第18話 ジャイアントオーク襲来。
「客人? 下から?」
まだ頭が回らない。
ドゴーン! ダン! ダン! ダン! ドゴーン!
「ああ? あの音のことか! ……そう言えば昨日は《ロックウォール》1発分しか埋めてないな、破られるな」
「何体かで叩いておるが、恐らく1体強烈な力の奴がおるぞ」
アニカとアニタも起こし、戦闘に備えさせる。
休みなく叩いているな、壁も限界が近いだろう。
ドガガーーーーーン!
岩壁が吹き飛び、破片が木々を直撃する音が聞こえてくる。
ドシンドシンと、明らかに重量級のモンスターが歩いている振動が響いてくる。
これまで薄暗かった階層内がポワッポワッと明るくなっていく。
「どんな奴が来たんだ? ちょっと見てくるか」
《フライ》を使って向かうと、顔が木々と同じくらいの高さに出ている豚がいた。
でっぷりと太った腹も見える。
「3mはあるな、……イエティよりデカイし太いぞ」
その1体よりは背の低い奴がちらほら見え隠れしている。
一応、《魔力探知》で数を探ると5体とデカイ奴1体だ。
みな2足歩行で、手には棍棒を持っている。
「ニア、あの豚どもはバハムートの記憶ではオークだったか?」
「はい、小さい方は。……と言っても2m近くありますが、オークです。大きいのはジャイアントオークです」
結構ストレートなネーミングだな……
「あの体格ですから、スピードはそれ程でもありませんが、力は強いですよ」
「だろうな。……よし、戻るか」
宿営場所に戻ると、3人とも戦闘準備を整えて、テントも片付けようとしている。
「ああ、テントとかはあとで片付けよう。モンスターを見てきたぞ」
「どうするかの前に、ステータス確認しとくか」
名前 : ユウト ババ
レベル: 15
スキル: S・聖剣技〈10〉 SS・魔法大全〈8〉
A・言語理解 A・魔力回復‐大‐ A・使用魔力低減‐大‐ C・察知〈2〉
名前 : ミケ
レベル: 20
スキル: SS・操雷〈10〉 A・言語理解 C・察知〈4〉
名前 : アニカ クマル
レベル: 18
スキル: A・言語理解 A・強靭〈2〉 C・槍技〈3〉 C・光属性魔法〈2〉
名前 : アニタ クマル
レベル: 18
スキル: A・言語理解 A・感知〈2〉 C・短剣技〈3〉 C・無属性魔法〈2〉
「よし!全員レベルも上がってるし、スキルも伸びてるからいけるだろう」
「ユウトお兄ちゃん、ククリナイフもう1本ちょうだ~い」
「どうした? アニタ」
「なんかねぇ~、両手で出来そうなの!」
二刀流?
「おお!そうか。すごいなぁ。……でも無理するなよ、1本はナイフベルトに収めといて、いけそうだったら使いなよ?」
「うん、ありがとう!」
みんなでモンスターの情報を共有した所で、
「さて、奥のジャイアントオークは、俺が背後に降りて気を引いてタイマンに持ち込む。ミケは、連れのオーク5体を引き付けてくれ。殺るのは3体な。俺よりも骨が折れると思うがな」
「任せい」
「で、アニカ、アニタ、お前たちはオーク1体ずつを一人で片付けてみろ。やれるか?」
「はい! 頑張ります!」
「やってみる~」
「力が強いから、攻撃を受けちゃったらダメだぞ? 避けるんだ。当たらなければどうということはない。森の中で戦うから、木を防御にも攻撃にも利用するんだぞ!」
「「はい!」」
『当たらなければどうということはない』
……ああ、これも言ってみたかったセリフ。
言えてよかった……
全員に俺の《フィジカルブースト》をかける。
まあ、俺とミケにはついでだけどな。
オークたちは、止まることなく森の中を歩いている。
「じゃ、俺は行く。ミケは2人を頼むぞ!」
「了解じゃ」
今回は奇襲じゃなく、正面から戦ってみるか。
ガサガサッと音を立てて、敢えてジャイアントオークが気付くように降りる。
ジャイアントオークは反応して俺に振り返った。……やっぱりノロい。
「よう、おデブちゃん。やろうか?」
刀は抜いておくが、構えない。
雷の音が一発聞こえてくる。
……あっちは始まったな。
ジャイアントオークまで雷の音に気を取られちゃってるから、ちょっと挑発するか。
「お前の相手はこっちなんだけどなあ?」
無造作に相手の間合いに入り、3mの巨体に笑いかける。
「グギッ! ブヴォーーーーーーー!!」
ジャイアントオークはこめかみに血管を浮き立たせ、怒りのままに棍棒を振り上げる。
「遅いって」
スピードで上回っている俺は、ササッとコイツの後ろに回り込み、踏ん張っている足のアキレス腱を切る……つもりが、切れ味が良過ぎて足首ごと切断してしまった。
「ありゃ」
「グワーーーー」
ジャイアントオークが叫び声をあげてうつ伏せに倒れたので、俺はコイツの頭の真横に移動する。
オークは起き上がるべく、腕に力を込め腕立ての姿勢になった。真横に現れた俺をギロリと睨みつけるが、もう遅い。
「斬首刑に処す」
十分な体勢から刀を振り下ろす。
首と胴体がきれいに分かれる。奴の目は、さらさらと消えるまで俺を睨みつけたままだった。
魔石はアニカの握りこぶし位だな。
「このくらいの大きさで、あの巨体の生命活動を支えられるんだから凄いよな……」
オーク共が侵入してきた奥からは気配はないが、一応邪魔されないように改めて通路を塞いでから3人の元へ飛んで移動する。
ミケが腕を組みながら2人の戦いを見守っていた。
「ミケ、お疲れ。どうだ?」
「うむ。間もなく終わるであろう。成長しておる」
アニカが対峙しているオークは腕から血を流し、棍棒はもう持っていない。
この短時間で、まずオークを無力化したようだ。
アニカはフェイントのようにオークの足元に槍を突きだすと、オークはサッと後ろへ飛び退くが……、そこには木があってオークは退路を塞がれてしまう。
「ハァ!」
すかさずアニカがオークの胸元に二段突きを放ち決着。
アニカは額に浮かんだ汗を拭い、「ふ~」と息をついた。
アニタは……? と、目をやる。
「こっちこっち、こっちだよ~」
アニタは、ヒューヒューと息を切らしながら棍棒を振り回すオークを翻弄するように、木々の間を駆け回っている。
しびれを切らしたオークが渾身の力を込めて棍棒を振りぬくも、強かに木に打ちつけ、棍棒は弾けて腕が痺れたようだ。
「てや~、パラレルすら~っしゅ!」
アニタがオークの顔面に向け、スラッシュ? を横なぎに放った。
オークが両手で顔面を守ろうとするが、放たれたスラッシュは平行に2本に分かれて、その腕と胸を深く斬り裂き決着がついた。
俺とミケの姿を見つけると、大きく手を振り振り無邪気に笑う。
「見た~?」
「……強くない? あの2人」
「うむ。ユウトが言っておったであろう。それを守っておったわ」
『どう戦うかは敵を見てからだ。油断するなよ?』
『冷静に、落ち着いて状況を判断するんだぞ?』
「アニカは脅威となる武器を先に排除し、アニタは地形を利用し翻弄しおった。ユウトの言ったことを実践出来ておる。愛いのぅ」
「……で、ミケは?」
「聞くのも野暮なほどの瞬殺じゃ。愛いじゃろ?」
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長編小説です。
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