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第109話 ミケ達の宴会とタコ料理。


 ドワーフ達から逃げて、エンデランスの王都郊外に転移した。

 

 一応ピルムとメルティナに認識阻害をかけて、王城方面に飛んで行く。

 王都に入ると、様子が変だった。人々が一方向、王城の方に向かっているのだ。


「みんな王城に向かっている。何かあったのかな?」


 王権奪還作戦の時の様な張り詰めた感じはしないが、皆がみんなだからな……

 人々は城門前の広場に集まっていた。

 夕暮れ時に差し掛かった城門前の広場にポツポツと松明の明かりが灯っているが、すごい人だかりだ。


 広場のみならず、城の敷地内でも松明以外の火が焚かれ、そこかしこからいい匂いが漂ってきている。

 俺達はそのまま飛んで行くと、騎士団舎前の広場で、ミケ達の姿を見つけた。


 テーブルもたくさん並べられていて、ミケ達は特等席というか結婚披露宴の“高砂席”みたいに一段高くなった席にいて、何かをバクバク食べている。

 近くにはゴーシュや、この前見た近衛騎士団長の姿もあった。


 ドラゴンのピルムは直接下りる訳にはいかないから、《グラビティーコントロール》で体重を軽くした上で、ミケ達に近い建物の屋根に下りてもらう。

 俺がミケ達の近くに下りると、アニタが真っ先に気づいた。


「あ~! ユウトお兄ちゃん! ピルムもいる~」

「おーユウトよ。やっと戻ってきおったか」

「お帰りなさい。ユウトさん!」


 アニタがピルムに手を振っていたので、周りの騎士達もピルムに気付いて騒ぎになりかけた。

 だが、そこはゴーシュや近衛の団長の一喝で鎮まった。


「よう来たな、ユウト殿」

「ゴーシュ、これは何の騒ぎだ? 城門前の広場もそうだったけど……何かのお祭りか?」

「かっかっか! 祭りと言えば祭りかのぅ?」


 ゴーシュはもう1度豪快に笑うと、説明してくれた。


 ここエンデランスでも、異変によってモンスターが暴れたのだが、人的・物的被害も無く早期殲滅できたとの事。

 それで、アムートが労いと祝勝の会を開いてくれているのだそうだ。


「そのモンスターっちゅうのが、巨大なハンマーヘッドバイソンに率いられたラッシュバイソンの群れだで」


 ラッシュバイソンの群れだけでも中規模の城壁なら突進で破壊されるほどの威力があるのに、それがハンマーヘッドバイソンに率いられると数倍上の破壊力を持つようになってしまうらしかった。


「ミケ殿、アニカ殿、アニタ殿の活躍は目覚ましく、モンスターのほとんどを3人で倒したと言っても過言ではないぞい」


 王都にモンスターの凶暴化の報がもたらされた時に、ミケ達が真っ先に飛び出していき、騎士団が到着する頃には壊滅させていたそうだ。


 その活躍を受けて、アムートがミケ達に『功労勲章』を授けようとしたら、「そんな腹に溜まらん様な物を貰っても無駄じゃ、それよりもこの大物の肉を寄越すのじゃ。小物の肉も食ってみたいの~」と言ったらしい。


