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第112話 黒く巨大な何か。


「意地でも押さえ込めぇ! 耐えないと俺らがやられるぞっ!」

「あんな死に方は御免だ! 死ぬ気でやるぞっ!」

「おうっ!」「オー!」


 大声のした方向では、1人の龍人が大木の幹に縄で(くく)られていて、それを多くの龍人が押さえつけていた。

 胴体を括られているだけでなく、両手が上に伸ばされて手首から肘にかけて、グルグルと木に括られている。


「ぐっ! ぐおぉおー! グヲオオォォォォーーー!」


 木に括られている龍人の顔は苦悶の表情で、(うめ)き声が酷くなっていく。

 龍人が呻くにつれて、そいつの腕がみるみる黒く変色し、ミチミチと肥大化していった。鋭い爪も生えている。


「グワァァァァアアアー!」


 龍人がもう一度、酷く呻くと腕の巨大化に耐えきれなくなった縄がはち切れた。

 ソイツの腕やそれを括る縄を必死に押さえていた他の龍人は、巨大な腕に払い飛ばされ、胴体側を押さえている龍人達が次々と掴まれて、握り潰されたり裂かれていく。


「なんだありゃ」

「正気では無くなっておるの」

「狂化か?」

[でもユウト様、あの腕って私達ドラゴンの腕に似ていませんか?]

「私もそう見えます」「そ~だね~」

「そう言われれば、そう見えるな」


「やべエ! 逃げろ」「やられちまう!」「今回はヤベエぞ!」


 下の龍人達は、その場から逃げようとしているが、間に合わない奴ら数人が両手で次々と裂かれていった。


「アアアアアギャァアアア!」


 とうとう顔までもドラゴンのように変わり、足も胴体も黒く巨大化、括っている縄もはち切れそうになる。

 もはや龍人の面影も無くなったソイツが足を踏ん張ると、大木を根こそぎ抜いて立ち上がった。


 ミシミシミシ――バチン! ドスンッ! バサバサッ


 とうとう縄がはち切れて、ソイツが自由の身になった。大きさは7~8m程になり、龍人の4~5倍の身長で、厚みなんかは比較にすらならない。

 怪獣映画の怪獣のようだ。ピルムの“人化”のように、龍人の“龍化”とでも言おうか。


 ソイツはググッと力を溜めると、物凄いスピードで走りだした。

 方向はマッカラン軍の方だ!


「まずい! ミケ、追ってくれ!」

「うむ」


 俺はアニカ・アニタとピルムに、下にいる龍人を捕らえておくように頼む。


「殺すな――出来るだけ殺すなよ? 聞きたい事があるから」

「[はいっ!」]「うん!」


 俺もアイツを追う。

 先に追ってくれていたミケが追いついていて、白狐姿でソイツと組みあって止めていた。

 ミケは相手を前脚でしっかりと組み止めていて、勢いは完全に削いでいる。


「ミケ! 俺はマッカランの指揮官のところに行ってくる! もう少しの間、止めていてくれ!」

「おう!」


 マッカラン軍は、陣を動かずにミケ達の取っ組み合いを見ている。

 俺はその中に飛び込んで、指揮官に声を張る。


「説明は後でする! ここから退くかもっと守りを固めていろ!」


 それだけ言って、ミケの元に急いで戻った。

 ミケが上手く組み止めていてくれたおかげで、俺はどこからでも攻撃を叩き込める状態だ。


 俺は相手の背後に回り込み、踏ん張れないように相手のひざ裏やアキレス腱を狙って、次々と刀を打ち込む。


「なんだ?」


 俺がつけた切り口からは、血液ではなく黒いモヤがふわっと漏れただけで、すぐに傷が塞がった。


「ユウトよ! こ奴もハウラケアノスと同じで、傷が塞がりよる。じゃが、力はそれ程でもないぞ」


 おまけに思考も無さそうだ。ハウラケアノスの劣化版みたいなもんかな。


「ミケ! ミケが上手く抑えてくれているから、今後の為にも色々試してみてもいいか?」

「良いが、顔を突き合わせている我の苦労も考えるのじゃ! 早めに終えるのじゃぞ」

「わかった!」


 ミケがいるので強力な魔法は使えないが、各属性の魔法を試していく。

 

