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第28話 塔攻略、佳境に入る。


「おいおい、二正面の戦闘になるじゃないか」


 塔ではダンジョンモンスターとの戦闘、下からの魔王軍との戦闘、2つの勢力への対応が必要になるな。

 3体のライノがドシンドシンと音を立てて、巨体を揺らしながらこの階層へ入ってきている。

 そして、仲間であったであろうブラックウルフやオーガの死体を食べている。


「ユウトよ、あれの相手は我がしてこよう」

「俺が行ってもいいんだぞ?」

「ほれ、アニカ達が少し攻めあぐねておるぞ。助言でもしてやるがいい」


 確かにワイバーンの体表はこれまでのモンスターとは違い、硬めの鱗に覆われていて攻撃が通りにくくなっている。

 そして、攻撃自体もワイバーンの挙動、動きの緩急に惑わされてヒットし難いようだ。


「そうだな。あっちの対応はミケに任せる。ニア、ライノの特徴は?」

「はい、角での突き上げと突進の体当たりです。ダッシュ能力があるので結構速いですが、ミケさんが戦うなら何の問題もありませんね」


 そう言って、ニアはミケにアイコンタクトを送った。


「その通りじゃ」


「念の為に《スロウ》でも掛けるか?」

「心配無用じゃ、ほれ、行ってやらんか。我も任された」


 フライに加えて《フィジカルブースト》を追加で掛けてやって、ミケを送りだした。


「さて、あの2人は? っと」


 二手に分かれて挟み込む形には出来ているが、いまいち連続攻撃に繋げられないようだな。

 有効な攻撃がなかなか出来ないが、かと言ってやられているわけではない、という感じか。

 これまでの相手は武器でのゴリ押しで通じるような敵だったが、少し考えてもらうか。


「アニカ! アニタ! 武器だけじゃなくて自分が今使える魔法を効果的に使ってみろ」

「はい!」

「は~い! 何にしよ~?」


 そういえば、この2、3日ステータスを見てないな。

 ……使える魔法も増えているはずだけどな。


 ワイバーンの正面に対峙しているアニカが《ライトシールド》を張った。

 尻尾の攻撃を防ぐためか、軌道を限定するためだろうな。


「アニタ! ピカッと光るから後ろに隠れて眩しくないようにしてね? そうしたら翼を切っちゃて!」

「わかったよ~。《センスアップ》!」


 アニタは自分の感覚を鋭くして、すぐに反応できるようにした様だ。


 「《フラッシュ》!」


 ワイバーンの目の前で薙刀を揺らめかせ、視線を誘導してからのフラッシュ。これは効いただろうな。

 そして、アニタが後方から短剣術スキル、乱切りで翼を含む背中一帯を切りつけ、ワイバーンを落とす。


「ダブルスラッシュー!」


 落ち行くワイバーンをアニカが追い、スキルをぶつける。

 それだけで終わらず、床に叩きつけられたワイバーンにアニタがトドメを狙って一撃を繰り出す。


「すくりゅ~しょっと~!」


 ワイバーンは、「ギイイイイエエエェェェェェ!」と断末魔の叫びを残して消えた。




「お! 終わったようじゃの?」

「ああ、あの2人の吸収力というか、学習能力の高さには感心するよ」

「早速じゃが、あの出口、塞いだ方が良いかもしれんぞ。塔のモンスターも、また大群かも知れぬからの。ここは代わろう」

「そうだな、行ってくる」



 階層出口を塞ぎに行くと、ライノの死体が横たわっている。

 死体には多少焦げた跡があるものの、雷の痕が無く、爪撃によって殺されている。


「そう言えば、途中で雷の音もしなかったな……」


 

 出口を塞いで皆のもとに戻ると、既に上空にワイバーンの群れが見えていた。


 バチバチバチバチッ! ボワァ~! チリチリチリ……


 ミケが39階層で見せた“電気の層”を放った。

 ワイバーンの大群は電気に打たれたようにビクッと体を硬直させ、その所為でコントロールを失って、ぶつかり合いながら落ちてくる。


「ミケ、ナイスだ。魔王軍が蓋をブチ破って来るかも知れないから、早めにやっちゃおう」


 俺が《スリープ》と《シャドウバインド》で全ての動きを封じ、全員でトドメを刺して回る。

 地面に落ちたワイバーンを俺とミケで始末していく。


「そうだ、ミケ? ライノには雷を使ってなかったな?」

「お? 気付いたかユウト。出口の方に魔人族の気配があってのぉ、姿は見えなかったがこちらを窺っておった」

「ほう?」

「上に来た馬鹿とは違って知恵も警戒心もある様であったから、念の為に隠したのじゃ。倒す頃には居なくなっておった」


 ミケがそこまで考えを巡らせてくれるとは……


「おお! 偉いぞ! 愛い愛い」

「えへへ~、もっと言ってよいぞ?」


「さ、アニカ達がトドメを刺し終わったら次が来るぞ。2、4、6、8、9、次は9階か。行くぞ!」


 念の為に《ロックウォール》を重ね掛けして、さながらピラミッドの様にしておいた。


「ユウトー! もっと言わんかー!!」



「終わったか~?」

「もうちょっとです。ぜ、全力で刺さないと効かなくて……。ぐむ~、えいっ!」

「そうだな、硬いけど頑張れ」


 アニタには出来る限り自分の《フィジカルアップ》を使わせ、アニカには《フィジカルブースト》を掛けているが、子供の筋力だから仕方ない。




「ふ~、おわった~」

「やっと終わりました~」

「よくやり切ったのじゃ、ご苦労ご苦労」


 2人はミケに頭を撫でられてご満悦の表情をしている。


 

 下の階に下りてすぐ、ミケが感づいた。


「来る! 速いぞ!」


 反射的にアニカとアニタをかばいつつ、出し慣れている《ロックウォール》を張る。ミケはすでに飛び退き、姿を隠している。


 ドッガーーーーーーン!


 プロレスラーかと言うような見事なミサイルキックの姿勢で、モンスターが岩壁を突き破ってきた。

 そいつはすぐさま地面を蹴って空へと舞い上がり、空中で静止して腕組みをしながら俺達を見下ろしている。

 そりゃ岩壁も突き破るわ。思わず納得してしまうような、見事なプロレスラー体型。


 赤らんだ肌に深紅の翼、そしてワシの様な頭。


「……ニア、あれはガルーダか?」

「はい。体長は2m程しかありませんが、鋼の様な肉体とハーピー以上の風操作、飛行速度もずば抜けて速いです」


「キィィィェェェェエエエエエーーーーーーーー!」


 甲高い鳴き声と共に、翼を俺達の方向に一振りする。

 ハーピーのそれとは比較にならない程の突風が渦を巻き襲ってくる。

 

 その時、ガルーダの遥か上から一筋の閃光が走り、ガルーダの頭に光の先端が接触した。


 ドッシャ―ーーーーーーン!


 ミケの雷だ。

 ガルーダの頭は衝撃で吹き飛び、身体は絶命したことを示すようにサラサラと消えていった。

 雷が発生した位置にはミケが腕組みをして、仁王立ちでニヤリと俺達を見下ろしている。


「「「……えっ?」」」


「どうじゃ! 我らを見下ろす不届き者にはこの位の裁きが相応しいであろう?」

「「「……えっ?」」」


お読み頂きありがとうございます。

長編小説です。

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