「だで、この宴だ」

「現場に遅れて来たこ奴らが、バイソンの肉は美味いと言っておるのが聞こえてのぅ。我も食べたくなったのじゃ」

「でも、ミケさんもアニタもやり過ぎて、全体の半分くらいは食べられる状態じゃなかったんですよ?」

「えへへ~。先においしいって知ってたらよかったね?」

「……」


 そこからは騎士団総出で王都までバイソンを運んで、冒険者ギルドの解体部門や精肉店が総出で解体し、この宴に振る舞っているらしい。

 ハンマーヘッドバイソンの解体肉はアニタが収納しているという。


「本当に魔石は要らんのか?」

「要らん。魔石ならまだたんまり持っておる。いいじゃろ? ユウトよ」

「ああ、大丈夫だ。そうか、そんなに美味いなら俺も食べたいな」

「いいよ~、これあげる!」

「ありがとう。――って、また食べかけじゃないか! 食べるけど……美味いな」


 ――なんて、さっきから普通にしゃべっているけど、非常に気になる事が1つある。


「ところで……ミケが座っている椅子って、謁見の間にあった玉座じゃないか? フリスが座ってたヤツ!」


 そう、“高砂席”のミケの椅子が場違いに華美なのだ。

 他の騎士達が木製ベンチや木の椅子なのに、アニカとアニタの椅子も高級そうな椅子だ。


 そこに、周りの騎士達から「陛下!」「陛下だ」という歓声に近い声が聞こえてきた。

 王城からアムートが護衛を伴って出てきて、俺達の方にやってくる。


「ユウト殿! ミケ殿達のおかげで被害を押さえる事ができました。ユウト殿が彼女達を我が国に残しておいて下さったおかげです。ありがとうございます」

「とんでもない! 活躍したとは言え、王様の座る椅子まで持ち出さなくても……」


 聞くと、王の椅子については長く続いた負の歴史を断ち切る為に一新するらしく、どうせなら今回大活躍したミケ達に座ってもらおうと考えたらしい。

 アムートが騎士達に労いの挨拶をし、改めてアムートも参加しての宴会が始まった。


 ピルムにも肉を出してくれた。

 巨大なドラゴンだからと大量に肉をくれたので、騎士や城門前広場の民衆の分が心配になったが、いい事を思いついた。


「アム――陛下はこれを食べた事ありますか?」


 騎士達のテーブルをいくつか空けてから、そこに昼間に倒したヴィランオクトパスの足を出す。


 ドンッ!


 6人用のテーブル2つ分以上の幅と、3つ縦に並べたくらいの長さはある。


「ギャー!」「な、なんだこれは!?」と、騎士達が騒ぐ。


「こ、これは、もしや……オクトパス? いや巨大過ぎないか?」

「これは、ヴィランオクトパスの足――の一部。ドワーフの国の海で暴れていたのを今日の昼間に倒してきたんです」

「食べた事あるかとは……食べられるの、か?」


 周囲の護衛騎士や、近衛騎士団長が止めに入る。


「いくら口で説明しても、信じられないでしょう? 俺達が料理しますから、食べてみましょう」


 と言っても、アニカもアニタも海の無いネパールのルクラで育ったので、タコを食べた事が無いという。

 俺が説明しながら、切ったり炒めたりを手伝ってもらう。


 焼き台を借りて、何種類かタコ料理を作る。

 アムートにも食べてもらうので、念の為に《デトックス》や《クリーン》をして調理する。


 巨大なタコ足をアニカにスライスしてもらい、アニタに二刀流で一口サイズにしてもらう。


『ヴィランオクトパスと野菜のアヒージョ』

『ヴィランオクトパスのバター炒め』

『ヴィランオクトパスのシンプル唐揚げ』


「俺の腕だと、時間をかけないのはこれくらいしかできないな」

「おお! 美味そうじゃのぅ。どれ? ……おお! 美味いのぅ!」


 ミケのリアクションを見て、アムートも恐る恐る口に運ぶ。


「おおっ! これは美味しい! 食感がそれぞれ違いますなぁ。どれも美味しい」


 バイソンの肉を焼いていた料理番達にも手伝ってもらい、足1本分使い切るほど作った。

 これまでタコを食べる習慣の無かったようだが、民衆たちもこれからタコ料理が広まって行くだろうと言っていた。


 時間があれば煮物とか、炊き込みご飯とか作れるだろうけど、こっちには米は無さそうだしな。

 ……あれ? 俺はタコ料理を広めに来たのか?


お読み頂きありがとうございます。

長編小説です。

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