 火・水・風・地は、回復はされるものの多少の効果はあるようだが、闇魔法はあまり効果が感じられなかった。

 その分、光属性はやはり効果があるようだった。攻撃的な魔法は無いが、光魔法の当たった部分が、(ただ)れたようになって回復速度も(にぶ)い。


ピュリフィケーション( 浄 化 )》を刀に付与し、相手にもバンバン《ピュリフィケーション》を放つ。

 背後を取っている俺は、背中・足・首の隔てなく攻撃を叩き込む。

 ミケも隙を見て爪撃を叩き込んでいく。


「グヲオオォォォォァアアーーー!」


 すると、苦しそうな呻き声をあげるようになり、傷も塞がらなくなっていった。

 トドメだ! と、相手の肩口から腰にかけて袈裟斬りにする。


「ギャァアアアー」


 切り口からブワッと黒いモヤが吹き出して散っていき、切り刻まれ息絶えた龍人の死骸だけが残った。


「魔法を試せたのは収穫だな」

「我が捕まえておったがこそじゃな?」

「ああ、そうだな」

「見返りは? ケーキかのう?」


「……雪○大福アイスでどうだ?」

「2個1パックの2個ともでどうじゃ?」

「それでいい」

「よし! 取引成立じゃ」


 ミケにアイスをやると、さっそくパクついている。

 俺は、またマッカラン軍の指揮官の元へ行き、「仲間に魔人族を捕らえさせているので、話を聞いてくる」と伝えて、龍人の死骸を持ってアニカ達の方へ向かう。

 ミケもアイスの冷たさに(もだ)えつつ、アニカ達にバレないように口元を入念に拭いながら付いてきた。


 アニカ達は龍人族を捕まえ終えていて、1ヵ所にまとめてくれていた。

 更に奥にドラゴンも数体いたらしいが、ピルムの一喝で“ドラゴンの巣”に帰って行ったそうだ。

 俺は捕まった龍人族の連中に見える場所に死骸を置いて、体格のいい奴に問いかける。


「これで全部か?」

「い、生き残ったのはな……」

「いつからだ? コイツがバケモノみたいになったのは」

「あの変な音と振動があってからだ。最初は多少凶暴になった程度で、すぐに正気に戻っていたんだ。それが回数を重ねるごとに酷くなって……」


「なぜ生かしておいた! こんなにお前らの仲間が犠牲になっているのに」

「こ、この方はウチの指揮官だ。正気に戻った時に木に括らせてもらって、昨日から魔大陸に使いをやってハウラケアノス様やテミティズの判断を待っているんだ」


 こいつらに情報は届いていないのか?


「テミティズは死んだぞ? ハウラケアノスに殺されてな。そのハウラケアノスもどっかに消えたしな」

「なんだと!? そんな――いや、ヒト族には騙されんぞ! そんなこと誰が信じるか!」


 その後、何度か本当だと言っても取り合わないので、俺もイライラしていると、ちょうどいいタイミングで魔大陸に行っていた龍人が戻ってきた。

 俺達と縛られている仲間を見て動揺していたが、さっさと取り押さえて同じように縛りつける。

 そいつから魔大陸の話を聞いた龍人達は、俺の話に納得したようだ。


「お前達は、指揮官が不在な上に戦力の低下が激しい。マッカラン大公国は領土拡大の野心は無いし、ここはお前達の領土だろ? 悪い事は言わないから、停戦しろ。そうすればマッカランも陣を下げるだろうし、お前たちの領土が無くなる危険も無い」


 龍人族は、俺の提案に乗った。

 マッカラン側にも龍人族の状況を伝え、お互いの合意の上で陣を下げて、停戦となった。

 マッカランの指揮官には、キースへの連絡を頼み、龍人族にはハウラケアノスの事で釘を刺しておく。


「後になれば分かる事だが、ハウラケアノスは龍人では無いようだぞ? どちらかと言えば、今のバケモノ以上の奴だ。決して龍人族の為にならないぞ? よく考えておけ」


 そうして俺達は、“黒の大陸”へ向けて飛び立った。


お読み頂きありがとうございます。

長編小説です。

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