕食の準備をするからと、風呂の用意を催促された。
「ほれほれ、早う風呂の用意をするのじゃ! 頼むから」
という事で、急いで風呂を作り、みんなで入浴を済ませてからの夕食。
約束通りミケ達が夕食の用意をして、座って待っている俺に持って来てくれた。
アニカとアニタが作ってくれたサラダとスープ、そしてパン。
そして、ミケが担当したメイン料理。
真黒に焦げた何かを……
「ミケさんや……これは?」
「うん? これか? これは我が焼いた牛肉の串焼きじゃ。塩を振ってあるから、何もつけなくて大丈夫じゃ」
もう一度お皿に目をやる。
……やっぱり真黒い物体だ。とても牛肉には見えないぞ?
アニカとアニタは気まずいのか、俺と目を合わせようとしない……
「ささっ! ユウトも今日は疲れたじゃろ? 風呂も作ってもらったしのぅ。早う食べるのじゃ」
うっ! これを? ……えーい! 覚悟を決めろ! 俺! 男だろ!
勇気を出して一口食べる。
じゃりじゃり、じゃりじゃり。
……やっぱりな。牛肉の面影は無い。焦げの面影すら無い。炭だ。
昼食後に無理矢理攻略に連れ出した俺への当てつけか? それとも本気で作ってこれなのか……
「よし、我も食べるとするか! いただきま~すなのじゃ」
一口食べて、静かに黒い物質を皿に戻した。
ワナワナと震え、両方の拳を握りしめて、急に立ち上がった。
「なんじゃーーーーー! この苦いだけの物体はーーーーー! 肉はどこに行ったのじゃーーー!」
後者か……
お読み頂きありがとうございます。
長編小説です。
ブックマーク頂けると嬉しいです。しおり機能等も便利です!
良きところで評価して頂ければ幸いです。




